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Vol.164 コロナ禍の高校生とご家庭を救っている「自治体の学費支援制度」について
昨年そして今年と、コロナ禍の影響もあって様々な理由から保護者の経済援助に頼ることができず、学費の捻出に頭を悩ませる大学生が増えていると聞きます。ところが、少なくとも首都圏においては高校生(公立・私立を問わず)の学費捻出に関する報道を目にすることは多くありません。今回は、中学生はもちろん小学生の保護者にも大きな関心事である「高校生の学費」の現状に注目します。
公立高と私立高で学費はどのくらい違うの?
高校生の学費については、公立高と私立高ではみなさまご存知の通り授業料に大きな違いが生じます。また、私立高の授業料はお住まいの地域によっても高校の種類(大学の附属校は高いところが多い)によっても変わってきますので、ここでご紹介する金額はあくまで平均値となることをご理解ください。
文部科学省「平成30年度子どもの学習費調査」によると、高校生の「学校教育費(授業料や教材費など、子どもに学校教育を受けさせるために支出した経費)」について、“公立高校が年間約28万円に対して、私立高校は年間約71万円”と2倍以上の差がついていることがわかりました。実際には、これに塾・予備校や習い事といった出費が加わります(この金額に公立・私立の大きな差はない)ので、総額ではおよそ「私立高校は公立高校の2倍」の出費とお考えいただければよいでしょう。ちなみに公立中学と私立中学を比べると、学校教育費だけを比べればおよそ7倍、塾や習い事の出費を加えてもおよそ3倍の差がついていることも併せてご紹介しておきます。
次に、学校教育費を詳しく見ていくことにします。公立高と私立高で大きく異なるのは、前述の通りの授業料と「学校納付金(入学金や施設費、冷暖房費など)」で、特に私立高では入学金が20万円~30万円と高いため、結果として初年度納入金の差が大きくなってしまいます。
また、「修学旅行などの積立金」も学校教育費に含まれます。修学旅行が今後どうなるか想像しにくい部分もありますが、1週間程度の海外研修旅行ですと入学直後から毎月2万円程度の積み立てというケースが多いようです。「制服代」も差が大きく、私立高の場合、指定品が細かく決まっている場合が多く一括購入するとその費用にビックリします。その一方で私の住むさいたま市の市立高校では某衣料量販店の製品を採用することを検討しているとのことで、この金額の差は無視できません。また、公立高・私立高を問わずタブレット端末やノートPCを授業で導入するところが増えています。指定の製品を購入するか自分の端末を使用するかは学校によってまちまちですが、今後はこの費用を頭にいれておくことは必須となることでしょう。このような項目を積み重ねると、都内私立高校に入学する場合、平均で「入学初年度におよそ100万円」の出費になってしまいます。
高校生への学費支援が手厚くなっている
かつてバブル崩壊やリーマンショックによって不況が押し寄せた際に、学費を払えなくなってしまった高校生あるいは大学生がたくさんいたことを覚えていらっしゃいますでしょうか? 今回のコロナ禍においては、学費捻出に苦しむ大学生に関する報道はしばしば目にしますが、高校生に関してはそれほど話題にならないのはなぜなのでしょう?
実は、この数年の間に高校生への学費支援制度が手厚くなっていて、今回のコロナ禍においてはこの制度が充分に機能したと考えられるからです。
公立高校においては、授業料に相当する金額(11万8千円)を支給する仕組み(「高等学校等修学支援金」)が2014 年度から導入されていて、授業料の実質無償化がすでに実現されています。この制度は全国のおよそ8割の生徒が利用しているといいます。しかしながら私立高校に通う場合だと、この支援金だけでは授業料の一部しか賄うことができません。そこで2020年4月より、この制度が改正されて保護者の年収に応じて支援金が増額となり、加えて自治体独自の支援制度が左表のように充実したのです。
小池都知事がこのような都独自の支援策を初めて公表した2016年の時点で、都内在住の私立高校に通う生徒の約3割が恩恵を受けるとのことでしたから、今回のコロナ禍において助かっているご家庭は少なくないはずです。また、年間の納入金総額が入学年度ならば半額、2年次3年次にはおよそ3分の1に負担軽減されるのですから、10年前であれば学力面では充分にトライできるにもかかわらず「(経済的事情から)公立に進学することが最優先」として志願先を変えていたであろう中学生が、受験時に失敗を恐れずにチャレンジできる環境が整ったプラスの効果も無視できません。こうした積極的な受験生を受け入れる高校側にもメリットは大きく、今後他の自治体にも波及するかもしれませんので、お住まいの地域における仕組みを調べておくことをお勧めします。
小学生保護者は早めに「進学プラン」の構築を!
首都圏には公立私立を合わせると数えきれないほどの高校があり、特に中学受験を経て6年間を過ごす中高一貫校の人気は上昇する一方です。学費支援の拡充によって、経済的事情に影響されず親が行かせたい(子どもが行きたい)と思う学校を検討しチャレンジできることは大変良いことではありますが、小学生の保護者は準備に時間が取れる分だけ、溢れるほどの情報と迷うほどの選択肢を早めに整理していきたいところです。高校3年分の学費が軽減されるとなれば「中学から私立に入れよう」という選択をするご家庭も増えてくるでしょう。「学費負担が軽減されるなら私立大学の附属校でもいいね」と考えるご家庭は中学受験もしくは高校受験の選択から始める必要があり、高校受験ならば英語を中心に早めの準備に取りかかることでしょう。もちろんこれまで通り、公立中学校から公立高校へ進学するケースが最も多いことはいうまでもありません。3年後、6年後、あるいは10年後まで見通して、長期的なお子さまの進学プランを考えておきたいですね。
vol.164 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2021年12月号掲載