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Vol.159 「推薦・AO入試」を経験した人たちの強みを探ってみると
大学に入学するには必ず選抜を経なければなりませんが、多くの方が想像する「一般入試(筆記)」以外にも「総合型選抜(指定校推薦、自己推薦、AO入試などの総称)」という名称の入試方式があります。
我々の時代にはなかった制度を利用する生徒たちは、一般入試を目指す生徒と何が違っていてどんな強みがあるのでしょうか。昨年早稲田大学が発表した調査結果に大変興味深いデータが掲載されていました。
大学入試における推薦・AO入試の実態
大学に入学する手段がほとんど一般入試(筆記)のみだった世代には、推薦・AO入試(現:総合型選抜)に対して「学力低下の象徴」「少子化に伴う学生確保のための手段」といったネガティブなイメージを持つ人が少なくありません。とはいえ、すでに私立大学全体では一般入試を経て大学に入学した者は全体の半数を下回っており、今後さらにこの割合は下がっていくことが見込まれています。
国立大学においては従来通りの一般入試を必要とする学生が多いですが、私立大学においては早稲田や慶應といった有名校においても一般入試を経ない学生を積極的に入学させており、「推薦・AO入試=安易な大学選び」とひとくくりにはできない状況になっていることを覚えておいてください。
早稲田大学が公表した「入学区分別」のデータに注目!
そんな中、早稲田大学が2006年春に学部入学した卒業生を対象にある調査を行いました。卒業生を対象とした追跡調査を行う大学は少なくないのですが、今回公表されたデータは一般入試による入学者と推薦・AOを経た入学者との比較、すなわち入学区分別の分析がなされているのです。その中から小中学生の保護者の皆さまにとっても興味深いものをいくつか紹介します。次の表をご覧ください。
昭和の学校と今の学校は別のもの
卒業生が自分の過去を振り返った表2と表3を見ると、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した割合が、指定校推薦や自己推薦・AO入試を経た者は一般入試を経た者に対してどちらも10ポイント前後上回っていることがわかります。母集団の数・質の違いや卒業後10年を経て大学から送られてきたアンケートに回答する真面目な性格など、前提となる条件が様々あるとはいえ「大学入試で推薦・AOを選択肢に視野に入れる者は中学時代からコツコツと努力を積み重ねていた」傾向がハッキリと浮かび上がってきます。「中学時代は苦手教科から逃げていました」「ちょっと勉強して結果がでないとすぐに諦めていました」という人がほとんどいない(自己推薦・AO入試に至っては0%)というのは驚きですし、その過程を自信や財産として大切にしているからこそ回答できるのだなと感心しています。この数値は小中学生のお子さまにとって日常生活の1つの指針となることでしょう。
また大学側から見ても、コンプライアンスの順守が求められる昨今においては30~40年前のような豪快で大胆な大学生を看過できなくなっているため、真面目で勤勉な学生に多く入学してもらえることがマイナスに作用することはないのです。
推薦・AO入試経験者のもう一つの強みは「発信力」
最近に限らず昔から、「受験学力は高いけど社会人としてはちょっと……」という新入社員の存在が問題視される機会はありました。かつての価値観では、中学・高校・大学入試を問わず入試を突破するために要求されてきたのは「正解力」でしたから、こうした人も少なからずいたものです。もちろん現在の学生にも「正解力」が求められることは間違いありませんが、推薦・AO入試を経て大学に入学し、その後社会人となる者が増えれば増えるほど「新しい新入社員像」が更新されることは間違いありません。前述の「まじめさ・勤勉さ」は、今後5~10年の間で話題となる機会が増えてくるでしょう。そしてもう1つ、今後ますます注目を集めることが予想されるのが現在の総合型選抜(推薦・AO入試のこと)で主役となる「発信力」です。
この入試形態では「小論文・面接・プレゼンテーション」などが合否判定に用いられますから、受験生は大学に対して徹底的に自身を売り込まなければなりません。自己分析力やコミュニケーション力といった、就職活動で必要とされる資質を高校生の段階で準備しておくことも当たり前になります。高3生ですから発信する中身の深さに差がつくのは当然としても、見知らぬ人、価値観や文化・環境が全く異なる人が相手でも、臆することなく自分の考えを理路整然と述べ、自分の考えを理解してもらう努力も含めてトレーニングを積んでおくことは、大学入学のみならず社会人として独り立ちする過程においても鍛えておいて損をすることはありません。皆さまのお子さまが将来一般入試を目指すとしても、その途中経過では多種多様な経験を積んでほしいと思います。間違っても「テストの得点さえ高ければそれでいい」という時代遅れな発想や行動はとってほしくありません。
最後に、前述のような総合型選抜に求められる資質を養うには長期的なビジョンが必要です。皆さまのお子さまが受講されている作文講座も、コツコツと続けることで上達を実感できることや「表現力」と名を変えた「発信力」のトレーニングとして有効です。日々取り組む作文においても「自分はこう思う」という一方的な主張だけではなく、「他者の考えを想像・理解し受け入れた上で自分の考えをまとめる」ことが求められているはずです。この習慣を少しずつ身につけておくことは、世の中がどのように変化しようとも、お子さまの将来にとってきっと有益な財産となるはずです。
vol.159 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年7月号掲載