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Vol.185 10年後の「学びの道具」はどう変わる?

 コロナ禍で否応なく変わらざるを得なかった教育現場において、PCやタブレットに代表されるデジタルツールの活用度が高まりました。その結果、教員のみなさんがその効果を実感したり今後の使い方を具体的にイメージできたりしたことで、教室の様子も今後どんどん様変わりしていくでしょう。例えば10年後、子どもたちの「学びの道具」は何が変わり何がそのまま残るのでしょうか? 今回は、毎日子どもたちに接している先生方へのアンケート結果をご紹介します。

紙VSデジタル 紙はデジタルに勝てないの?

 今回の調査は「10年後の学びの道具のイメージ」です。2つの項目のうち、10年後にはどちらが多く使われているかを想像して回答する仕組みで、2年分の調査結果です。まずは(参考1)をご覧ください。
 紙の国語辞典と電子国語辞典の比較では、私も「もう紙の国語辞典を使うことはないかな」と思います。小学校教員のほうが紙の国語辞典に対する価値を感じているであろうことがデータから読みとれますが、小中どちらもわずか1年で5ポイント以上の変化が生じていて、もうこの傾向が変わることはないだろうと予想できます。では、ほかの教材ではどのような結果が出ているのでしょうか。
(表2)
 教科書では、中学校教員のほうが「紙の教科書」が残ると考えている様子がうかがえます(参考2)。おそらく児童生徒へのタブレット配布が進んだことが影響していると思いますが、やはりわずか1年でデジタル教科書の使いやすさが浸透していることがわかります。これが資料集になると、2022年では小・中学校ともに60%以上がデジタル資料集が多くなると回答しており、教科書よりもその割合が高くなっています。
 理科や社会の授業ではデジタルツールの効果は絶大なものになるはずです。クラス全員がタブレットを持っていれば、紙の教科書や資料集、地図帳をわざわざ持ってくる必要がありません。デジタル教科書の文字に触れるだけで、どんどん関連情報が画面上に出てくるわけですから便利です。実験や観察の様子・手順はもちろん、我々の時代には地図帳を見ながら想像することしかできなかった世界各地の様子だって動画で視聴できるのです。次は(参考3)をご覧ください。
(表3)
 主に宿題として利用されるであろうドリル教材については、小中どちらも2021年には拮抗していたもののわずか1年後には大きくデジタル教材が優位になっています。その一方でドリルではなくテストとなるとまだまだ紙が優位で、特に定期試験がある中学生においては「PCやタブレットのテストが多くなる」の回答が2022年においても3割を切っている状況にあり、テストに関しては使い勝手のよくない様子がうかがえます。

道具が変われば学び方も変わる

 我々保護者世代の学校教育では、『知』は先生が子どもへ教えるもの、つまり大人が子どもへ与えるものでした。親鳥とひな鳥の関係と同じで、親鳥(先生)が用意してくれる『知』という名のエサを、ひな鳥(子ども)が口を開けて待っているという構図、と言えばわかりやすいでしょうか。だから、教室の中で先生の存在は絶対であるべきだったのです。ところが、今後デジタルツールの普及が進めば進むほど、子どもにとって『知』は自ら獲得するものに変わってしまいます。「自ら学ぶ」姿勢を持つ限り、どこまでも限界なく調べることができ、大人と同じ情報に触れることができるからです。毎日がバーチャルな社会見学になれば、子どもは興味のある内容に対してワクワク感を覚えることでしょう。子どもたちの「知的好奇心」や「主体性」を養うには非常に効果があると思います。こうした授業の中から自分の適性や興味を発見することができれば、その子の将来にもプラスの影響を及ぼすことでしょう。これは、学校教育の根幹を揺るがすほどの変化であると、私は思います。
 すると、先生の仕事は「きっかけ作り」と「教室・児童管理」ということになります。かつて我々が経験した「先生が説明する内容を教科書で探して下線を引き、板書された事項をノートに写すこと」がなくなったとしても、しっかりと知識を蓄えそれを元に考察や判断を重ねることはむしろ昔よりも重要です。授業冒頭に「必ず調べなければならない重要事項」を設定しておいて、それに関しての確認テストを行い定着度の確認を行うといった仕組み作りは必要です。また、学習内容に興味が持てず前向きに取り組めない子への補助の役割が重要になることでしょう。積極的な子が恐ろしいほどに自ら『知』を獲得していく一方、そうでない子へのフォローが十分でないと学力差が昭和や平成初期とは比べものにならないほどついてしまうはずですから。


 10年前なら賛否両論あったはずの「教育現場のデジタル化」ですが、データでお伝えしたように教員のみなさんの実感もここ数年で大きく変化が生じておりもう後戻りすることはないでしょう。
 一方、我々保護者はかつて「自分たちが受けた教育の型」からバージョンアップしていないままですから、急激な変化に不安を覚えたり否定的な見方をしたりすることがあるかもしれません。そんなときには「この変化は、子どもにとってプラスなのか否か」という視点を忘れずに吟味していただきたいと思います。ペーパーテストの得点や偏差値が急に無価値になるわけではありませんが、知的好奇心を持って「自ら学ぶ」ことを習慣とできているかどうかも、今後彼らの人生の岐路において何度も試される機会があるでしょう。「真面目でいい子」だけでは、なんとなく見通しの暗い20年後、30年後の日本で生き抜けないかもしれません。誰も正解を持っていないからこそ、足りないと思ったことはご家庭で補充してあげるしかないのです。

出典:ベネッセ教育総合研究所「小中高校の学習指導に関する調査2022」2023年

vol.185 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年9月号掲載

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