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Vol.149 「公立中高一貫校が子どもに求める資質」を受検問題から読み解くと
いきなりですが皆さんは干支(えと)についてどれほど詳しい知識をお持ちですか? 年賀状でおなじみの12種類の動物は十二支(じゅうにし)で、これに十干(じっかん)というものを合わせた十干十二支のことを干支と呼ぶのだそうです。今春の「公立中高一貫校の受検問題」では干支が題材として扱われており、「十干って何?」というレベルの私には問題を読み進めるだけでも大変難しく感じてしまいました。
出題内容にトキメキや面白さを感じられる?
今春の受検において干支を題材として扱ったのは「さいたま市立大宮国際中等教育学校」です。おじいさんと太郎さんとの間で進む会話形式の出題で、十干と十二支の仕組みを説明した上で次のような表が与えられ、受検生は解答を求められました。
2020年が「かのえね」、2021年が「かのとうし」、2024年が「きのえたつ」であることを紹介した上で、太郎さんの生まれた年(2007年のいのしし年)の十干十二支を答えさせる問題があり、おじいさんが「かのとう」の年に生まれたという情報をもとにおじいさんの年齢を答えさせる問題も出題されています。2人の会話にA4サイズの用紙1枚がまるまる使われているので、初めて聞く十干について長々と読み進める根気と集中力も必要ですし、最後は算数の問題に帰着するので丁寧な計算・作業力も要求されています。そもそも十干に関する知識がなく頭が固くなっている私には、いくら2人の会話を読み進めても中身が全く頭に入ってこず大変戸惑いました。
私と同様の戸惑いを覚えた小6生もきっといたことでしょう。国語を苦手とする子ならなおさらで、長文を読み進める途中でこの題材を楽しむことができないと心を折られてしまうかもしれません。
このように、12歳の小学6年生にとって未知の題材を扱うケースは公立中高一貫校の受検問題では珍しいことではなく、受検生の知識や経験だけではなく「好奇心をもって世の中の様々な事象に向かい合えるか」という点も試されていることを知っておいてください。
公立中高一貫校の問題は日常生活のすべてが題材!?
この問題は「適性検査B(40分)」の大問2でした。出題はもちろんこの1題ではなく、問題は全部でA4サイズの用紙13枚分に及んでいるので、この問題だけに時間を割くわけにはいきません。大問1は世界の産業別人口に関する出題でしたが、小学生はもちろん、高校生や大学生でもなかなかお目にかかることのないグラフ(左資料参照)を読み込んで数値を把握しなければなりませんでした。
今回は大宮国際中等教育学校の適性検査を紹介しましたが、多くの公立中高一貫校では出題の特徴として「その場で考え、表現することが強く求められる」ことが挙げられます。一般的な私立中学の入試問題とは違って教科間の融合があり、いわゆる「解き方」のトレーニング量だけでは優劣がつきにくい設定(問題の題材が日常生活の中から拾われている)を用意することで、知的好奇心や観察力、集中力に優れた子を入学させたいという意図を示していると考えておきましょう。
例えば、今春の東京都立中高一貫校で共通問題として出題されたのは「乗合バス」でした。バスの台数や走行距離の時系列グラフから移り変わりの様子について考えを書かせる問題に続けて、導入が増えている「ノンステップバス」に期待されている役割を記述させ、「公共車両優先システム」を紹介した上で現状の課題とその解決方法を記述させる3題がA4の用紙5枚にわたって出題されています。
普段からバスや電車といった公共交通機関を使っている子と保護者が運転する車に乗っているだけの子では、この題材に触れた際の関心度が大きく違っているであろうことは容易に想像できます。文章中に出てくる「バス優先レーン」という情報1つをとっても、車内から外の様子を観察し、スイスイ進むバスの様子を覚えている子と、ただ後部座席に座っていただけの子では記述するための情報量が全く違っているのですから。
「日常生活すべてが題材で勉強のきっかけである」
これが公立中高一貫校の問題の特徴なのです。中学受験をせず公立中学への進学を予定されているご家庭においても、ぜひ一度親子で問題に触れておくことをお勧めします。この姿勢を身につけておくことは、お子さまの将来にとって損になることは全くないからです。
公立中高一貫校の受検準備は親子二人三脚で!
出題に関する特徴を知ると、公立中高一貫校を志望する際の準備にも工夫が必要であることがおわかりいただけることでしょう。これから受検を検討されるご家庭むけに2つのアドバイスを贈ります。
1つ目は「私立中学志望者のような『学校別の傾向と対策』を早い段階から準備する必要はない」ということです。直前期であれば出題形式に慣れるための準備は必要ですが、求められる資質が「正解を導くテクニックの有無」だけではなく、お子さま自身がこれまで学んできた知識や経験とその場で発揮する観察力や思考力を用いて導く結論、つまり「思考の過程」であるわけですから、ニュースを見ることはもちろん旅先でも買い物の行き帰りでも、目についたことに関心を持ち親子で会話する習慣を持って自分の意見を作る練習に時間を割くほうがよいでしょう。
2つ目は「公立中高一貫の受検準備は楽じゃない」ということです。10年ほど前には「公立中高一貫校なら私立受験ほどのハードな受験勉強は必要ないから」「公立中高一貫校のことはよく知らないけれど、公立中学に通わせるよりリスクが少ないと思って」といった声が、志望動機としてしばしば保護者から挙がったものでした。
しかしながら、その準備の実情は大人でも戸惑うほど繊細で手間がかかることが知られてきました。自分の考えを書くという出題への対応1つをとっても、正誤だけを気にする場合と他人の意見を聞くことによってはじめて得られる「こんな考え方もあるんだ」という気づきを大切にする場合では、その手間は比較になりません。保護者が子どもと同じ条件で考え記述した上で意見を交わすことも必要でしょう。それを親子で楽しんで続けることに受検準備の意義があることを、どうか覚えておいていただければ幸いです。
vol.149 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年9月号掲載