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Vol.177 入試でギリギリ合格だと入学後の成績はやっぱり低迷するの?

いきなりですが、みなさまは受験界隈でよく用いられる「深海魚」という表現の意味をご存知でしょうか。中学入試、高校入試を経ていわゆる進学校に進んだ生徒が勉強についていけず、成績が最下位層に沈んだまま浮上できないときに使われます。進学先を選ぶ際に、深海魚になってしまうリスクを避けて合格可能性の高い学校を選ぶのか、それとも「ギリギリでもいいからこの学校に通いたい!」というお子さまの意志を尊重するのか、みなさまはどのように決断されますか?

入試の成績と入学後の成績はどの程度リンクするの?

 「合否ラインすれすれでの合格、あるいは補欠からの繰り上げ合格だと、入学しても全員が自分より成績上位者になってしまうので、入学後に深海魚になる可能性が高い」と考える方は、特に6年間中高一貫校へお子さまを通わせる場合、けっして少なくないことでしょう。たしかに、高校も中高一貫校も大学受験を前提とした進学校であれば「入学はスタート、ゴールではないので油断は禁物」と考える必要があります。これまで通っていた中学校あるいは小学校と比べれば、かなり早いペースで進む難易度の高い授業についていく必要があるからです。
 私は塾講師ではありますが、土曜日や放課後に実施される予備校講座を通して、中高一貫校の中1生も進学校の高1生も長く見てきました。その限りではありますが、子どもたちの入学後の状況と成績推移について傾向をお伝えしたいと思います。

① 入学後最初の定期試験と入試結果に相関はあるの?

 1学期中間試験は、入学して間もなく行われるため試験範囲が狭く、教員側もウエルカムモードで試験を作成するため、いきなり成績が沈んでしまうケースは少ないものです。逆に成績上位者については、おそらく上位3分の1程度であれば相関があるといえるでしょう。入試時のアドバンテージが消えていない分だけ有利であることは間違いありません。

② 成績がばらけるのは2回目の定期試験から。入試結果との相関は?

 成績で差がつき始めるのは2回目の定期試験からで、入学時に「この子はできるなぁ」と思っていた子が低迷する、あるいはその逆で「この子は頑張らないとなぁ」と思っていた子が急上昇するケースは珍しくありません。その要因はいくつかあって、
・ 簡単だった最初の定期試験の結果で油断し、準備を怠ってしまう。
・ 部活が本格化し、通学時間も増えることで疲れ切って学習習慣が崩れてしまう。
 これらは入試の成績と関係なく誰にでも起こり得ることです。入学後もコツコツと勉強を積み重ねることで範囲のある定期試験であれば入試時の成績を過去のものにしてしまうことは可能です。
 特に、保護者が目を配っておきたいのは、
・ 英単語や漢字といった小テストの準備を怠るようになる、各教科の課題提出が遅れる。
ことに対して「もういいや」と投げやりになってしまう状況です。課題を1回溜めるとまわらなくなります。遅れてもこまめに消化する、ということを理解して実行できる子はやはり安定した成績を収めているものです。結果が悪くて開き直り、投げやりになれば成績は急降下して浮上することは難しくなります。

③夏休みに生活習慣が崩れると秋以降戻せない

 入試が終わって最初の夏休みですからどんな子でも勉強を忘れて遊ぶのは当然です。ここでチェックしておきたいのは学習習慣の崩れではなく、生活習慣の崩れです。夏休みに夜更かしの癖がついてしまうと秋以降すぐには戻せません。深夜まで動画を見たり本を読んだり、ということに慣れてしまい学校が始まってもやめられない生徒は私が見る限りでもたくさんいます。朝から元気がなく眠そうにしていて、午前中から居眠りを始めるようになってしまうと、もちろん成績は急降下していきます。

行ける学校を選ぶのか、行きたい学校を選ぶのか

 以上のことから、私の個人的な意見は「入試時の成績と入学後の成績は長期的にはリンクしない」です。入試時の、正規合格と繰上げ(補欠)の差は1点です。補欠合格と不合格の差も1点なのです。入試では「されど1点」ですが入学してしまえば「たかが1点」。たまたま自分の得意な分野で出題されたことで10点増えた、前日に塾で配られたプリントのテーマがそのまま出て15点増えた、ということがあり得る世界ですから、合否を分けた1点の差が今後の3年、6年にわたって長く影響を及ぼすとは考えにくいのです。中学入学であれば、小学校とは違うスタイルで進む英語でいいスタートを切れるか、高校入学であれば通学時間と部活、交友関係の変化やスマホを持ち始めることによる生活習慣の変化のほうが、成績の上下動には大きく影響を及ぼします。

“鶏口となるも牛後となるなかれ”

 みなさまが学生だったころ、大人からこの言葉を聞かされたことのある方は大勢いらっしゃることでしょう。私も中3の頃、親に言われました。「トップ校のビリよりも2番手校のトップのほうがいい」という意味です。昭和ならこれでよかったでしょう。しかし今は違います。お子さまは「一生アップデートを続けること、自身を成長させることが当たり前」の時代を生き抜くのです。「不合格で悲しむ姿は見たくない」「入学後に成績不振で苦しむ姿は見たくない」という気持ちはわかりますが、補欠入学だったとしても心がけ次第で成績は後伸びしますし、入試時の成績と入学後に相関がないとなればたとえ入試で不合格だったとしても、それで人生が終わるわけではなく進学先で成績を伸ばすことは充分に可能です。ただし、大学進学における実績格差はかなりあるので、優先すべきは自分の所属する環境やシステムであって、後のことは考えずにその環境を手に入れるためにギリギリでもいいから滑り込んでしまうことをおすすめします。
 ただし、本当にギリギリで合格した場合、入学後の勉強についていくことが楽ではないのは事実です。誰だって入試が終わればほっとして遊びたくなりますから、入学後になお勉強習慣を崩さず努力を継続するのは大変なことです。入学後の新生活の楽しい部分だけではなく厳しい部分についても、志望校選択の前にしっかり話し、その覚悟を確認したうえで受験校の最終決定としましょう。
 私は入試におけるチャレンジには基本的に賛成です。

“可能性がたとえ1%でも、成功する可能性を高める努力を怠らない”

ことを経験した子どもは、その結果によらず明らかに強くたくましくなるからです。受験の結果がどう転ぶかは誰にもわかりませんが、直前期の「最後のひと踏ん張り」は、その後の人生において大きな経験となります。人生の節目の場面で「行けるところを探せばいいや」と考える人が、今後の人生において「最後の力を振り絞ってでも頑張る」気になるものでしょうか。

「総合型選抜」を利用するなら学校の成績は最重要

 最後に、保護者世代が経験していないのが私立大学を中心に採用が増えている「総合型選抜」の扱いです。中1生はもちろん高1生にとっても大学入試は遠い未来なので入学直後から勉強に追われなくても、と親子ともに考えがちですが油断は禁物です。お子さまが大学入試時に「総合型選抜」を使う可能性を考えるなら、普段の評定はもちろん軽視できません。特に高校入試のない中高一貫校では、一度勉強や生活のリズムが崩れると遅れた勉強や評定を元に戻すのに年単位のスケジュールを要することも珍しくないことをお伝えしておきます。

vol.177 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年1月号掲載

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