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Vol.156 保護者世代が子どもだった頃の中学受験動向を振り返る

 いま私の手元に、1988年に調査が行われた「中学受験ー子供と母親に対する意識調査よりー」という資料があります。教育を取り巻く環境が大きく変わったといわれる昨今ですが、30年前と比較して変わったもの・変わらないものをしっかり把握できるのは、当時の事を知る保護者世代の皆さまであればこそだと思い、今回紹介させていただくことにしました。中学受験を取り巻く環境がどのように変わっているのか、30年前にタイムスリップしてみましょう。

昭和末期の受験動向を振り返る

 まず、この調査が行われた1988(昭和63)年当時の大学進学率と中学受験率を参考にしながら、現在との時代背景の違いを確認しておきましょう。

(表1)大学進学率推移・(表2)東京都における私立中学校進学状況推移

 高3生の「現役進学率」は、2020年の58・6%に対して1988年はようやく30%を超えたところで推移していました。大学へ進学することがまだ当たり前ではなかった時代、女子の進学先が4年制大学よりも短大の方が多かったことも現在との大きな違いです。
 それに対して、東京都における中学受験率に目を向けると、私も驚いたのですがおよそ30年の間で大きな差は見られないことがわかりました。1988年の受験率が自分の予測よりもかなり高かったのです。2010 年はリーマンショックの影響が世の中全体に残っていた時期で、2010年と2019年には都立中高一貫校への進学者が登場していることから、直接数値だけを比較することには無理があることは承知していながらも、30年のスパンで見れば中学受験率の推移と大学進学率の推移に相関があるだろうなと考えていた自分の仮説は早くも崩れてしまいました。皆さまはどのようにお考えでしょうか。

昭和末期の中学受験を取り巻く外的要因とは

 そこで、昭和末期に中学受験を決断したご家庭の「根拠」を想像するために、当時の東京都の動向を振り返ってみることにします。すると、2つの外的要因が浮かびあがってきました。
 1つ目は「都立高校の地盤沈下」です。東京都では昭和42年に「学校群制度」、昭和57年に「グループ合同選抜制度」という都立高校入試改革を行いました。その結果、全国的に有名な日比谷高校においても大学合格実績を大きく減らしたのが昭和末期~平成初頭であり、この頃から優秀生の公立離れ・私立志向が顕著になりました。2000年代に入って都立高校に様々な改革が行われたことで現在の合格実績は回復していますが、東京都においては現在でも私立志向が強いことに変わりありません。
 こうした制度改革によって不安を感じたご家庭が中学受験を積極的に検討するという事例は昭和末期だけの話ではなく、一連の「ゆとり教育→脱ゆとり」の流れは2000年代から2015年頃まで影響しましたし、現在では大学入試改革の方針が二転三転していることを危惧する(高校入試を経て準備するのでは遅いのではないか)ご家庭が増えていることは、首都圏限定の話ではなくなっています。
 次に、これも現在まで影響を及ぼしていると思われる要因として、昭和末期の「いじめ・非行問題」から派生する公立中学校への不信があります。
 70年代末期から80年代初頭にかけての校内暴力、そして80年代半ばからのいじめが社会問題化していたことは多くの皆さまがご記憶のことでしょう。その結果公立中学校に対する様々な不信(安全管理の不備、画一的な生徒管理・教育への不満、内申制度への不満など)を公言する人が多くなったのもこの頃からだと記憶しています。調査結果に目を通すと、

(表3)受験したい中学はどんな学校か(1988年子どもへの調査)

というデータがあります。特に女子からはいじめ・非行に対する拒否感が強く読み取れます。これが公立中への不信と結びついて現在まで至っているとすれば、30年後の現在、保護者として積極的に公立中学をお子様の選択肢に入れることは考えにくいものです。また、子どもへの調査とはいえ「有名大学への合格率」がけっして高くないことに注目してください。特に女子に限ると39・6%と低く、30年前から必ずしも「受験=高学歴志向」ではなかったことがうかがえます。当時の保護者回答(問い:受験校の決め手は何か)を見ても、教育方針や校風(95・6%)、中高一貫教育であること(87・4%)などが上位を占め、有名大学への進学率は12位(60・0%)でしかありません。このような学校の選び方は現在では当たり前になっている感がありますが、当時の保護者や生徒が頑張って世の中に認めさせたものでもあります。30年経って当時の生徒が保護者になった今、「より自分の子どもにあった学校を積極的に探す」傾向は強くなっていくものと思われます。

 30年前の調査資料には、当時の子どもや保護者にグループインタビューを試みた際の事が記されています。「母親たちは、これまでの受験ママの悲壮なイメージとは違った、明るさや、華やかさがありました」という一文に私は注目しています。「受験戦争」とか「そんな低学年から」といったネガティブなイメージで語られることも多い中学受験ですが、当事者となる皆さんが暗い顔をしていたりジメジメとしたイメージをまとっていたりしていたら、10年後20 年後に残るものは多くありません。
 中学受験は、その結果にとらわれず目指した途中経過を明るく振り返れるような前向きなチャレンジであってほしいと私は心から願っています。

資料:(表1)(表2)学校基本調査より筆者作成、 (表2)(表3)ベネッセ教育研究所「中学受験―子供と母親に対する意識調査より―」 1988年

vol.156 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年4月号掲載

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