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Vol.193 「小学校で学ぶ英語」の周辺に生じている変化とは?
今春(2024年春)から小学校の教科書が改訂されました。小学校で英語が教科になった2020年春の大改訂から早くも4年が経過し、「小学校で学ぶ英語」「小学校で英語を学んできた子どもたち」を取り巻く環境は今後どのように変わっていくのでしょうか。中学入試の予定有無に関係なく、保護者のみなさまに知っておいていただきたい情報をご紹介します。
中学入試の「英語」で学校側が求めるレベルはどう変わるの?
2024年度の首都圏中学入試では、「英語で受験できる入試」を採用する私立中学が142校(うち国立1校)となりました。首都圏(1都3県)にはおよそ300校の私立中学校がありますので、およそ半数の学校が何らかの形で英語入試を採用していることになります。表1のとおり、実施校は、2014年度入試から比べると10年余りで9倍以上に増えましたが、小学校で英語が教科となった2020年までは顕著な増加を見せたものの、以降は頭打ちになっているように見えます。
しかしながら実際は、ここ数年でリニューアル開校した学校(学校名にカタカナ表記が入ったり、国際と入ったりする)を中心に英語入試を新規に採用しており、これまで実施していたものの諸事情で取りやめた学校と相殺されて表向きは変化がないように見えるだけなのです。
取りやめた学校の事情は様々ですが、ひと言でいえば「効果の検証が終わって仕組みを改めた」ということです。受験者増を狙った学校であれば、その効果と教職員の負担(問題を作る、入学後のクラス編成など)を天秤にかけて継続の可否を検証できるだけの年月が経過しました。英語入試で入学した生徒の実力や周りの生徒への波及効果についても、2016年度・2017年度あたりから採用した学校であれば、いよいよ中高6年の追跡調査が完了して期待通りの効果が得られたかどうかの検証が可能になる時期にさしかかっており、仕組みを改善する動きが表面化しても不思議ではありません。
また、英語入試を経ずに入学した生徒たちでも、しっかりと英語力を成長させることが可能であると判断できれば、わざわざ英語入試を用意しなくてもよいのでは?と考える学校も今後登場してくることでしょう。
一方で、この時期から英語入試を新設する学校の背景には、小学校での英語授業やグローバル教育の充実といった理由はもちろんのこと、お子さまが学んできた小学校英語の学習履歴の検証とは全く違う視点で英語入試を用意する必要が生じていることが挙げられます。大きく報道されることはありませんが首都圏において「隠れ帰国生の争奪戦」が今後激化するため、その受け皿として入試の機会が必要なのです。
実は、東京都内の学校では今春(2024年春入学者)から、帰国生入試に関するルールが厳しくなったため、高い英語力を持った小学生に入学してもらうための「抜け道」がなくなっていたことをご存じでしょうか。
東京都内の私立中学を取りまとめる東京私立中学高等学校協会では、帰国生入試の対象者を「海外在住経験が1年以上あり帰国後3年以内」と定めていますが、近年この条件が有名無実化していました。国内のインターナショナルスクール(以下インター校)に通っていたり、帰国後の年数の条件に適さない場合であったり、さらには英語力が高ければ「海外在住歴」がなかったりしても受験可能とする学校まで出始めたのです。このようにして、いくつかの学校では「隠れ帰国生」として高い英語力を有する子どもに入学してもらう機会を増やし、加えて帰国生入試の実施時期に関する取り決めがなかったこともあって、早い学校では6年生の秋(10月中旬頃)から帰国生入試を実施することで「隠れ帰国生」の青田買いともとれる仕組みを作っていました。
このような学校が欲しがるのは、日本国内に在住していても小学生のうちに英検2級以上を取得していたり、インター校に通いながら高い英語力を備えたりしているような子どもたちです。首都圏では海外の大学進学を視野に入れて準備をしているご家庭も多いとのことで、海外大学への進学実績が欲しい学校はもちろんのこと、中高6年間で学校側が用意するグローバル教育の中心となれる能力を持っている、あるいは国内難関大学への合格も期待できるという点で、このような「隠れ帰国生」と呼ばれるような子どもたちの争奪戦が激化していたのです。
しかしながら、こうした動きが活発になればなるほど当然ながら不公平であるという声があがり、ついに2024年春から帰国生入試対象者に関するルールの徹底、入試実施時期は前年の11月以降とすることが通達されました。これによって、帰国生枠あるいは早い時期での入試に挑めなくなってしまった受験生へ向けた「国際生向け英語入試」を一般入試の時期(東京では2月1日以降)に正式に設けた学校がいくつかあります。今後も英語入試への新規参入が続くことが予想されるため、しばらくは表1の数値推移に影響が見られるでしょう。
教科書改訂に伴い、ますます小学校で学ぶ英語は軽視できない
中学入試の予定有無にかかわらず、小学生は現在小3~小6の間に英語を学びます。今春(2024年春)から小学校の教科書が改訂されたことに伴い、彼らが小学校で学ぶ英語に様々な変化が生じています。
2020年度以降の小学生は小3~小6までの4年間で600~700語の単語を学ぶことになっていましたが、今後は多い教科書では800語以上、ほとんどの教科書で700語以上と、全体で学ぶ単語数は15%ほど増加します。この影響はおそらく中学生にもおよび、これまでは小3~中3の間で2200~2500語の単語を学ぶことになっていましたが、これも増えることでしょう。ちなみに、2000年代の中学生(ゆとり教育と言われた世代)は中学3年間で900語程度(小学校では英語なし)、2010年代の中学生(脱ゆとりと言われた世代)では中学3年間で1200語程度(小学校では数百語程度)の学習量でしたから、中学入学前に800語も学ぶことがどれほど重い意味を持っているかがおわかりいただけるでしょう。
もちろん懸案事項は英単語だけでなく文法事項にもおよびます。これまでも小5・6年で疑問詞や代名詞、動名詞に助動詞、そして動詞の過去形まで用いた基本的な表現を学んでいますが、今後は「疑問詞を使った一般動詞の疑問文」「不定詞」「一般動詞(3人称単数現在形)」も小学校の教科書で学ぶというのですから、我々保護者世代が中1どころか中2で学んだ内容まで含まれていることを知っておき、今後公立中学で展開される英語の学習内容は20年前の私立中学のレベル・スピードと同等だと思っていてください。公立中学にお子さまが進学予定の場合には、早い段階から英語に関するサポートが必要かどうか、英検のような資格試験などを通してチェックしておくことをお勧めします。
中学入試を経て私立中学に進まれる場合には、上記以上のレベル・スピードで授業が進むこともあるでしょう。多くの中学受験生は「国・算・社・理の4教科」をベースとした学習の積み重ねを準備しているため、「英語は中学から本格的に学べばいいや」「すべての私立中がインター校に通うレベルの英語力を小学生に求めるわけじゃないから」といった理由をつけて、小学校で学ぶ英語を軽視する場合が散見されます。小学校の授業で重視される「話す・聞く」はもちろんのこと、「書く・読む」についても定期的に最低限のチェックをお勧めします。
vol.193 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年5月号掲載