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Vol.19 大学進学率が50%を超える時代の「大学生就職活動事情」
8月上旬のある日、新聞に「今春の4年制大学への進学率が現役・浪人合わせて初めて50%を突破した」という記事が掲載されていました。大学進学率といえば、普通は「4年制大学+短期大学」への進学率のことを指します。この数値は2005年(平成17年)からすでに50%を超えていましたが、いよいよ4年制大学へ高校生の半数が進む時代がやってきたのです。高校進学率が98%に達する時代ですから、簡単に言えばお子さまが通う小学校で、クラスの半数が4年制大学へ進むわけです。進学率50%ということは、偏差値50の学生でも4年制大学に通えるため、偏差値70の学生と一くくりで「大学生」と呼ばれる時代なのです。
女子学生の大学進学率の急増
まず、大学進学率の推移を表にまとめてみました。
これを見て最も目をひくことは、「女子学生の4年制大学進学率」が急激に伸びていることです。女子学生の場合、かつては短期大学への進学率のほうが高く推移してきました。例えば1985年には4年制大学進学率13.7%に対して短期大学進学率は20.8%だったのです。これが初めて逆転したのは96年(平成8年)のことですから、それほど昔の話ではありません。それが今年(2009年)には、4年制大学進学率44.2%に対して短期大学進学率は11.1%と、女子学生の短期大学離れが加速度的に進んでいることが見て取れます。なお、女子学生の4年制大学進学率が初めて20%を超えたのは94年(平成6年)、30%を超えたのは00年(平成12年)、そして40%を超えたのは07年(平成19年)と、本当にここ数年の話であること、私が見聞する限り「女子のほうが優秀だ」とおっしゃる先生が多いこともお伝えしなければなりません。
大学生の就職活動の現状
こうした情報を知った上で「大学生の就職活動」に関するニュースに触れると、注目すべき点は2点に絞られます。まず「優秀な女子学生を採用できる企業」が限られている点です。女子学生の動向に大きな変化が起こっているのがここ数年ですから、その変化をつかんでいない企業は出遅れます。かつてのような結婚→退職ではない、トータルなライフプランを提示できなければ優秀な女子学生には選んでもらえないのです。「女子学生に選ばれる企業」であることは、企業が今後成長していくための一つの条件であると私は思います。
逆に「企業が学生を選ぶ基準」も厳しくなります。今はエントリーシートと呼ばれる書類一枚で第一次審査が行われることも多く、企業が用意したシートに志望動機から自分の性格まで、面接で聞かれるようなことを事前に書いて提出するそうです。このシートだけで落とされることも少なくないらしく、私の周辺でも「エントリーシートの書き方」といった本を読んでいる学生をみかけることがあります。
選抜方法が厳しくなっている原因について、もちろん景気動向の影響で採用人数が少ないこともあるのかもしれませんが、企業側が「この10年で増えた10%の枠に入っている大学生」をまずふるいにかけているのではないかと推測します。チェック項目は「大学名」などより「字の汚さや誤字脱字」あるいは「論の組み立て方」といったレベルだと思われます。
そして、運よくこの審査を通過できたとしても、次に筆記試験が待っています。数学を高1で捨てても大学生になれる時代ですから、これらの学生にとっては筆記試験も高い壁になることでしょう。大学時代のみならず今までに自分が経験してきたことが問われますから、大学時代によほど改心して努力していない限り、「何十社受けてもダメだった」という事態を招くことでしょう。
超就職氷河期の原因
おそらく99年(平成11年)から数年の「超就職氷河期」と呼ばれた時代も、今と同様だったのではないかと、私は推測しています。確かに景気は最悪であったけれど、氷河期の原因が景気のみとは私には思えないのです。実は4年制大学への進学率が初めて30%を超えたのは94年(平成6年)であり、そのわずか3年前からおよそ5%もアップしています(91年の進学率は25.5%でした)。さらに、ここからわずか8年後の02年(平成14年)に初めて40%を超えているのです(ちなみに20%→30%とアップするのに22年間かかっています)。
これによって大学生の質の低下が起こったとすれば、企業側の見る目が厳しくなるのは当然です。進学率から見ると、やはり00年前後には「学生がちょっとおかしいぞ」と企業が気づいていたと見るのが自然だと思います。この時期と氷河期が重なっているのは、単なる偶然ではないはずです。
小学生時代からの経験が問われる就職
「4年制大学の進学率が50%を超えた」という事実は、誰もが何となく感じていた「とりあえず大学さえ出ていればなんとかなった時代」が完全に終了していることを改めて教えてくれました。おそらく就職に関しては、「どこの企業からも誘いがかかる学生」と「何社受けても採用されない学生」の二極化がさらに進むことが予想されます。「どの大学を出たか」が問われる時代から「大学で何を学んだか」を問われる時代となり、そして「大学に入る以前のトータルな経験」が問われる時代になってきます。
小学生のうちからしっかりと自分の考えを作文に表す経験を十分に積んでいることは、受験のみならずきっと就職活動においてもプラスの要因となることでしょう。
vol.19 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2009年 10月号掲載