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Vol.166 算数・数学で今後重視される「データの活用」の中身を探る

 現在高校入試に向けて勉強している中学3年生が高校に入学するタイミングで、高校の学習指導要領が改訂されます。これによって小・中・高の新しいカリキュラムが出揃うことになりますが、算数・数学では「データの活用」に注目が集まっています。簡単にいえば統計のことですが、保護者世代が学んでこなかったこの分野について、その目的や内容を紹介していきます。

「データの活用」が重視される背景とその内容

 情報通信技術の急激な進展によって誰もが大量の情報に接するようになった現在、会社の経営からプロ野球の作戦決定に至るまで「データの収集・分析・活用」が重視され、データを扱える人材(データサイエンティスト)の育成が急務となっています。具体的に必要とされるスキルは「収集したデータから価値を創出し、課題に対する解決策やアイデアを出せること」です。定着には時間を要しますので、学校教育でも土台となる知識や経験を身につけさせることが求められ、今回の指導要領改訂に反映されました。具体的に小学生の学習内容は、
① 1年生から6年生まで、何らかの「統計に関する内容」の学習
② 統計的に分析するための知識・技能の理解
③ 身近な生活の場面の問題を解決するためにデータを集め表やグラフに表し、分布の傾向を把握したり比較したりして意思決定できるようにする
④ 統計的手法を用いて出された結果を多面的に吟味する
となります。①、②については、小学校での学習内容を厚くするために、従来中学校で学んでいた「中央値(メジアン)」「最頻値(モード)」という知識が小学校に降りてきます。また、棒グラフや折れ線グラフ、円グラフといった、ビジネスでもおなじみのグラフのメリット・デメリットも学び、ゴールは「テストで正解すること」だけでなく「問題を解決するための意思決定の材料」として知識やグラフを用いることになります。次の例1、例2をご覧ください。

例1

 例1は、近年公立高校入試(数学)で出題が増えている記述型の問題ですが、こうした考え方に今後は小学生から触れるようになります。平均値は13・2回ですが、平均値を大きく押し上げている一人(32回)がいて、平均値を超えているのもこの一人しかいません。Tくんの12回は、平均値を下回っているとはいえ5人中2番目の回数ですから「出来ない方」に分類するには無理があり、「中央値」を見るほうがふさわしいと述べればよいのです。例えば「平均所得」を考える際も同様で、400万円前後が4人いて一人だけ1億円の所得があれば、5人の平均所得は大きくはねあがってしまいます。これでは、「平均所得」をもって5人の状況を語ることにあまり意味がありません。

例2

 例2は、平成17年1月に公表された文部科学省PISA調査(数学的リテラシー)の公開問題ですが、ぜひ、お子さまと一緒にお考えください。
 グラフだけを見ると、急激に盗難件数が増えているように見えませんか。我々が子どもの頃には考えもしなかったような考察も、今後は小学生に求められます。この問題では棒グラフの性質を述べることで「適切ではない」ことを示すことができます。棒グラフの目盛りを0から始めれば、どちらの年度も全体が500 件を超えているなかでのおよそ10件の差を激増というには無理があります。割合を学習済みであれば増加率が2%にすぎないことを主張することも可能です。1997年や2000 年との比較ができないので「適切ではない」という主張も有効ですね。
 ところで、皆さまは「棒グラフでは目盛りを0から始めないと誤解が生じる可能性がある」ことを、普段から意識されていたでしょうか。「激増している!」という印象を強く与えたければ、情報をこのグラフのように加工すればよいのです。情報はこのように加工することで、いかようにも印象を変えることが可能なのです。チラシ・CMからプレゼン資料に至るまで、私たちが普段目にする情報の中には発信側の意図に基づいて加工されているものがあるかもしれません。
 こうした学習を通して、統計的な記事や報告を読む際のポイントを身につけ、小学生のうちから「加工された情報にだまされない目」を養うことも④の多面的な吟味にもつながっています。
 また、中学生では、
① 確率の学習を1年と2年に分け(従来は2年)、統計との関連を強める
② 従来高校1年で学んでいた「箱ひげ図」を中学2年で学ぶ
となっています。
 授業ではありませんので詳しい解説は省略しますが、「箱ひげ図」はデータを視覚化するツールの1つで複数の情報を比較する際に有効です。数学の問題としてもこの図から読み取れる傾向や特徴を考えさせるものが出題されており、社会人になった際に求められるスキルを学校の勉強を通してシミュレーションすることになります。この仕組みそのものが、我々が子どもの頃とは大違いであることがおわかりいただけることでしょう。
 高校生での学習内容は省略しますが、小・中・高と一貫して「データの活用(統計)は、問題発見や問題解決そして意思決定のツール」となっていることにご注目ください。従来は「計算して平均値が出せればOK」だったところが、今後は「自分でデータを読み込んで分析し吟味する」ことが求められ、算数・数学でありながら説明能力つまり国語力も必要となります。作文講座で「自分の考えを言葉で表すこと」に慣れている子にとっては楽しい単元となることでしょう。

vol.166 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2022年2月号掲載

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