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Vol.179 一部の都立高校が「無料の校内予備校」を導入する背景

大学入学共通テストの運用開始に代表される様々な大学入試改革の影響を受け、これまで何度かお伝えしたように中学や高校でも、カリキュラムや教科の改訂など多くの変化が生じています。昨年末には「一部の東京都立高校で民間の予備校講師を招いて校内予備校を実施する(費用は都教委が負担するので受講者は無料)」という報道があり、公立高校であるがゆえの公平性や税金が使われることに対して賛否が分かれています。みなさまはどのような考えをお持ちでしょうか。今回は校内予備校導入に至った背景をご紹介していきます。

なぜ一部の都立高校にだけ導入されるの?

 報道によると、校内予備校を開講するのは都立高校の中でも進学指導推進校に指定されている15校で、経済的な事情で進学をあきらめる生徒を減らすのが狙いなので受講料は無料とし、講義は放課後や土日を中心に行い、配点が高い英語や苦手な生徒が多い数学などを指導するということです。私立高校で導入されている例は全国に数多くありますし、九州地区では公立高校でも「朝課外」という名の0時間目授業が行われていますが、いずれも別途受講料を支払って受講することが一般的であるため、受講料が無料(しかも税金が使われる)である点に注目が集まります。2023年度から始める予定で9000万円ほどの予算を計上するとのことですから、単純に1校あたり600万円の支援を受けることになります。
 この情報で不公平感を持たれた方は、あわせて他地域では聞くことのない「進学指導推進校」という仕組みにもご注目ください(表参照)。

例1

 今回校内予備校を導入する「進学指導推進校」というグループは、簡単にいえば「大学合格実績伸長を計画的に行う都立高校の中で3つ目のレベル」ということです。この制度は、全国的にも有名な日比谷高校が、平成5年度に東大合格者が1名になってしまうほど凋落してしまったことを受けて平成13年からスタートしました。今では全国各地で見られる「公立高校の入試問題を複数レベルに分ける」「公立でありながら『自校で作成する入試問題』で選抜を行う」ことを始めたのも東京都、そして日比谷高校が最初です。この仕組みによって、進学指導重点校7校全体の難関国立大学への現役合格者数は、指定前の平成13年度入試(71人)から平成22年度入試では115人へと約1.6倍の増加を見せ、そこから11年の月日を経た令和3年度入試では、なんと日比谷高校単独で100人を、西高校は単独で50人を超える合格者を輩出するまでになったのです。
 (表)をご覧いただければ、2つ目のレベルにあたる「進学指導特別推進校」というグループでは、難関国立大学の合格実績に限らず4年制の国公立大学や早慶上智への合格実績が評価の対象になること、3つ目のレベルにあたる「進学指導推進校」のグループでは、4年制の国公立大学~首都圏の有名私立大学への合格実績が評価対象とされていることがわかります。これらは言ってみれば「政治家の公約」のようなものですから、予算を組んで力を入れている以上「掲げてみたものの実現不可能でした」では済みません。公約実現に向けて毎年最大限の努力と工夫を続けなければならないからです。
 そこに立ちはだかったのが大学入学共通テストです。旧来の大学入試センター試験とは出題形式が大きく変わり、従来の試験対策が通用しなくなってしまったことはみなさまもご存じのことでしょう。昨年、令和4年度の試験では全国平均点が文系・理系ともに前年より50点以上低下し、特に数学Ⅰ・Aでは全国平均が37・96点と過去最低を記録しました。
 問題が難化すれば、大きく影響を受けるのはもちろん成績の中位~下位層です。進学指導推進校のグループから国公立大学進学を目指していた生徒、共通テストを利用した私立大学受験を想定していた生徒は大混乱に陥ったことでしょう。そのため、先生方は新しい入試システムを自身が学び、高1・高2に対応策を提示しなければならなくなりました。しかし、日常業務で手いっぱいの先生方に自身のプライベートな時間を削って研究する余裕はありません。よって、一番不安を感じているであろう生徒たちに適切な受験指導・受験情報を提供する必要があったのです。
 校内予備校を導入する高校が事前にこれだけの特色を打ち出していたとわかれば、受講料が無料になるのも頷けるのではないでしょうか。都民への公約を実現するため、必要な場所に必要な費用をかけるのは当然です。工業高校に新しい機械を、商業高校に新しいPCを導入するのと同様に、進学指導推進校には新しい受験指導や受験情報を導入するということです。また、新しい入試システムが安定するまではどうしても受験校を増やして安全策を取らざるを得ないという点で、「受講料を無料にするから、その費用を受験料に回してください」というメッセージだと受け取ることもできます。経済的事情で受験校を減らしたり進学をあきらめたりする生徒が多く出てしまったら、進学指導推進校という看板に偽りありとなってしまいますから。

高校の「人材育成ビジョン」にも注目を!

 予備校や塾から講師が来て運営される「校内予備校」ですが、いよいよ都立高校でも始まり成果がハッキリ視覚化できるようになると、程度にこそ差はあれ、みなさまの地域でも「公立高校の予備校化」が今後進む可能性がありますので、最新の情報に触れるように心がけておくとよいでしょう。
 東京のように、公立トップ校が大学合格実績をアピールする路線をとってしまうと、それに続く2番手・3番手の高校も予備校化路線をとらざるをえなくなります。生徒の資質が下がれば下がるほど「より勉強の量を増やして成績を上げる」指導が行われるのは自然なことですから、おそらく2番手、3番手のレベルの高校になれば時間と課題に追われ続ける高校生活というマイナスの可能性も捨てきれないからです。
 一方、近年ますます人気上昇中の公立中高一貫校では、出題方針に「リーダーの資質・能力を見る」と明記してあるところが多いことをご紹介したことがあります。私は、これからの日本に求められる人材は「リーダー」だと考えます。高学歴のエリートを養成する教育からはリーダーは生まれにくいですが、リーダーを養成する教育は、結果としてエリートを生む可能性があります。合格実績はお子さまの進路選びにとって大きな要素ですが、公立高校の予備校化が進めば進むほど、我々保護者は高校側の「人材育成ビジョン」にも注目しておく必要がありそうです。

vol.179 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年3月号掲載

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