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Vol.191 時代の変化に左右される公立学校の「土曜授業」について

 土曜朝に仕事へ向かう際、学校へ向かう小中学生を見かける機会が増えた気がします。私が塾で教える生徒からも「今週の土曜は学校なんですよ(疲れます)」という声が聞こえてくることが多くなりました。中学生の部活ではなく「土曜授業」として登校するのです。公立学校で土曜日が休みになってから20年が経過しましたが、みなさまの地域では「土曜授業」が実施されていますでしょうか。

「学校週5日制」の経過を思い出してみましょう

 公立学校の週5日制は、月1回(第2土曜日)が休みになった1992年9月から始まり、段階を経て現在へ至っています(表1参照)。

(表1)

 その目的は「子どもたちの生活全体を見直し、ゆとりのある生活の中で、子どもたちが個性を生かしながら豊かな自己実現を図ることができるように」とされ、保護者の働き方も週休2日制が当たり前になっていく過程の中で土曜日に親子が一緒にいる時間を増やしたいという意図があったようです。
 土曜日の休みが月1回だった1993年6月に掲載された朝日小学生新聞のアンケート結果では、「休みになってよかった」と回答した小学生が約8割にのぼったそうです。「家族や友だちと遊ぶ時間ができた」などが理由に挙がりましたが、今まで学校に通っていた日が休みになるのですから、理由も何もなく純粋にうれしいという気持ちはよくわかります。ところが、土曜日の休みが月2回に増えた1995 年6月のアンケートでは、「休みになってよかった」と回答した人は約6割に減ったそうです。一方、約3割が「どちらともいえない」と回答しており、その理由としては「習いごとがある」「休みだと友だちと会えない」「平日の授業が長くなった」などが挙げられていました。
 完全週5日制に移行するにあたっては、1996年の中央教育審議会答申の提言(子どもたちに「ゆとり」を確保する中で、学校・家庭・地域社会が相互に連携しつつ、子どもたちに生活体験、社会体験や自然体験など様々な活動を経験させ、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」を育む)が影響を与えています。ここに登場する「ゆとり」「生きる力」といったワードは、2002年から実施されたカリキュラムの象徴としてご記憶の方も多いのではないでしょうか。
 2002年4月の保護者向けアンケートでは、土曜日が完全に休みになることよりも、学校で勉強する内容が3割減る新学習指導要領に関心が集まり、回答した保護者の約8割が「学力の低下を心配したことがある」と答えているのです。この学力低下問題は、首都圏では「学校と塾の連携」という新しい取り組みにつながりました。学校の先生が土曜日に授業できない代わりに塾の先生を派遣する仕組みを各自治体レベルで模索したのです。私自身、2005年には1年間土曜朝に港区お台場の中学校へ通いましたし、2006年に開校した「千代田区立九段中等教育学校」では、私立中高一貫校に負けないために開講された土曜予備校講座の数学科講師+責任者として授業をしたり先生方と打合せを重ねたりしていました。
 この心配が、「PISA」と呼ばれる学習テスト(経済協力開発機構の加盟国を中心に実施)の順位が下がってしまったことで表面化してからは、学校の週5日制と当時のカリキュラムに批判が集中することとなります。2010年に東京都教育委員会は条件付きで小中学校の土曜日の授業を認め、大阪市では当時の市長選で土曜授業が公約として掲げられるほど注目を集めることになったのです。
 こうした批判を受けて改訂された新指導要領では、小中学校の学習内容の急増と授業時間数の増加が目玉になったため、夏休みを減らす・平日の授業時数を増やす・土曜日に授業や行事をするといった運用が必要となり、土曜授業の実施が可能になったのです。ただし、必ずしも普段通りの授業が行われただけではなく、例えばネットリテラシーについての講演や地域の特性について学ぶために地元の人を招くといった行事に時間を割くケースも多かったようです。

時代の変化に左右される「土曜授業」の価値

 このように10年ほど前までは脚光を浴びていた土曜授業ですが、コロナ禍の影響があるとはいえ、減る傾向にあります。表2をご覧ください。

(表2)

 2018年度は公立の小・中学校ではどちらも実施率が26.3%でしたが、2022年度には小学校中学校ともに半減していることがわかります。実施状況は地域によって異なり、鹿児島県ではすべての公立小中学校で毎月第2土曜日に半日の土曜授業を年間7回から10回行っています。一方、佐賀市では市立の全小中学校で行っていた「午前中のみの土曜授業(原則年5回)」を2022年春から廃止し、2学期の始業日を3日間早めました。東京都品川区でも、2021年までは第1・3土曜日を授業日とし給食なしの午前中授業を実施していました(年14回)が、2022年以降は第3土曜日のみ(年8回)に縮小しています。
 富山県滑川市教育委員会が行った土曜授業に関するアンケート調査(2022年12月実施)では、小学生児童を持つ保護者の76%、中学生生徒を持つ保護者の82%、教職員も83%が「実施に反対」と回答しており、私もビックリしました。その理由は「日曜日しか休みがなかった次の週は、子どもが疲れて学校をいやがることがある」「土曜授業の日にクラスの4分の1が、スポーツクラブの試合で欠席していた」「スポーツクラブの試合が土曜日に入ることが多く、泣く泣く欠場するのはつらい」「地域等の人材活用のために土曜授業を設定しても、講師も土曜日が休業のため、土曜授業の設定が難しい」「土曜授業に抵抗がある有能な教職員が他の市町村に流出する」といったもので、これは昨今叫ばれている教員の労働環境問題やコロナ禍で落ちたとされる子どもの体力問題、土曜日の使い方の多様化など、社会情勢の変化が相似形で現れていることがわかります。一見すると、10年以上前に焦点となった「生徒児童の学力低下問題」は理由に入っていないため解決したかに見えますが、実状は違っています。
 土曜も含めて塾に通っている子は土曜授業を必要としないでしょうし、教員のワークライフバランスに目を向ければ近年の教員不足の直接的な原因の一つともされているだけに改善は緊急の課題であり、土曜日に負担を強いるわけにもいきません。一方で、平日の授業でついていけていない子や経済的事情で塾に通えない子、保護者が土曜に仕事で不在の子にとっては、土曜日の学びの場そのものに意味があることを、私自身実際に見てきただけに切り捨てることにも抵抗があるのです。
 

参考:学校週5日制に関するこれまでの経緯(文部科学省)https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/week/index_b.htm
朝日小学生新聞(2018年10月3日付け)https://www.asagaku.com/2019/heisei/8/20181030.html
令和4年度土曜授業に関するアンケート結果について(富山県滑川市教育委員会)
https://www.city.namerikawa.toyama.jp/material/files/group/21/20230316.pdf

vol.191 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年3月号掲載

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