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Vol.152 2020 年度から始まった「英語教育改革」で保護者が知っておくべきこと
2020年度は「英語教育改革」のスタートです。小学5・6年で「英語(正式には外国語科)」が教科となり「国算理社英」の5教科に変わったことはもっと大々的に報道されてもいいはずなのですが、現在はおそらく教育現場へ取材に行くことさえ許可されないのでしょう。我々保護者世代が経験したことのない大きな変化が大学入試まで続くので、早めに全体像を知り準備を進めておきたいところです。
保護者が経験していない「小学校の英語」の中身
・小3と小4
前年までの小5と小6で行われていた英語の活動がそのまま前倒しになったとお考えください。すでに週1コマ程度の授業が実施されているはずです。教科ではないので成績はつきません。英語に慣れることが目的で、「聞く」「話す(やり取り)」「話す(発表)」といったコミュニケーションがメインとなりますので、ご家庭でも簡単な英会話をしてみるとかTVや動画を使って英語に触れる時間を増やすといったサポートで「英語は楽しい」と印象づけたいところです。
・小5と小6
英語が「教科」となり、週2時間程度の授業が時間割に組み込まれていることでしょう。小3から小6までの4年間で学ぶ単語数が「600~700語」とされていますが、現在中学生が3年間で学ぶ単語数が1200語(2000年代の中学生は900語程度でした!)であることを考えると、小5・小6では楽しく歌ったりゲームをしたりするだけの授業構成にはなっていないはずです。また、先生は国語や算数と同様に成績をつけなければなりません。昨年秋の大学入試改革に関する報道でよく耳にした「英語の4技能(聞く、読む、話す、書く)」の土台を育てるための授業ですから、我々保護者世代が中学生時代に受けたようなペーパーテストが実施されることもあるでしょうし、「聞く力」「話す力」を評価するためのテストも行われることでしょう。会話を恥ずかしがって声が小さかったり、覚えた文章をただ棒読みするだけのやりとりだったりすると表現力や積極性で低評価がつく可能性が高くなりますから、ご家庭で練習してからテストに臨む必要があるでしょう。 注意すべきは学習する文法事項で、疑問詞や代名詞、動名詞に助動詞、そして動詞の過去形まで用いた基本的な表現を扱いますが、我々保護者世代が中1どころか中2で学んだ内容まで含まれていることを覚えておいてください。しっかりと復習して理解した状態で中学校に進学しないと、中学の英語の授業についていけなくなることが容易に想像できてしまいます。
保護者の経験が通用しなくなる?「中学校の英語」の変化
中学生は来年(2021年)度から指導要領が改訂されます。具体的な変化は「授業の進行も英語で行われる」ことが原則になる点です。「重要事項の説明」「先生と生徒の受け答え」「生徒同士のディスカッション」などが英語で進められることになります。現小6については、来春の中学校入学と同時に新スタイルの授業が展開されるものと思って準備しておくことをお勧めします。
来年以降の中学校英語では、授業時間数が増えることはなく従来通りなのですが、3年間で学ぶ単語数が1600~1800語に増えることを知っておいてください。前述の通り現在の中学生は1200語程度、2000年代の中学生が900語程度だったことと比べれば、その増え方にビックリされる方も多いことでしょう。
これにより、保護者が注意しておくことが二つあります。
一つ目は「英単語を書けない子どもが増える」点です。小学3年~中学3年の間で2200~2500語の単語を学ぶことになります。授業が英語で進み、自分の考えを英語でスピーチしたりクラスメイトの意見を聞き取ったりするわけですから、単語をたくさん知っていないと会話が進まないのは当然です。おそらく授業中に「英単語の発音を聞いて、日本語の意味と一致させる」ことで満足してしまう生徒がたくさん生じることでしょう。定期テストもしくは高校入試では「書く」ことも当然ながら問われます。覚えた英単語を正しく書けるようになるためにはもちろんそれなりの時間と労力を要するわけですが、これを苦にせず続けるには小学生時代からこの作業を習慣づけておくことが必須となることでしょう。
二つ目は学習する文法事項です。前述の通り、我々保護者世代が中2前半で学んだ事項まで小5・小6に登場することになりますので、中学時代に学習する文法事項も当然前倒しとなり、具体的には「原形不定詞」「仮定法」「現在完了進行形」といった事項が、高校の教科書から中学に移ってきます。「耳から覚える」ことが増える分だけ「書いて覚える」ことを並行して続けられるかどうか。単語と同様に「書く」という作業を習慣にできるかどうかが、中3あたりで大きな差になることでしょう。
英語学習のゴールは入試じゃないけれど
昨年秋のゴタゴタを覚えておられる方も多いと思いますが、いよいよ2021年1月からスタートする「大学入学共通テスト」において英語民間試験の導入は見送られました。これによって「もう使わないのね」と理解されている保護者の方も多いと聞いています。もともと大学入試改革は「2020年度(2021年1月実施)…①」と「2024年度(2025年1月実施)…②」の2回が予定されていて、改革が見送りになったのは①についてであり、現中2が大学入試を迎える②からは、小中学校そして高校の英語教育改革に合わせて入試制度は変わる(予定)ことを覚えておいてください。英語民間試験導入を含めた改革の内容は近々予告されるはずですが、昨年懸案事項に上った様々な問題点が解決できるのかいまだ不明です。よって、こまめな情報収集と変化に対応できるだけの準備(確かな英語力を身につける努力)を続けることが、現状唯一できる対策だと思われます。
「大学入試はまだまだ先のこと」と思われる保護者の方には、変化を前倒しで体感できる高校入試の中身をご紹介します。東京都では都立高校入試で「スピーキングテスト」を現中1生(2023 年2月に入試実施)から実施する予定です。また自校作成問題(高校が独自に入試問題を作成する)採用校では、大学入試も顔負けの「自由英作文」を出題するところもあります。
全国的には、これまでも私立高校を中心に「英検を用いた加点・優遇制度」を用いるケースが見られますが、大阪府は2017年春の高校入試から、英検、T O EFL iBT 、IELTSという民間検定試験について、例えば英検準1級を取得していれば高校入試を満点扱いにするという制度を導入しています。
注目すべきは、大阪府が基準として「英検2級」から提示していることです。中学生であれば準2級取得でも十分に凄いことですし、加点・優遇制度を用いる多くの私立高校も「英検準2級」を高く評価しています。大阪府が満点に換算している英検準1級(大学中級程度)に至っては、私も含めて保護者世代の多くが「そんなに高いレベルなの!」とビックリされることでしょう。
今回の小3から始まる英語教育改革によって、中3段階でこのレベルを目標に掲げてきちんと環境を整えて学習を継続するご家庭であれば、中学受験する・しないの選択肢の一つとして「英語の学習環境」の差に注目する必要もあるかもしれません。
我々の子ども時代には想像できなかったことですが、英語に限らずすべてのジャンルにおいて「上限を定めず、自分の目標に向かって突き進むこと」の重要性が、すでに明確なメッセージとして子どもたちに対して世の中から発信されています。英語教育改革はその象徴で、スタートとなる小学生時代こそ親子で早い段階から受験や成果に終始しない目標を設定し、長期的に歩みを進める習慣作りを優先するべきなのだろうと私は強く思います。
vol.152 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2020年12月号掲載