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Vol.184 英語に苦手意識を持つ中学生が増えている?
コロナ禍で臨時休校が生じた2020年春から、小5、小6で英語が正式な教科となりました。現在中2そして中1の世代は2年間小学校で英語を学び続けて中学へ進級しているのですが、私が見る限りでも「英語に苦手意識を持つ生徒」が増えている印象があります。何人かの英語の先生に思い当たる理由を聞いてみました。
小学校の英語と中学校の英語は何が違うの?
一つ目の理由として挙がったのは、「小学校と中学校では英語の授業で求められる内容が違う」でした。それを裏付けるデータとして、表1と表2をご覧ください。
表1は、小学校の外国語(英語)の授業で教員が意識している項目です。3年間の時系列で見ても圧倒的に高い値の「英語で話すこと」、2年目から急上昇している「英語を聞くこと」が重視されていることがわかります。その一方で「英単語や文を読むこと」は2年目以降2割前後、書くことについてはアルファベットでも4割ほどの実施に留まり、「英単語や文を書くこと」に至っては重視している先生が7人に1人しかいないことがわかります。
この傾向は先生方が成績を評価する際の材料にも影響します。授業中の様子が重視されることはもちろんですが、調査結果によると市販のペーパーテストとパフォーマンステストの利用率は7割前後でほぼ並び、ポートフォリオなどの課題提出状況も3人に2人の先生が採用しているとのことです。
それに対して、彼らが中学校に進学すると今度は定期試験と向き合うことになります。表2をご覧ください。小学校時代にはそれほど重視されてこなかった「読む・書く」が、読むことについては「入試問題に対応した問題を出す」で、書くことについては「記述式の問題を出す」ことで、しっかりと問われていることがわかります。「聞く」についてはリスニングが入試問題に対応するのですが、小学校の先生方が最も重視していた「話す」は、同じ表現力を測る材料として「書く(自由英作文など)」に置き換わっていることを覚えておいてください。
「入試問題に対応した問題を出す」の数値が2年目の2021年から急増している点にもご注目ください。中学校では小学校から1年遅れて2021年から新課程となっていることが無関係ではなさそうです。小学校と中学校の学習内容・評価材料を揃えることができれば一番よいのですが、現在のところ「その違いを理解して、自分で(ご家庭で)準備しておく」ことが、英語への苦手意識を持たないための最善策となっているようです。
保護者世代とは比べ物にならないボリュームの「中学校の英語」
2つ目の理由として、新課程実施に伴う「中学校英語のボリューム増」が挙がっています。現在の小学生は、小3から英語に触れはじめ小学卒業までの4年間で600〜700語の単語を学ぶことになっています。ただし「聞く・話す」がメインの授業を受けているだけだと、これらの単語の多くは当然ながら「音では理解していても正しく書くことはできない」状態であることにご注意ください。
ところが中学生になれば、読むこと書くことが主体の勉強に変わり、さらに前述の単語は「理解している・正しく書ける」ことが前提で授業が進み。中学3年間で新たに学ぶ単語数が1600~1800語、合計では小学3年~中学3年の間で2200~2500語の単語を学ぶことになります。
過去の中学生と比較してみれば、そのボリュームは一目瞭然です。2000年代の中学生(現在30歳前後)は中学3年間で900語程度(もちろん小学校では英語なし)しか学んでいませんし、現高3までの旧課程世代は中学3年間で1200語程度(小学校では数百語程度)の学習量でした。保護者のみなさまの中学生時代と比較しても、現在の子どもたちは当時の2倍程度の英単語に触れることになるのです。
もちろん、そのボリューム増は文法事項にもあてはまります。現在小学校卒業までに疑問詞や代名詞、動名詞に助動詞、そして動詞の過去形まで用いた基本的な表現を学びます。これらは我々保護者世代が中1どころか中2で学んだ内容まで含まれていることを覚えておいてください。現実には授業で「話す・聞く」に終始していたとしても中学校のカリキュラムは小学校の続きとして構成されていますから、それ以外の文法事項も前倒しとなり、「原形不定詞」「仮定法」「現在完了進行形」といったかつては高校の教科書に掲載されていた内容が中学に移っているのです。こうした状況を知ると、表2の「入試問題に対応した問題を出す」の数値が新課程実施とともに急上昇した理由がおわかりいただけると思います。
簡単にいえば、現在公立中学で展開されている英語の学習内容は、2000年代の私立中学のレベル・スピードと同等程度のボリュームなのです。英語の学習については、お通いの小学校での授業内容をしっかりと把握し、プラスαの準備をしたうえで中学校に進学することをお勧めします。公立であれ私立であれ、中学の英語の授業についていけなくなってしまう原因の一つに「小学校時代の準備」が挙げられること自体が、保護者世代の子ども時代とは景色が変わってしまっていることの証なのです。
積極性と好奇心を忘れないで
私自身は高校時代に英語で苦労したので、英語の学習について効果的な経験談をお伝えする術がありません。しかしながら、英語の先生方に聞いた話と塾で楽しそうに英語を学ぶ小学生の姿を重ね合わせると、「自分もこう学んでおけばよかったのだな」と思えるヒントは見つけることができました。
まずは「英語の授業に積極的に参加すること」です。塾の授業でも小学生たちは大きな声で文章を読んだり自分の意見を述べたりしています。中学生になると恥ずかしいという気持ちが先に立ってしまうこともあるでしょうが、とにかく小学生は英語に対して前向きに、知らない英単語や表現に触れることに楽しさを感じてほしいものです。
また、中学に進学した後に備えて「書く」ことにも慣れておきたいところです。昭和、平成の時代に比べて、今の子どもたちは「耳から覚える」が先になっているため、ご家庭では「書いて覚える」を早い段階から並行して続けることをお勧めします。「ちゃんと覚えなさい!」ではなく、お子さまが覚えてきた単語や表現を親子で一緒に書いたり調べたりすることで、書くことへの抵抗感が薄れていくのだろうと思います。
出典:ベネッセ教育総合研究所「小中高校の学習指導に関する調査2022」2023年
vol.184 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年8月号掲載