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Vol.182 小学生にも他人事ではない「大学の様々な変化」を知ろう

 少子化やコロナ禍の影響もあってか、春になって「今後の入学者募集を停止する」という大学からの発表がいくつか聞こえてきました。その一方で、学部・学科の新設や昭和の時代には想像もできなかった新しい選抜方法を取り入れる大学が増えています。世の中の動向やニーズが変われば、大学での学びも変わり、受験生に求められる資質も変わります。近年の大学の変化は、30年後の世の中の変化を知るヒントになるかもしれません。

「女子大」の募集停止と「女子枠」の拡大に注目!

 前回に続いて、大学入試を取り巻く環境が大きく変わっている様子をお伝えしていきます。ここでは「大学進学を希望する女子の進路選択の志向に変化が生じている」ことに注目してみます。
 1つ目のキーワードは「女子大の入学者が減少傾向にある」ことです。この傾向は大学の存続そのものに影響を与え、この数か月の間にも、恵泉女学園大学(東京)、神戸海星女子学院大学(兵庫)が2024年入試から大学全体の募集停止を発表しました。短期大学では、実践女子短大(東京)が2024年入試から、上智短大(神奈川)が2025年入試からの募集停止を公表しています。昭和から平成にかけて、女子大・短大といえば文学や語学、あるいは家政・生活科学の学部学科が中心で各種資格取得が目標の1つに挙げられてきました。しかしながら、大学のプログラムそのものに変化や発展が見られないところは受験生に見限られはじめているのです。
 国立では、奈良女子大学が2022年から工学部工学科を開設しました。そこでは建築分野の履修も可能です。お茶の水女子大学では、生活科学部人間・環境科学科を募集停止し2024年から共創工学部を新設します。人間環境工学・文化情報工学といった学科が用意され、やはり建築分野が含まれています。同様に私立の日本女子大学では、家政学部住居学科を募集停止し、リニューアルして2024年から建築デザイン学部を新設します。このような、女子の理工系、中でも建築やデザインといった新しい志向に応えられるプログラムを備えていないと、女子受験生を集めることは難しくなりそうです。
 この傾向は「女子枠」というもう1つのキーワードにつながります。
 国立の東京工業大学では、2024年度入試より総合型選抜と学校推薦型選抜で女性を対象とした「女子枠」を導入することを発表しています。2024年度に計58名(総合型43名、学校推薦型15名)、2025年度には143名(総合型128名、学校推薦型15名)の女子枠が設けられ、一般選抜も含めた募集定員の総計を変えないことで、現在の女子比率13%を20%以上にすることを見込んでいます。
 また、つい先日のことですが、私立の東京理科大学は2024年度の入試より新たに「総合型選抜(女子)」を用意し、工学部と創域理工学部、先進工学部の3学部16学科であわせて48名の「女子枠」を設けると発表しました。大学側は「工学系分野により多くの視点や感性を取り入れ、多様な学生が学びあう環境を整備し、イノベーション創出の促進」を狙いとして掲げています。
 この「女子枠」は、国立大学だけでもすでにいくつかスタートしており、今春の入試で実施されたものを紹介しておきます。

女子枠のある国公立大学

「女子枠」とセットの「多様性の確保」

 こうした「女子枠」の拡大は、女子受験生の志向の変化を国がサポートする形で進んでいることを覚えておいてください。文部科学省は大学に対して、多様な背景を持った者を対象とする選抜を求めています。その1つに「理工系分野の入試に女子枠を設ける」があるのです。
 2021年7月「大学入試のあり方に関する検討会議(文部科学省)」での提言によると、多様性とは「家庭環境(経済面など)、居住地、年齢、国籍、障害の有無」など、性別に限定したものだけではなく複数の観点を挙げています。例えば児童養護施設入所者・出身者対象の選抜制度は福岡県立大学看護学部や私立の青山学院大学(全学部)で設けられ、熊本県立大学では生活保護世帯対象の学校推薦型選抜があります。入学者に多様性を求める以上大学の選抜制度にも多様性が求められるのも当然で、「女子枠」がクローズアップされがちですが、昭和や平成初期の大学入試からは想像できないきめ細かい配慮が今後ますます用意されていくことでしょう。

「大学が課せられている「デジタル人材の育成」

 もう1つ、近年多くの大学に見られる変化として「データサイエンス系の学部開設や、学部の枠を超えて受講できるデータサイエンス系講義の開設」があります。文部科学省はデジタルや脱炭素といった分野の人材育成を急いでおり、既存学部を再編して理工系学部を新設・拡充する大学が増えています。ここでは「デジタル人材育成」に絞ってスポットをあててみます。「デジタル人材」とは、デジタル技術やビッグデータを用いて新たな価値を生み出せる人材(データアナリスト)のことです。企業の経営からプロ野球チームの作戦に至るまで、すでにデータアナリストは各地で活躍しており、産業全体の競争力強化や社会の課題解決に関わるなど今後ますます活躍の場は広がることが予想され、その仕事を担う人材育成が急務なのです。
 2024年度からデータサイエンス系統の学部を設置する大学をご紹介します。次の表をご覧ください。
 私が驚いたのは、明治学院大学の情報数理学部新設です。この大学は、文学部や法学部、心理学部といったいわゆる文系の学部が用意されていて理系の受験生には無縁でした。データサイエンスという昭和にはなかった学問が、文系理系の枠を超えていかに世の中から求められているかを示すには一番わかりやすい事例だと私は思います。
 この課題に対して、国は予算の確保も行っています。公立大学・私立大学に対しては学部再編に必要な経費を交付し、大学(国立大も含む)・高専に向けては、人材確保に向けた機能強化の支援を行うとのことです。注目すべきは学生に対する支援で、詳細な要件はまだ検討中とのことですが、理学・工学・農学で学ぶ学生を対象とした修学支援を行う方針を決めたとのことです。
 
 急激なペースで進む少子高齢化にあわせて、社会の様々なシステムが今後次々と変わっていくことでしょう。大学の学部・学科も例外ではなく、すでに変化の波が視覚化できるようになっています。現在小学生のお子さまにとっても他人事ではありませんから、30年後の世の中や求められる資質の変化について親子で話し合ってみることをお勧めします。

2024年度にデータサイエンス系統の学部を新設する大学

vol.182 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年6月号掲載

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