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Vol.195 急激に広がる「高大連携」には2つの視点があります

 首都圏では、これまでもリニューアル(進学校化や共学化、国際化など)によって志願者・入学者を増やした私立中学がいくつもあります。中高6年間の過ごし方に選択肢が増えることは、中学受験を志すご家庭にとって魅力の1つとなってきました。これに加えて近年では「高大連携」の有無が学校選びの材料に急浮上してきました。

特定の大学への推薦枠が増える「高大連携」

 近年では、学校の統合や合併、系属化といった業界再編ともいえる大きな動きが広がっていて、首都圏では特に大学進学時の優位性、つまり「特定の私立大学への推薦枠」を持つ私立中学が増えてきました。それは医学部を持つ大学に対しても例外でありません。順天中学・高校は、医学部・獣医学部・薬学部など8学部を持つ北里大に吸収合併されることになりました。具体的な条件は未定ですが、北里大学への内部進学が可能になるでしょうから、この学校の人気は今後急上昇していくことでしょう。
 宝仙学園中学・高校では、これまでも「理数インター」というコースが人気の学校でしたが、医学部を持つ順天堂大の系属校となり医学部内部進学枠を持つ新コースを設置する予定です。順天堂大は従来推薦入試を行っておらず、附属の中学高校も持っていませんでしたから、学力勝負の一般入試によってのみの選抜でした。それが今回、宝仙学園だけが数名の医学部推薦枠を持つことになるので、医学部志望のご家庭にとっては大歓迎となることでしょう。
 こうした「推薦枠拡充」の動きはもちろん医学部以外にも広がっています。中学・高校が大学の系列に組み込まれたことで、大学進学時の優位性を得たケースに注目すると、すぐに思いつくだけでも
 日本学園中・高→明治大学
 浦和ルーテル学院→青山学院
 横浜英和女学院→青山学院
 横浜山手女子→中央大学
 京北→東洋大学
などがあり、どの学校でも人気難易度ともに上がっています。経営母体が異なるままでの連携に目を向けると、例えば三輪田学園中学・高校は、建物が隣接している縁で法政大学と2015年から高大連携協定を結び様々な交流を行ってきましたが、それを拡充する形で「学校推薦による法政大学への進学枠」が最大30名用意されることになりました。法政大学は、特別聴講制度により三輪田学園在学中の高校生に大学の授業の聴講を認め、大学入学後は単位を認定するというのですから、高校在学中の勉強内容にも変化が生じることでしょう。
 麹町学園女子中学・高校は、2017年度から「東洋大学グローバルコース」が設置されています。公表されている情報によれば、2024年度は51名が東洋大学に合格し、このコースの62%にあたる生徒が進学しているそうです。推薦基準として学校の評定はもちろんのこと、英検2級以上を受験してCSEスコア1980点以上を取得すること(国際学部グローバル・イノベーション学科は2150点以上)、東洋大学の各学部・学科の入学選抜科目に対する個別の学力基準をクリアしていることが挙げられていますから、推薦枠があるからといって日々の学習で手を抜けるわけではありません。

ますます増える「高大連携」の2つ目の視点

 次に、大都市圏限定の話題である「私立中・高の系属化」や「特定の大学進学への優位性」ではなく、公立私立を問わず全国の高校に共通する純粋な「高大連携」の未来と可能性について考えてみます。
 高校(私立の場合は中学も)と大学の連携・交流は今後ますます増えていくことが予想され、その理由として「総合的な探究の時間」への対応が挙げられます。これは、2022年度から高等学校でスタートしている科目で、詳細な紹介は省きますがより深く学ぼうとすればそれぞれの高校が自前でできる準備には限界があります。ここで大学の協力を得られると、大学教員に提供してもらえる講座を「総合的な探究の時間」とすることができるので、高校生にとっては満足度が高くなり、高校教員の準備負担が軽減できる点で、高校側には大きなメリットが生じます。ただし、高校の立地や連携に対する積極性の有無によって、すべての高校が一律にメリットを得られるわけではないので、今後は学校選びの材料の一つとして注目されることでしょう。
 今年の3月末に、吉祥女子中学・高校と東京理科大学が高大連携協定を締結したことが発表されました。前述の三輪田学園や麹町学園女子中学・高校と同じく女子校ですが、この学校の生徒たちの「理系への興味関心」に対する明確な回答になっています。学校の授業内で行う実験や観察だけでなく、東京理科大学との連携により大学での研究に触れる機会を得られることは大変貴重です。この学校では、東京外国語大学、東京農工大学、東京医科大学などあわせて7つの大学との連携が実施されており、生徒が将来の進路を考える際の指針となっています。
 一方で大学側にもメリットはたくさんあります。「高大連携」によって、大学の研究内容や学部の情報を直接高校に提供できること、高校生にひと足早く大学のことを知ってもらえることで進学した際のミスマッチが起こりにくくなることは見逃せません。
 国立大学でも、例えば九州大学では「出前講義」と名付けて、教員の皆さんが依頼のあった九州各地の高校に出向いています。
 近年は、総合型選抜の普及に伴って一般入試受験者の減少と一人あたりの受験校数の減少が顕著です。大学のことをよく知って自分にあった大学を選び、少ない受験機会で確実に合格したいと思う高校生が増えています。大学側も、学ぶ目的を明確にもって入学する学生は意欲的であることもわかってきたため、総合型選抜はアドミッションポリシーに合った学生を集められるとして評価しています。
 よって、特に私立大学では、そもそも知られていない大学は選択肢にすら挙げてもらえないという実態を踏まえて、「高大連携」を利用して知名度アップを目指す動きもあるようです。

「高大連携」を保護者はどのように分析すればいいの?

 このように、「高大連携」には進路面と教育内容の2つの視点があることを知っておきましょう。
 「この高校から〇〇大学へ△名入学できます」という進路面でのバイパス効果は魅力的ではありますが、これを最優先として、お子さまの中高6年間の生活の中身や学習内容の充実度合を軽視してよいはずがありません。例えば医学部志望だったが途中で進路を変えたい、○○大学に進むことを考えていたが違う大学の研究に関心が向いた、などの可能性は誰にでもあるはずです。一方で、教育内容の充実を目指した連携においては、日々の学びが充実したものであってもそれを進路に活かすには別の準備を必要とする可能性が高くなります。例えば、医療系や理工系の大学から情報を得てこうした分野での学びを事前に知ることは大切ですが、いざ進路選択となった時点では受験を突破するための学力も並行して身につけておかなければなりません。
 また、中学受験を考えるご家庭であれば、進路の幅を広く持てる進学校にするか特定の大学に進むことを前提とした附属・系列校を選ぶかを、わずか12歳の段階である程度見据える必要があります。6年後の18歳段階では大学入試における「総合型選抜」の募集枠が広がることはあっても狭まることはなく、特に私立大学では従来型の筆記試験による選抜枠が現在以上に縮小しているであろうことも視野に入れておく必要があります。
 我々保護者世代が高校生だった頃にはなかった「高大連携」の動きは、お子さまにとってはよいことばかりに見えますが、我々保護者にとってはしっかりと勉強しておく必要のある頭の痛い話題なのです。

vol.195 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年7月号掲載

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