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Vol.154 お子さまと一緒に、最後に夜空を眺めたのはいつですか?

 年末の慌ただしいさなか、木星と土星が「397年ぶりの大接近」となった様子を肉眼で見ることができました。皆さまの地域ではいかがだったでしょうか。2020年後半はこれ以外にも「火星大接近(10月)」「ふたご座流星群(12月)」と天体ショーが続いたこともあって、中学3年生の授業中にこれらを話題にしたところ、天体はおろか「397年ぶり」という数字にさえ興味を示さない者がチラホラ存在することに驚いてしまいました。

「397年ぶり」のイベントは入試頻出?

 今回見ることができた「木星と土星の大接近」は、理科でも社会でも入試(特に中学入試)に登場する可能性があるという点で、受験生であれば無視することはできません。
 歴史の視点ならば、397年前(1623年)というのは徳川家光が江戸幕府3代将軍になった時以来となります。ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で月を見たのが1609 年、木星の衛星を4個見つけたのが翌1610 年とされていますから、今回の大接近は「人類が気軽に望遠鏡で天体観測をできるようになって以来初めての大イベント」といえるのです。今回の大接近を話のきっかけとして、太郎君と花子さんが当時の歴史について考えるという出題は中学入試・高校入試を問わずありそうですね。
 次に理科の視点では、今回のように2つの惑星が接近して見える現象を「会合」と呼ぶことを忘れてはいけません。木星は約12年、土星は約30年で公転軌道を1周するので、地球からは木星と土星が約20年ごとに接近して見える(この周期を会合周期と呼ぶ)のです。
 これが地球と火星の接近になると、中学入試ではしばしば出題されます。地球の公転周期が1年(365 日)、火星の公転周期が1・88年(686日)であることが与えられていて、地球と火星の公転周期を計算して求めさせる問題(数値を覚えているだけでは正解にならない)は、多くの小6生を悩ませます。高校入試では地球と金星の関係が問われることが多く、「2つの惑星の位置関係は入試頻出の重要テーマ」と知っている側にとっては、今回の大イベントに関心を寄せない受験生が不思議でならないのです。

非受験学年だからこそ注意したい「もう1つの教育格差」

 このような天体ショーを受験と結びつける必要のない大人や非受験学年の子どもたちには、機会があればどうか純粋に夜空の星を楽しんでいただきたいのですが、今回の「397年ぶりの大イベント」についてお子さまは、そして保護者の皆さまは関心を寄せていらっしゃいましたか。そして皆さまは夜空に輝く星を探しましたでしょうか。
 日食や月食といった天体ショーがあるたびに、保護者会で私はこのような問いかけをすることにしています。すると、だいたいいつも半数程度の保護者が「無関心だった」と回答を寄せてくださいます。自然科学に関しては「周りの大人が無関心なのに子どもが勝手に興味を持った」という話を、少なくとも私は聞いたことがありません。このような、保護者が自然科学に対して無関心である様子を「目に見えない、報道されない『もう1つの教育格差』」と私は呼んでいます。
 一般的に語られる「教育格差」とは、親が低収入だったり低学歴だったりした場合に、子どもがそれを引き継いでしまう「格差の世襲」を指しています。また、緊急事態宣言の最中に聞こえてきた「教育格差」という言葉には、保護者の収入が減ってしまった子どもの将来に暗雲が立ち込めてしまうことはもちろん、「オンラインで勉強できる環境が整っていた家庭とそうでない家庭」「学習内容を動画で配信できた学校とできなかった学校」のように、住んでいる地域や通っている学校、ご家庭のネット環境の差などが子どもたちの学習習慣の継続や進度に大きな影響を生じさせてしまった状況がこめられていました。
 こと受験だけを考えるのであればこうした格差が不利に働く場合が多いのですが、どんなに恵まれた家庭で育ったとしても全員が難関大学に進学できるわけではありませんから、収入や環境だけを原因として片づけるわけにはいきません。では、経済力や環境といった「見える格差」以外に子どもの学力を左右する要因は何なのか。私が小中学生の指導を続けてきた限りの経験でいえば、それは「保護者の(知的)好奇心の差」です。
 社会であれば「本を読んで知識を吸収する」ことも可能ですが、算数・数学や理科は本を読むことだけではなく、試したり調べたりそして楽しむことも欠かせません。さらに、その姿勢は誰かがお子さまに見せ続けること、お子さまの側から見れば「誰かを真似すること」でしか身につきません。その「誰か」とは、もちろん保護者です。
 塾の面談の際に「うちの子は理科が苦手で…」という相談を受けることがありますが、私は必ず「親子で星空を眺めていますか?」と質問することにしています。ほとんどの場合返事は「いいえ」であり、ほぼ全員が不思議そうな顔をします。そして私の返事は「今日からでもあなた自身が自然科学に興味を持ってワクワクしている様子を日々お子さまに見せてください」なのです。
 たとえ両親が共働きで忙しくしていたとしても、「家に帰る途中、今日は本当に星がきれいだった」という会話だけでも、小学生ならば「自分も夜空を眺めてみたいな」「あの星はなんという名前なのかな」と思うようになります。保護者自身が普段から楽しそうにしていれば、天体イベントがある日なら声をかけることは不自然ではありませんね。もちろん天体ではなく、天気でも庭の植物でもかまいません。何かに興味・関心を持ってワクワクしながら観察している姿勢を見せ続けることを意識してください。その姿勢は演技でもかまいませんから。
 一朝一夕には変えられない収入や学歴に対して、ワクワクしている様子を見せるだけなら今日からでも変えることができます。机上で学ぶ知識の蓄積だけでなく「自分で経験・体感して肌で感じた知識」の積み重ねは、ご家庭の日常で得られ、そしてお子さまにとって一生の財産になります。次の機会には、どうか少しだけでも一緒に夜空を眺めてみてください。

 最後に、2020年はうるう年だったのですが、皆さまはうるう年のメカニズムを説明することができますか? 2015 年の東京都立の公立中高一貫校では、共同作成問題(どこの学校を受検していても共通に解答する問題)として、うるう年が取り上げられています。
 問題文中、地球の公転周期(惑星が太陽の周りを1周するのに要する日数)が正確には「365・24日」であるために生じてしまう、毎年0・24日ずつのずれを解消するために設けられたのが「うるう年」であること、その調整によって今度は逆に「25回のうるう年によって1日多くなってしまう」ので、100年ごとに1度だけうるう年をやめることになっているという説明が、B4判の紙に左右ビッチリと書かれた会話形式で続きます。惑星の動きに興味がない人にとっては全く頭に入らない内容ですし、途中で読むことを諦めたくなりますが試験会場ではそうもいきません。
 そして、ようやく読み終えると、登場人物の花子さんが「これは面白いわね。先生、うるう年の問題を何か出してくれませんか」と、多くの受検生の心を折りにかかります。太陽の周りを「2015・4日」で1周するという星を設定して、この星におけるうるう年の調整方法を説明させたり、火星の公転周期を紹介したりすることによって「地球における1日と火星における1日」の違いを考えさせ、計算させる問題が続くのです。「うるう年って何?」と疑問に思ったことすらない子だと、事実上の門前払いという厳しさがおわかりいただけると思います。
 星の動きに「無関心」だった方は、まずは毎日冬の夜空に輝くオリオン座を観察してみてください。同じ時刻に見続けると、必ず「なぜ?」が生じます。その疑問が湧くだけでも一歩前進、学校でその理由を学ぶ際には授業の受け方そのものが変わることでしょう。

vol.154 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年2月号掲載

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