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Vol.192 「入試の出題ミス」から透けて見える現代の受験事情

 2月〜3月の受験シーズンには、大学入試を中心に高校入試や中学入試でも数えきれないほど「出題ミス」が発生します。「〇〇大学××学部の一般入試で出題ミス、該当問題は受験者全員を正解とします」といった記事をご覧になったことのある方は多いでしょう。また、某国立大学では今春の入試(英語)で、2年前に出題した問題をまったく改変せずに再出題して受験生の間で話題になっています。出題ミスにせよ再出題にせよ、入試問題の扱いについて保護者世代が学生だった頃とは何が変わっているのでしょうか。

出題ミスが発生する背景

 例えば数学の入試問題を作成するとして、大学入学共通テストであれば「本試験と追試験」の2本が最終的に必要となります。公立高校の入試問題も同様に最低2種類(地域によって異なる)を作りますが、これらの問題(誰が作るかについては原則公表されない)は、おそらく専門のチームを作って充分な時間を割いていると思われます。一方、私立の大学・高校・中学の場合は、入試問題を作成するのはそこで教鞭をとる先生方に限られ、受験機会を増やすために入試日程を複数用意している都合から、必要とされる入試問題はおそらく5種類では足りないでしょう。特に、中学と高校を併せ持つ場合には1人あたりの作成負担はもっと多くなっているはずです。
 また、入試問題を作る工程には時間がかかります。中学入試で算数の問題を作ろうと思えば、普段は中学生や高校生を教えている先生が小学校の教育課程を確認して理解するところから始めなければなりません。さらに大手塾のテキストやカリキュラムにも目を通しておく(大手塾のシステムに準じて出題するか独自性を主張するかも学校による)ことも大前提です。
 次に問題を数多く用意し入試問題としてセットを作りますが、ここで気をつけるべきは「類似問題」の存在です。我々塾予備校側からすれば、テキストに掲載している問題が出題されれば歓迎するところですが、出題者の立場で見れば合否判定に影響が及ぶ可能性があるため、意図を持った類似問題の出題以外は避けたいのが本音でしょう。すると、他の中学で類似した設問がないかどうかチェックする必要が生じます。これを本気でやろうとすればとんでもない時間と労力を必要とします。チェックといっても最新年度の入試問題だけを調べればよいわけではありません。2年前、3年前、……、10年前と詳細に調べ始めればキリがなく、しかも日本全国の入試問題に範囲を広げ、その上で完全オリジナルの出題を目指すとなればとんでもなくハードルが高くなることは誰にでも想像できるはずです。
 ようやく入試問題の原案が出揃うと、出題テーマのバランスや難易度、受験生全体の平均点予測、作成した模範解答や誤植のチェックなど、確認すべきことは次々と出てきます。これらの作業を何人かの専門チームとして取り組むのであればまだしも、限られた人数の中でただでさえ忙しいといわれる教員の仕事をこなしながら行い、ミスなく入試問題として複数完成させるというのは、私のような雑な人間からは想像できないほどの激務なのです。
 我々の間で最近話題となったミスとして、今春の早稲田大学基幹・創造・先進理工学部の数学の入試問題があります。ある設問で「それぞれ」が「ぞれぞれ」となっている誤植の訂正がありました。これだけならまだ笑ってすみますが、実は同じ問題で設問自体に不備があったことが後からわかり、入試終了後に公表されています。この二重のミスは、本来であれば何人かの相互チェックで防ぐべきものですが、それが防げないほどに現場に余裕がないことをうかがわせます。
 それでも、まだ採点途中でミスに気付き合否判定に不具合が生じていない点では不幸中の幸いといえるでしょう。近年では「後から採点ミスがわかり、いったん不合格とした受験生に追加合格を出した」というケースが報道される機会も増えています。
 国立富山大学では、2022年2月に実施した入試における採点ミスによって2023年3月に追加合格を発表しました。報道では、学内の教員ら13人が作成・点検を担当し、計9回の確認作業をしたものの解答例の誤りに気付けなかったとのことです。追加合格では1年への入学か2年への転入学、他大学に進学していた場合は取得した単位を認定するなどの救済措置、大学や予備校の入学金や授業料など不合格で生じた費用の弁償があるとはいえ、受験生側から見れば許せるものではないでしょう。

保護者だからこそ知っておきたい「入試過去問題活用宣言」

 前述のような入試業務負担を軽減するために、出題ミスによって受験者に不利益が生じないように、今後注目が集まるであろう仕組みが、大学入試における「入試過去問題活用宣言」です。
 これは、簡単に言えば「(この宣言に参加している大学どうしであれば)自身の大学あるいは他大学で過去に出題された入試問題を、そのままあるいは改変して再利用できる」というルールです。
 入試の公平性などを考えると、他大学の入試問題の流用に否定的な方が保護者世代にはまだまだ多いと想像できるのですが、これをルール違反とはせず、宣言に参加している大学の入試問題は「お互いの共有財産」として活用しようとする仕組みです。

(参考)

 参加大学には、東京学芸大学、お茶の水女子大学、横浜国立大学といった首都圏の人気国立大学をはじめ、看護医療系の学部を持つ公立大学、東京慈恵会医科大学や順天堂大学といった私立医大も名を連ねています。特に医学部を持つ国立大学の存在は大きく、令和5年・国立大医学部に限定しても、岐阜大学、高知大学、大分大学、宮崎大学、鹿児島大学、琉球大学の6校で、何らかの教科・科目において過去問題を利用したことが公表されています。大分大学を例に挙げると、医学部・理工学部で実施した物理の試験では、お隣の熊本大学(2010年)の問題を一部改変して利用しています。
 大学入試においては、総合型選抜の急激な普及に伴って一般選抜(学力試験)を利用する受験生の割合が減る傾向にあります。その一般選抜の中でも、宣言に参加している大学への進学を希望するか否かによって、受験直前期の準備の仕方は変わってきます。今後宣言に参加する大学は増えることが予想されるだけに、そこを目指すのであれば、受験生に求める能力や出題意図の近い他大学の過去問も含めてしっかりと練習することが、こうした情報に触れたことのない受験生との差になることは言うまでもありません。特に、自大学の過去問を再利用するケースは特定の大学に見られるため、該当する大学への進学希望者は受験勉強への取り組み方やスケジュールも「みんなと同じ」では通用しないことを、保護者のみなさまはしっかりと頭に入れておきましょう。
 高校入試や中学入試では、このようなルール作りは公表されていませんが、算数・数学だけでも実際には「そっくり問題」が毎年存在します。許可を得ている得ていないは別として、それは作問者が問題を研究している証でもあります。なぜならば「よい問題は誰が見てもよいと思う」からです。「1回入試で利用したからもう終わり」ではもったいない問題はたくさんあって、同じ学校が数年の間を空けて再出題する場合も、違う学校が若干設定を変えて出題する場合もあり、このような傾向が強い学校と弱い学校の違いがあることも知っておいてください。
  入試問題においては、お子さまの本来の実力とは違う部分で情報の差が生じることを否定できない時代になっています。誰もがスマホなどを通して情報にアクセスできる時代だからこそ、将来お子さまが挑む入試情報のアップデートを心がけたいものです。

vol.192 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年4月号掲載

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