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Vol.183 「上手な勉強のしかた」に悩む子どもたち
今は死語となった「四当五落」という言葉をご存じでしょうか?私が高校生の頃にギリギリ使われていた「4時間睡眠で受験勉強する者は合格、5時間睡眠だと不合格」という意味の言葉です。令和のこの時代にこんな言葉を使えば笑われるだけですが、現代に適した勉強法をこのようなひと言で表せるかといえばそれは大変難しいことです。こうした時代の変化が、我々の時代にはなかった「子どもたちの新しい悩み」となっていることをある調査結果が教えてくれました。
子どもたちの「勉強に対する悩み」が増えている
表1と表2をご覧ください。「勉強しようという気持ちがわかない」「上手な勉強のしかたがわからない」と回答した子どもが、2019年から4年間増え続けていることがおわかりいただけると思います。特に低学年の増加幅が顕著で、小学4年生に限れば前者は4年間で21・7ポイント、後者は4年間で23・3ポイントも増加しているのです。わずか数年間の間で、小中学生の勉強に対する向き合い方がこれほど変わっているとは私も思っていなかったので正直びっくりしています。
また、「勉強する理由」への回答として「先生や親にしかられたくないから」とした小中学生が、2021年から2022年にかけて増加しており、小学生中学生どちらも半数を超えています。例えば、テストで×がつくことを嫌がる子どもは少なくありません。算数・数学においては「×は宝」なのですが、塾に通い始めたばかりの生徒の中には「親にしかられるから」といった理由で、わざわざ正しい答えに書き換えて“できたこと”にしてしまうことがよくあり、そのつど注意して勉強への取り組み方そのものを変えてあげる必要があるほどです。本人に自覚がないとしても「×がついてからが本当の勉強なんだ」と知らない点においては、「上手な勉強のしかたがわからない」につながっているのです。
とにかく忙しい小中学生が求めているもの
塾で小中学生を教えているときの様子を思い出してみると、特に中学生は、昨年あたりから部活が本格的に再開されているものの体力が追いついていないために、疲れていたり体調不良を訴えたりする子が増えた印象があります。時間も体力も限られた中で、いろいろやりくりをしながら勉強や部活あるいは習い事を続けているからでしょうか、昨年あたりから社会人や大学生と同様に「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉を使う子が増えています。このデータから私自身反省しているのですが、指導者側は「忙しい子どもに何を優先して教えるべきか」だけでなく「効率のよい勉強のしかた」も教えてあげる必要が生じています。「そのくらい自分で考えろ、そのくらい教えなくてもわかるだろ」という論は乱暴であると、我々大人が考えを改めなければいけないようです。
次に、子どもたちの「勉強のしかた」への不安や心配を解決するヒントとして、調査報告書によると「学習方法の理解は、学習意欲や成績向上と関連が強い」「学年が上がれば上がるほど、学習時間と成績向上との関連は弱くなる」を挙げていることを覚えておいてください。
表3をご覧ください。
表3においてA群とB群の数値の差が小さいもの(例えば「くり返し書いて覚える」)は、それが学校であれ塾であれ、小中学生は誰かから指示を受けると考えておいてください。だからご家庭で同様のアドバイス(口出し)をすると、「うるさいなー、そのくらいわかってるよ」といった反抗的な態度で返ってくることでしょう。心あたりのある方は、表3のA群とB群の数値の差が大きい項目にご注目ください。これらの項目を実践し続けることが「主体的に勉強しようとする動機」「短い時間で効果的に結果を出す工夫」に、ひいては子どもたちの勉強意欲や成績の向上に結びつくとお考えください。
私にも覚えがありますが、勉強を続けていくための動機については、上手にやっている友人の方法を真似するなど「方法論」から入って様々に試し、取捨選択しながら自分流を作り上げていく過程で「勉強の楽しさに気づく」ケースが多いものです。ところが様々な事情によって近年の小中学生は「方法論から入ってみれば?」といったアドバイスすらもらえず、何をどうすればよいのか見当がついていないまま毎日が流れてしまっている様子が、データからわかってきました。
「宿題はやったの?」「テスト勉強はちゃんとしなさいよ!」と、具体的なアドバイスはなしで声がけしても、子どもがこうした言葉をちゃんと聞いて行動に移すことなどほとんどないことは、我々保護者のほうが経験上わかっているはずですね。今回の調査結果をもとに、お子さまの目に見える学習姿勢を確認して安心するのではなく、どうかみなさまの具体的な経験談を話してあげてほしいのです。
例えば学習スケジュールの立て方や実行したときの失敗談、英単語の効率的な覚え方、極端な例では「算数・数学でわからない問題に対峙したときに先に正解を見るのはアリかナシか」といったものまで、保護者自身が経験した学習法や工夫したポイントのレクチャーということです。みなさまが昔好きだった教科についてその理由を普段からお話しされるだけでも効果があります。「お母さんが社会を好きになるきっかけとなった○○」がいよいよお子さま自身の目の前に登場したときに、お子さまの学習意欲がどれほど向上するかは言うまでもありません。
我々も「解いた問題には丸つけをしなさい」と声がけしますが、丸つけがゴールではないことを教えてあげてください。解いた後の吟味を行い、重要なところや自分の苦手なところを確かめながら勉強のやり方に濃淡をつけるまでが必要ですが、最初は誰かがやってみせてあげないと彼らには理解ができません。小学校高学年になれば、計算一つをとっても「工夫や別の解き方」を吟味する機会が多くあります。その際に自己流の解き方にこだわり「正解だからいいや」と丸つけで終わらせているケースが要注意なのです。
(参考)東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所共同研究「子どもの生活と学びに関する親子調査2022」
vol.183 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年7月号掲載