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Vol.180 2050年までの30年弱で、お子さまを取り巻く環境はどう変わっていく?

 2月末に「2022年(令和4年)の出生数が80万人割れ」という話題が大きく報道されました。2007年生まれ(現中3)が約109万人ですから、この15年で30万人減っています(27%減)。これが単年ではなくずっと続くと、現在の小中高生が働き盛りを迎える頃に今の社会システムをそのまま維持できるとは到底思えません。我々保護者はこの事実を他人事とせず、未来としっかり向き合いお子さまに伝える必要があるはずです。

出生数減少のリアルを我々は認識している?

 今年50歳を迎える人たち(1973年生まれ)は209万人いますが、39歳(1984年生まれ)の人たちは150万人を切り、今春大学を卒業する人たち(2000年生まれ)は119万人です。2022年生まれの人が80万人を下回るというのは、40歳前後の人たちの半分、20代前半の人からみても3分の2まで減ってしまったことを意味します。また、出生数減少のペースを10万人ごとに見ると(表参照)、実はコロナ禍の前から減少ペースが加速していたことがわかります。ところが、国立社会保障・人口問題研究所では平成29年(2017年)における2040年の推定出生数を74万人としていました。これは、コロナ禍前の分析よりも実際は10年程度早く出生数減少が進んでいることを意味します。私自身は日常生活の中でこの状況を肌で感じる機会は多くなかったので、今回データを拾いながら急激な減少ペースにびっくりしているところです。

例1

 対して、今後社会に出ていくことになる現在の小中高生にはすでに準備が反映されています。例えば「小学校で英語が必修化され、中学校の英語がペースアップしている」ことも、少子化とは無縁ではありません。日本国内における競争に勝てばよい、日本国内だけを商圏としていれば経済活動が成り立つという考えが通用したのはもう遠い昔。英語力の向上はもはや必修レベルといってもよいでしょう。資源を持たない我が国が少子化の中でも現在と同様の生活レベルを維持しようとすれば「商圏をひろげて知的財産を売る」のが最もわかりやすい手段になるからです。
 つまり、小中学生であっても「大人になったら英語を話せることがゴールではなく、英語を使って何を話すかが問われる」ことを知っておく必要があり、分析力や観察力、論証力も鍛えておかなければなりません。これらをあわせて「問題解決能力」と称する場面がありますが、おそらくみなさまも今後ますますこの用語を耳にすることがあるでしょう。大学入試改革でセンター試験が大学入学共通テストにリニューアルされた理由もこれですし、大学入試改革と歩調を合わせて高校入試でも出題傾向に変化が生じています。そしてお子さまの就職活動時や社会人になった後も、おそらくこの用語がついてまわります。
 私が先日話を伺ったある経営者の方は、「様々な文化や慣習をもった多様な人材を束ねてプロジェクトを進めていくには、日本人の緻密さや配慮や観察眼が最適だ」「文化が違えば必ず摩擦は起こる。そこに折り合いをつけて前に進んでいくためには、問題解決能力を持つ者が必要なのだ」とおっしゃっていました。

「問題解決能力」を具体的に考えてみる

 ここでみなさまに一つ質問があります。ぜひ親子で考えてみてください。
「今から30年後、移動(例えば通勤や通学、旅行)の手段はどうなっていますか。具体的に述べなさい」
急に尋ねられても返答に窮しますよね。正直申し上げて私もちょっと困りました。普段からボンヤリとでも考えているのであれば別ですが、日常全く意識していないことなので、急に聞かれてもイメージがわきませんでした。みなさまは、そしてお子さまは30年後、すなわち2050年の未来の姿を想像できましたか?
 この問いは、今春(2023年)に東京大学で出題された問題、しかも英語の自由英作文(60~80語)です。出題者の意図が「何を考え、自分なりに整理し、まとめるかのチェック」であって、英文で書かせることは手段でしかありません。英語で表現するという縛りをはずせば、小学生のお子さまでも「原稿用紙1枚ぐらいで」書いてみることは可能です。
 この問いに対しては、「空を飛べるようになります」とか「歩かなくてすむようになります」といった言いっぱなしの表現ではなく「〇〇だから△△になる」のように、具体的な根拠や課題を明示することが求められます。「何も浮かばない、全然わからない」と自分の考えを持てないようでは、いくら英語を熱心に学習していたとしても意味がありません。お子さまが今後様々な場面で求められる「問題解決能力」を磨くには、普段の生活において「明確な根拠に基づき自分の意見を論じる習慣」を養うことが最適です。お子さまが普段取り組んでおられる作文も、この習慣作りに一役買っていることでしょう。そしてみなさまは、このような習慣が「ある日突然身につくものではない」ということに気づいておられるでしょう。この点に関しては幼少からの積み重ねが最も効果的であり、私の周りでは「中学生の時できない者は高3になってもやはりできない」「高3でしっかりできている者は、中学生の時にもしっかりしていた」という傾向がはっきり見て取れることを覚えておいてください。

2050年の世の中、自分の姿はどうなっているのか想像しよう

 今回紹介した出生数減少の件やコロナ禍を例にとればわかりやすいのですが、現在世の中が抱える様々な問題は昭和時代に比べて格段に複雑な背景を持ち、解決のための課題や条件も簡単ではなく試行錯誤しながら見つける粘り強さも必要となっています。お子さまが働き盛りを迎える2050年頃には、現在よりもさらに複雑で未知の課題に直面することでしょう。だからこそ、今からでも「誰かに与えられた丸暗記で覚えた知識量」だけではなく、「自らが正解のない問いに挑む習慣」にも目を向ける必要性を強く感じます。
 丸暗記で覚えた知識が今後も有効に作用する世の中ならば、正解があることを前提に「失敗しない」ことに評価が与えられた保護者世代の習慣を続けてもよいでしょう。しかし残念ながら、今の世の中での正解は「自ら導き出すもの」「新しく作りだすもの」、つまり物事をアップデートした先にしかありません。2050年の日本の姿は、大きくいえば日本国で生活する者全員が出生数減少とどう立ち向かい環境の変化にどう順応していくのか、この「未来を想像する力」が命運を握っているといってもよいはずです。たとえ小中学生であっても、他人事で「2050年?誰かがなんとかしてくれるでしょ」では済まされないことくらいは知っておきたいところです。少なくとも中高生であれば「2050年に自分自身がどのような生活や仕事を求めるのか」をできる限り具体的にイメージし、それに近づく努力や課題を解決するための情報収集は始めておくべきであり、保護者世代が中学・高校時代だった頃の数倍も「社会の一員としての当事者意識」が必要なのです。
 我々保護者も日々の忙しさを言い訳にせず世の中の変化に関心を持ち、未来を想像し、その中身をお子さまに伝えていきましょう。2050年の世の中を主役として動かしていく現在の小中高生と毎日向き合っているのは、我々なのですから。

vol.180 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年4月号掲載

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