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Vol.171 公立中高一貫校の「出題方針」から見える未来

 みなさまが過去に経験してきた様々な入試において、出題者側が発信する「出題の基本方針」に目を通していましたか? これを見ると、入試における保護者の過去の経験や知識がいよいよ通用しなくなっていることがわかります。今回は、求める生徒像が保護者世代の入試に比べて一番違っている公立中高一貫校の「出題の基本方針」にスポットをあてながら、これからの未来を生き抜く子どもたちに求められる資質を探っていきます。

12歳で問われる「リーダーの資質・能力」とは?

 では、具体的に「出題の基本方針」を見ていきます。どんなことが記載されているのか想像してから読み進めてください。まず、比較対象として私の住む埼玉県の公立高校入試問題に関する出題方針をご紹介します【参考1】。 
 「中学校の学習範囲から出題する」「暗記やテクニックだけで解き進められる問題にはしない」「記述式の解答もある」と、出題に関するルールを明記したものになっています。おそらくほとんどの方がこのような中身を想像されたことでしょう。
 続いては公立中高一貫校、東京都立小石川中等教育学校の出題方針を見てみましょう。【参考2】をご覧ください。その違いは1行目でハッキリとおわかりいただけるはずです。
  リーダーに求められる資質・能力をみる この文言からは、受験あるいは中学入試に対してイメージされやすい「ガリ勉」「エリート」といったイメージを想像することはできません。
 我々保護者世代が通過してきた 知識を蓄え、ミスを減らすべく練習を重ね、得点あるいは偏差値の高さで優劣が決まる スタイルの受験勉強とは違う準備も普段から進めておかなければならないことが想像できます。
 もう少し具体的に求められる資質を見てみましょう。【参考3】の東京都立立川国際中等教育学校には、 自己の考えや言葉の意味などを、相手に分かりやすく伝える表現力をみる という一文が、【参考4】の東京都立両国高等学校附属中学校には、 提示された課題を理解し、解決するための方策を考え実践する力をみる という一文がそれぞれあります。
 これらは、大学生が就職活動時にインターンシップで問われること、あるいは大学入試の総合型選抜で小論文や面接で求められることと同じであり、まだまだ狭い世界で生きている一般的な12歳では対応できるはずがありません。たとえば「時間を守る」という習慣について考えるならば、同じクラスの中であればルールにしてしまえば済むことでしょう。ところが社会にはこの感覚に寛容な方も多くいますし、そもそもこの習慣があいまいな国の方々と仕事をする機会も将来あることでしょう。その際、時間管理に関するマイルールや日本人としての常識をただ押し付けてもうまくいくはずがありません。相手をよく観察し、相手の事情や慣習をよく理解した上で、行動や表現を決めていかなければなりません。「自分が耐えれば済むから我慢しよう」となるのか「初めから時間を早めに設定してみよう」と考えるのか、相手も納得してお互いにメリットがある落としどころを見つけることが当然ながらリーダーとしての資質の1つです。リーダーという直接的な表現こそありませんが、【参考3】【参考4】はそれぞれ【参考2】につながっていると私は思います。

例3

小中学生だからこそ、好奇心を持って世の中の事象に関心を持つ

 公立中高一貫校の人気が高い理由の1つが、この「出題の基本方針」からも見えてきたことでしょう。ここに記載されているキーワードの多くが、今後お子さまの人生において節目節目で求められるだけに、公立中から高校受験を考えておられるご家庭にとっても、私立中学への進学を考えておられるご家庭にとっても他人事ではなく、小中学生のうちからこうした資質を身につけさせたいと考える保護者の方は多いでしょう。特に公立中学生の場合は、部活や提出物などで大変忙しく目の前のタスクをこなすだけで日々精一杯となりがちです。未来に向けた準備に時間を割く余裕がなくなるという前提で小学生のうちにできる限り土台を作っておくほうがよいでしょう。
 具体的には、【参考4】の⑷にある 身近な社会生活の中から課題を見出し、思考、判断する力や社会への関心の程度をみる を意識し、「何でも知りたがる好奇心旺盛な子」を育てるつもりでちょうどいいと思います。子ども向けではない普通のニュースや新聞に少し背伸びして触れ、その内容について親子で話をするというのが大切です。「えっ、この時代に新聞?」と思われるかもしれませんが、ネットでは自分の関心ある情報以外には目が向きにくいため、内容が理解できなくても新聞を隅から隅まで目を通しておくことに意味があります。
 また、普段の生活環境の中でも「なぜ?」を考える機会を作りたいところです。たとえば、
・ バスに乗ると「バスが停止するまで立ち上がらないでください」としつこくアナウンスが流れるのはなぜだろう(ちょっと早く立ち上がっても大丈夫なのに)
・ コンビニでは冷たい飲み物が店の奥に置いてあるのはなぜだろう(わざわざ行くのは面倒なのに)
など、なんとなく見過ごしていることをハッキリさせる習慣は、論理的思考力の構築に役立つはずです。保護者がお題を出し、すぐに答えを示さずにいろいろと意見を出させること、親子一緒に検索して理由を確認すること、といった演出を加えることも忘れてはいけません。「自分に見えていない、知らない世界がたくさんあって、それを積極的に知りたいと思うこと」が好奇心の原点であり、前述のリーダーに求められる資質にもつながってくるからです。
 この資質は、公立中高一貫のみならず私立中学の入試においても問われ始めています。今春の武蔵高等学校中学校では、男女別の大学進学率の表を提示した上で「男女や地域による進学率の違いについて資料から読み取れることを書きなさい」という出題がありました。勉強すること、大学を目指すことが当たり前と考えているであろう難関中学の受験生に対して、彼らと違う境遇の方々の姿や女子の大学進学率が高まってきた経緯を問う姿勢は、リーダーに求められる資質・能力を問うているように思われます。

vol.171 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2022年7月号掲載

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