子供の考える力・書く力はこうすれば伸びる!

HOME > 教育の現場から > Vol.174 若い小学校の先生たちは、昔の先生に比べて何が違うの?

Vol.174 若い小学校の先生たちは、昔の先生に比べて何が違うの?

 ベテランの先生方が一斉に定年退職する時代になり、近年小学校を中心に教員の新規採用が増えています。お子さまが通う小学校でも若い先生方が増えていることでしょう。過去40年以上の公立学校教員採用者数を振り返ってみると、全体では最も採用人数が少なかった平成12年の11201人(採用倍率は13・3倍)に対して令和3年は35067人(採用倍率は3.8倍)と3倍に、小学校教員に限ると平成12年の3683人に対して令和3年は16440人と4倍以上に増えているのです。

小学校教員を目指す学生に生じている明確な2つの変化

 新規採用が増えている一方で、教員を目指す学生の減少がしばしば報道されます。トイレ休憩が取れないほど時間に追われる日常や部活で土日も休めないといった現役教員の声、教育実習をきっかけに受験をとりやめることにした学生の声などが中学生や高校生にも届くようになったからでしょうか、47都道府県に設置されている国立の教員養成系学部を志望する受験生は地域によらず軒並み減少傾向にあります。同様の傾向はもちろん教員採用試験にも影響を及ぼしており、採用倍率の低下は「採用人数の増加+志願者の減少」によって生じていることを覚えておいてください。
 今回お伝えする「公立小学校の教員」も例外ではなく、教員採用試験の実施状況を確認するだけでも明らかな変化がこの10年ほどで生じていることがわかります。(表1)をご覧ください。

例1

 平成24年と令和2年の受験者動向を比較すると、男女合わせた受験者数が約14500人減少しているのに対して、女性の減少者数もほぼ同数であることがわかります。つまり、男性はほとんど減っていないのです。受験者に占める女性の割合がわずか10年ほどの間で13・4ポイントも減少していることを覚えておいてください。これが1つ目の変化です。  この明らかな男女差は、近年小学校の職場環境が「女性にとって働きやすいものではない」と評価されていることを示唆しています。公立小学校の教員は、民間企業に比べて育休や産休後に現場復帰しやすい仕事だと私は思っていたのですが、このメリットを上回るほどのデメリットが「多忙」と呼ばれる教員の日常を支配しているのでしょうか、それとも民間企業の福利厚生がこの10年ほどで魅力的なものに様変わりしているのでしょうか。現在小中学生の女子にとっては、将来の職業選択の際の判断材料として、あるいは自身のライフワークバランスを考える上で、一つの大切な視点になることでしょう。
 2つ目の変化は「小学校教員になるためのルートが増えている」ことです。(表2)をご覧ください。

例1

 私やみなさまが習った当時の小学校の先生方は、大学進学率がそれほど高くない頃に国立大学の教育学部に進み免許を取得されています。ところが、政府の規制緩和で2005年以降小学校教員の養成を行える大学が急増したことをご存知でしょうか。私立大学でも様々な名称の小学校教員養成学部が次々と誕生し、今では国立大学の教員養成学部経由で小学校教員を目指す人は教員採用試験受験者の約2割しかいないのです。
 80年代、90年代までは小学校教員になるには共通一次あるいはセンター試験を通過する必要があったため、1人で様々な教科を指導するための学力について一定の担保がありました。ところが今は、極端に言えば高校時代に「私立文系コース」で学び「高2になる段階で数学を捨てても小学校教員養成学部に行ける、教員採用試験を乗り切れば小学校教員になれる」可能性があります。これは小学校教員へのハードルが低くなった一方で、特に算数・理科に関して昭和の受験者ほど学力が高くないあるいは十分な知識を持ち合わせていない先生が世に出ている可能性を否定できないのです。それは(表2)で紹介している採用率の違い(国立の教員養成大学出身か否かで採用率が10 ポイント以上違う)の要因の1つなのだろうと私は推測しています。
 近年の教員採用試験では面接試験などにより人物評価と実践力をより重視する流れにあると言われており、試験配点でも人物評価に関する試験は筆記試験の1.5倍~2倍の配点があるので、面接試験等で高評価を得られなければ最終的に合格を勝ち取ることが難しくなっています。しかし、これだけ情報が世の中に出回っている現在、よほど大きなミスをやらない限り採用率で10ポイントを上回るほどの大きな差が面接試験だけでつくとは考えにくいものです。すると、1次試験として用意されている筆記試験(その難易度は多くが「公立高校入試+高1内容」程度とも言われている)すら乗り越えられない学生の受験率が高いと読み取るべきでしょう。

算数・理科の指導に悩む先生は増えている?

 私の住む埼玉県にある私立のA大学を例に挙げてみます。この大学の小学校教員を目指すための学部では、ある年の教員採用試験(埼玉県とさいたま市:同日試験実施)において、あわせて34名の受験者で22名が合格を勝ち取っています。全体の採用倍率と比べてもこの学生たちは充分に頑張ったといえるでしょう。
 その一方、この学生たちが入学した際の試験概要を見てみると、「募集定員のうち、一般入試の枠は20%、残りの80%は総合型選抜+学校推薦」であり、一般入試の試験科目は「国語必修+英数どちらか選択」の2科目、大学入学共通テストを利用する選抜でも「国語必修、外国語・地理歴史・公民・数学・理科から1教科1科目選択」の2教科2科目で判定されるのです。この選抜形式で1人が複数教科を教える小学校教員としての基礎学力を担保できているかといえば、正直申し上げてわかりません。
 もちろん、受験学力の高さと授業のうまさ、教員としての適性に100%の相関があるわけではありません。
 中学・高校時代に数学・理科を遠ざけていた人でも、大学在籍時に暗記や対策に終始しない算数や理科の土台をしっかりと学び、それらの教科を学ぶ楽しさや探究的な学びのトレーニングを十分に積んでいれば問題はありません。しかしながら実際には、採用倍率が3倍を切っている現状だとトレーニングが十分でないまま教壇に立つ人が一定の割合で存在すると考えておくほうが自然です。そんな彼らは毎日の授業準備において、相当なストレスを感じながら多くの時間を要することでしょう。小学生相手だからこそ、安易な丸暗記で知識を蓄えさせる授業ではなく、子どもたちの知的好奇心をくすぐり深い学びへ導く授業が必要なのですから。

参考:文部科学省「令和2年度公立学校教員採用試験の実施状況」、「令和3年度公立学校教員採用試験の実施状況」

vol.174 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2022年10月号掲載

一覧へ戻る
春の入会キャンペーン
無料体験キット