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Vol.148 コロナショックが入試に及ぼす影響(高校入試編)
東京や大阪などのいくつかの自治体では、すでに令和3年度の公立高校入試について「中学3年の内容を一部削減する」との発表がありました。中3生への配慮は当然として、中1・中2生や小学生といった非受験学年への対応は聞こえてきません。たとえ夏休みを短縮したとしても「今年学習するはずだった教科書が終わらない」ことになってしまうのは非受験学年のほうがあり得ることなので、今年度の学習の進捗状況から目を離すわけにはいかないのです。
高校入試を考えるなら「3学期の授業内容」に要注意!
一保護者の立場で今年度の授業消化ペースについて想像すると、特に小学生について心配することが2つあります。1つ目は「授業の進むペースが速く、理解不充分なまま子どもが置いていかれてしまうかもしれない」ことです。これは保護者の皆さまにとっても想像しやすいことだと思われます。実は、今年度から教科書が改訂されていて教科書のページ数はこれまでの教科書に比べて平均で10%増えたとされています。ただでさえ学習内容が増えているのに授業のスピードまで速くなっているのですから、おそらく授業中に演習する暇はなく、定着するまでのトレーニングは多くが宿題とされることでしょう。
忙しさを理由に宿題の進捗をお子さま任せにしてしまうことは、この1年間については特に気をつけてください。「宿題をやった」「内容がわかった」「できるようになった」はそれぞれ違うものなので、時には口頭でお子さまに問題を出してあげるなどの関わりを持ってあげることをお勧めします。
2つ目の心配は、「本来1月後半~3月に学習するはずだった内容を学ぶ時間が取れず、要点だけかいつまんで説明され、簡単なテストを行って終わりにされてしまう」ことです。
算数を例にとると、学年ごとに1月~3月で学ぶ主な内容は以下のとおりです。
我々から見れば、この時期はどの学年の学習内容も大変重要で、ここで理解が不十分なまま進むと中学生になっても弊害をきたします。4年生・5年生で学ぶ「変わり方」とは、中学生で学ぶ「関数」の土台となる比例反比例を学び、グラフを読んだり書いたりすることでその感覚に慣れるものです。5年生で学ぶ「速さ」と6年生で学ぶ「場合の数」は、いうまでもなく中学数学はもちろん高校入試にも登場する頻出テーマですから、ここで理解が不十分なまま学年が進むことは避けなければなりません。
もちろん新学年に進む際に、例えば同じ先生に持ちあがりで授業を担当していただけるのであれば「単年で考えず2年で追いつけばいい」と思えるので安心できるかもしれません。しかしながら現実にはクラス替えもしくは担任が替わるケースのほうが多いはずですから、「授業は終わった(皆が理解したかどうかは別)」という申し送りだけで済まされてしまう可能性もゼロではないと思っています。
ここまで小学生を想定して話を進めましたが、中学生においても同様の危惧があります。
「高校入試はまだまだ先の事」と他人事にせず、学年に関係なく学習内容に積み残しがないよう随時点検をお願いします。
内申との向き合い方を再考する!
公立中学生にとって「内申との付き合い方」は重要です。現行の内申制度は「生徒本人の『頑張った』をできる限り高く評価する」仕組みになっていて、テストの得点だけではなくノート提出や授業中の態度・関心・意欲など途中経過もちゃんと評価の対象として明記されています。
この仕組みは、中学生の勉強に対する継続性・習慣性の構築に効果をもたらしますが、その一方で部活の試合や試験、あるいは日常生活などにおいて結果が伴わなかった際に「私はこんなに頑張ったのに……」という発言をする子どもが増えました。「頑張ったから不合格を合格に変えて!」とまでは言わないまでも、中学生活を通して(無意識に)このような思考や習慣を培った子どもが多いことを覚えておいてください。このような中学生が社会に出る頃には、コロナ禍で進んだテレワークに代表される「成果がすべて」の仕事観が今よりも進んでいることでしょう。すると、今後どこかで志向や習慣を変えておかないと、将来仕事では中学校時代とは真逆の評価を得てしまう可能性が高くなってしまいます。
よって、中学生の保護者の皆さまであれば早急に、小学生の保護者の皆さまであれば少しずつ「皆さまが中学生だった頃の常識・価値観」を修正しましょう。具体的には「(保護者自身が)公立中学校の価値観を唯一無二の存在にしない」ことを日々気に留めてくだされば充分です。お子さまが中学に進学し部活をバリバリやるようになれば、毎日ヘトヘトでその日の宿題で手いっぱい、どうしても親子ともに視野が狭くなりがちです。目先の定期テストや宿題の提出に追われ「成績・内申のために身をすり減らす生活」になってしまうかもしれません。これが生活の100%になってしまわないよう、学校以外に居場所を1つでいいから作ってあげてください。塾でも習い事でもかまいません。家庭の中でもかまいません。
「目標をたててその実現に向けて継続的な努力を求められる」環境が理想です。プロ野球選手やJリーガーを目指す子どもが、中学の部活に入らず地域のシニアチームなどに所属することを想像していただくのがわかりやすいと思いますが、
①PDCAサイクル(Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)を体感でき、それを習慣にできる
②時にライバル、時に仲間である集団に属して互いに切磋琢磨しあえる
ことをチェックポイントにしてください。最近ですとプログラミング教室やロボット教室を子どもに薦める保護者が増えていますが、まさしく先の体験ができるからだとよく耳にします。
料理でもいいかもしれません。「よりおいしくするにはどうすればいいか」と考え調べることが工夫と改善そのものですし、「おいしい!」という最大限の評価をもらえることを励みにできます。
大切なのはお子さまに「受け身、やらされている感」がないことです。「私は頑張った!」をゴールとせず、「自分で結果を追い求めて試行錯誤する」ことが当たり前となる思考習慣の育成をテーマとすること、そして親があれこれと口出ししないことです。
「そんな環境は近所にない!」という場合には、日々の勉強の中に目標を設定するだけでも効果があります。「今日は2時間頑張ったよ」ではなく、「今日は○○ができるようになったよ、覚えたよ」と具体的に成果を言えるような勉強をし、記録をつけるように導いてあげてください。
最後に簡単なテストをして評価を明示してあげればいいと思います。わが家では「子どもができたら私が負けで風呂掃除、できなかったら子どもが風呂掃除」というルールで英単語テストをやっていました。勉強時間が6時間かかろうが30分で終わろうが、頑張っていようがなかろうが「遊びたければ速く終わらせればいい」という割り切り方で向き合ってあげる時間を作るだけで充分です。
高校入試は、大半の中3生にとって「人生初の関門」です。これを終えた時にただ知識と合否結果だけが残るのか、それとも目まぐるしく変わる社会に順応するための土台が築かれているか、ここで得た経験の差はすべてが今後の人生に影響します。「成果がすべての価値観」に触れたことがないまま大学生・社会人になることもできる時代だからこそ、小中学生時代の経験値は今後ますます重要視されるのではないでしょうか。
vol.148 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年8月号掲載