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Vol.187 学力の「地域間格差」を可視化してみると

 報道などでご存じの方もいらっしゃると思いますが、毎年小6と中3を対象に実施される全国学力・学習状況調査の平均正答率を都道府県別に見ると、秋田県や福井県、石川県といった地域では、算数・数学も国語も頑張りが目立ちます。首都圏・関西圏といった中学受験熱の高い地域がこの調査だと地方に負けてしまう現象を不思議に思われる方は多いことでしょう。今回はその原因と、首都圏の子どもたちが抱える問題点について紹介します。

大学受験時に強い都市部が「全国学力・学習状況調査」では勝てない理由

 まずは表1をご覧ください。全国学力・学習状況調査では上位に名を連ねる地域でも、大学受験の段階では必ずしもこの順位が維持できているわけではありません。大手予備校が集計している大学入学共通テストの5教科総合自己採点結果を都道府県別に並べてみると、1位の東京から順に、奈良、神奈川、千葉、京都、大阪、兵庫、埼玉と見事なまでに首都圏・近畿圏が続くのです。
 その理由はけっして難しいものではありません。小6・中3が参加する全国学力・学習状況調査は、その学年までの学力到達度を見るものですから、中学受験で出題されるような難問は出題されません。都市部に住んでいようが地方に住んでいようが基礎学力がついていれば得点がしっかり取れるものであり、都道府県別の平均正答率は「既習内容をしっかり理解できていない児童・生徒の割合」を読みとるものなのです。つまり、秋田県や福井県、石川県は「全体的に基礎学力がついている(落ちこぼれが少ない)」ことはいえますが、他地域に比べて優秀な児童・生徒が多いかどうかはわかりません。逆に全国学力・学習状況調査の平均正答率が低い地域は「既習内容をしっかり理解できていない児童・生徒の割合」が多いことが読み取れます。学習習慣はもちろん、家庭のライフスタイルが地方に比べて多様化していることにより、基本的な生活習慣の段階から確立していない子どもの様子もうかがえるはずです。
 一方、大学入学共通テストは、大学進学を希望する者だけが受験する選抜試験です。この試験の都道府県別平均点からは「地域ごとの優秀生の割合」を読みとることができます。そうなれば都市部の生徒が強いのは当然です。みなさんもご存じのとおり「大学受験は情報戦である」ことは事実で、SNSなどの普及によって受験情報の収集がしやすくなった昨今においても、専門のスタッフが傾向を分析し、最善のカリキュラムを組んでいる予備校で「得点へのテクニック」を入手できる環境にある生徒と、予備校そのものが地域になく自分が通っている学校が持つ情報に頼るしかない生徒とでは、入手できる情報の量・質ともに格差が生じます。
 また、都市部と地方では大学受験のスタイルそのものが違うことも知っておきましょう。私立大学の選択肢が多い都市圏では、例えば数学・理科が苦手であれば「私立文系型」の勉強に絞って、大学入学共通テストを回避する選択は珍しくありません。しかし、大学の選択肢が少ない地方在住の生徒の場合は「とにかく地元の国立大学へ」という志向が強くなりますから、苦手教科を「捨てる」ことができないまま大学入学共通テストを受験するケースも少なくないのです。これらの要因が複合的に重なった結果が、大学受験時の平均点格差につながっていることを知っておいてください。

(表1)

首都圏の生徒が抱える「学力の落とし穴」

 こうした事情を知れば知るほど、選択肢も情報も多い都市部のほうが大学受験では有利に見えてきますが、首都圏の実状はそれほど良い話ばかりではありません。大学入学共通テストの都道府県別平均点をじっくり分析すると、実は「隠されている落とし穴」が存在します。表2をご覧ください。
 ハッキリと申し上げると、首都圏の大学受験生には「国語」に弱点があるのです。明らかに関東圏の各都県の順位が低いことが確認できると思います。手元に資料が残っていた2009年度と比較すると、神奈川と東京は順位が上がっていますが、その他の地域では改善されることなく軒並み40位以下に位置しています。ちなみに近畿圏では、1位の奈良、2位の京都以外にも、和歌山(6位)、兵庫(8位)、大阪(9位)と、関東圏との差は歴然としているのです。
 もちろん前述の通り「国語〇、数学×」といった受験生が一定の割合で共通テスト受験を回避している影響はあるでしょう。だとしても、近畿圏と関東圏でこれほどの差がつくには、必ず理由があるはずです。
 私自身も当事者の一人なのでお恥ずかしい限りなのですが、もしかすると首都圏の場合「普通の生徒にテクニックを教えて点数を取らせる」ことで、受験生の得点をかさあげしているだけなのかもしれません。事実、数学ⅠAの順位を見ると東京(2位)、神奈川(4位)、千葉(7位)、埼玉(13位)と、明らかに国語とは位置が違うのです。そのスタイルが国語についておそらく逆効果になっているのでしょう。
 小学生・中学生のうちから目先の得点を気にするあまり「記述が苦手なら捨てろ、その分漢字と文法は完璧に」では国語力が伸びていくはずがありません。特に小学生のうちは「パターン」より「思考」を優先するべきだと思います。具体的には現在取り組んでおられる「読んで、考えを書く」という土台部分を徹底することを大事にしてください。

(表2)

vol.187 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2023年11月号掲載

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