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Vol.161 小中学生にも「自己管理能力」が求められる理由とその対策
オリンピックが始まる直前の7月某日、とある所からの依頼で保護者向けに講演を行いました。今年の受験生はオリンピックに背を向けて勉強を続けなくてはいけませんから、受験生は例年にも増して強い意志が必要です。充実した夏休みを過ごすために、親子で共有しておくべきポイントは何なのか。今回は、その講演内容を書き起こしてみることにします。
「一生学び続ける」ことが当たり前の時代をどう生きる?
講演は、イチロー氏が小学生に向けて話したメッセージを引用することからスタートしました。
「今は教える側が厳しく指導するのが難しい。そんな時代に誰が教育するのかといえば、最終的には自分で自分を教育しなくてはいけないという時代になったのだと思う」
皆さまにも心当たりはありませんか。スポーツでも勉強でも、指導に体罰やお仕置きが当たり前だった時代には「言われたこと、ノルマを忠実にこなしておけば怒られない」という感覚が子どもの側にあったはずです。ところが今は、体罰やお仕置きを行うことが許されません。指導する側はコーチングの意識を強く持って、強制したりビシビシ鍛えたりすることとは距離を置くようになっているのです。
これは子どもにとっては逃げ道がなくなってしまうことにつながります。受験でもスポーツにおいても早い段階で「明確な目標を持って、自分で自分を成長させる」意識を持っている子がどんどん成長していくからです。自分の未来像を明確に描き、日々その姿に近づくための努力を続けられる子どもにとっては、我々の時代では想像すらできなかったようなレベルまで到達できる時代になりました。ゴルフの松山選手や野球の大谷選手、あるいはこの夏のオリンピックで躍動する10代の選手たちの活躍の陰には、しっかりした強化プランはもちろんのことそれを理解し継続し続ける強い意志、高い自己管理能力の存在を無視することはできません。
その一方で、自己管理とはほど遠い日常を送る小中高生が多いことも事実ですし、「小中学生にそんな自己管理なんて無理だよ」と考える保護者の皆さまも多いことでしょう。たとえ現実がそうであっても、自己管理できない子どもをほったらかしにすることは避けなければいけません。子どもを取り巻く環境が急激に変化していること、もう昔には戻らないことは明らかなのですから、たとえ今日からでもできることを一つ二つと実行する必要があります。それを伝え理解させるのは、我々周りにいる大人の仕事です。
また、子どものみならず大人にも変化の波は押し寄せています。自分に甘い人はどんどん置いていかれ、自分を厳しくコントロールできる人には可能性が広がっていく時代になりました。他人から厳しい指導や強制をされないというのは一見聞こえはいいですが、その一方で自己管理できない人はどんどん楽なほうに流れていってしまい、その差が縮まることはないでしょう。昭和に比べると世の中は全体的に改善されたように見えますが、この点については、格差は今後ますます広がる厳しい時代になっていくのかもしれません。
この視点でいえば、小中学生にとってはオンライン学習、大人にとっては在宅勤務・テレワークへの対応が一つのチェック項目になることでしょう。途中経過が見えにくい分だけ、頑張りではなく結果のみが評価につながる、いわゆる成果主義が急激に世の中の主流になることをたとえ中学生であっても想定しておかなければなりません。楽をしようとすればいくらでも手を抜ける時代に、しっかりと結果を残すための努力を続けられる、つまり「徹底した自己管理能力」が求められることを理解した上でこの夏休みを過ごせるかどうか。この夏休みは、人生の分岐点の第一歩になるはずです。
「小学校で学ぶ英語」を軽視できない事情
まずは次の表をご覧ください。
スポーツに本格的に取り組む子どもたちがオリンピックなど世界の舞台で活躍する姿を思い描くように、勉強に取り組む受験生たちにとっても、自分の将来をできる限り具体的に想像することが「自分で自分を成長させる」ための動力源となることは間違いありません。大企業で働くことをゴールとする時代ではないことは理解していますが、一つの目安として5000人以上の従業員が働く企業の求人倍率の推移をご確認ください。コロナ禍前の売り手市場の頃から、実は一貫して狭き門だったことがわかります。バブル期のような大量採用を実施した企業もありますが、多くの大学生にとってこうした大企業での就職は甘いものではありませんでした。では、採用される学生とされない学生は何が違うのでしょうか。
ひと言でそれを表すならば『同じ大学生を名乗っていても「当たり前」の感覚が違う』ことに尽きるでしょう。前述の「自己管理能力」はもちろんのこと、例えば就職活動時に提出するエントリーシートの質一つをとっても、経験値が段違いに高い一部の学生の取り合いになると聞いています。
また、ハラスメント行為に抵触してはいけませんので、新入社員に対する研修にも気を遣う時代です。「意欲もなく優秀でもない学生」を「意欲が高く優秀な社員」に変えるようなエネルギ―を捻出するためのコストを、企業は負担しないしできるとも思っていないわけです。それができるならその学生の生き方やそれまでの環境を否定することにつながりますから、きっと摩擦が生じることでしょう。その手間を省くためにも、最初から「意欲が高く優秀な学生」を採用しようとするのは当然なのです。
このような現実をお子さまは知っているでしょうか。小学生ならばともかく中学生・高校生であれば、こうした世の中の仕組みを知って今すぐにでも自分の価値を高める努力を始めなければ、その差は広がっていくばかりなのです。
具体的に何から始めればよいのかわからないというならば、まずは目の前のテストに向けて明確な目標を設定しましょう。それをクリアするための課題を列記し、一つひとつ計画的に消化していくことを当たり前にしていけばよいのです。それを繰り返すことでしか「自分で自分を成長させる」ことはできません。まずは一日の、次は一週間の、そして一か月の目標を定め、決めたことを実行する過程で生じる試行錯誤によって経験値を増やし、想像する将来の自分の姿と現実を近づけていきましょう。
vol.161 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年9月号掲載