HOME > 教育の現場から > Vol.196 中高生にも無縁ではない「社会人基礎力」とは
Vol.196 中高生にも無縁ではない「社会人基礎力」とは
いきなりですが、みなさまは「社会人基礎力」という言葉をご存じでしょうか。2006年に経済産業省が提唱した「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」のことで、主に就職活動をする際に注目されるものですが、その具体的な能力や要素については小中高校生にも無縁ではありません。21世紀を生き抜く子どもたちに求められる「将来必要とされる能力」がどのように認識されているのか、高校生とその保護者対象のアンケート結果をご紹介していきます。
「社会人基礎力」ってなに?
前述のように「社会人基礎力」とは2006年に経済産業省が提唱したものですが、社会的な背景を受け2018 年に「人生100 年時代の社会人基礎力」として再定義されています。具体的には、(表1)のように「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されています。
コロナ禍という未知の事象を目の前にして世の中が混乱したときを思い出してみてください。社会人であればどんな業種であれ、各自が考え試行錯誤しながら仕事を再開していったはずです。「誰かが何とかしてくれるはず」という受け身の姿勢では事態が好転しなかったことを覚えておられることでしょう。このときの大人たちの経験や取り組みは、これからの日本を背負って立つ子どもたちにも当然求められます。知識の量だけでなく「自ら課題を発見し解決していく能力」が優先的に求められており、簡単にいえば「机に向かって黙々と勉強してきた優等生」ではなく、「仲間や同僚とチームで課題を克服しプレゼンテーションで周囲を説得できる人材」を育てることが社会の要請として、経済産業省が提唱したものではありますが、今後ますます中学高校大学にも求められていくのです。「受験学力は高いけど社会人としてはちょっと……」という学生に対する評価は今後ますます下がっていくことが予想されるのです。
将来必要とされる能力はなに?
それでは(表1)を具体的に見ていきましょう。3つの能力のうち「前に踏み出す力(アクション)」は、高校生と保護者で数値にそれほど差異は見られませんが、「考え抜く力(シンキング)」については高校生の方が数値が高く「チームで働く力(チームワーク)」については保護者の数値が高くなっていることにご注目ください。
「考え抜く力(シンキング)」には、「創造力」「課題発見力」「計画力」の3つの能力要素がありますが、これを現在高校では「探究学習」としてカリキュラムに組み込んでいます。生徒自らが課題を設定し、課題解決に向けて仮説を立て情報を収集・整理・分析し、計画的にプランを実行し、最終的に自身のアイデアや解決方法を構築していくものです。近年私立大学で急増している総合型選抜(旧AO入試)では、ここで制作したものやその結果(企画書、設計図、賞状、ポスターなど)の提出を求められることもあり、評価に直結します。この能力要素は、もちろん大学生になればゼミでの研究や卒業論文制作の過程で求められますし、就職活動ではインターンシップの際のグループディスカッションなどでシビアに評価されますから、高校生にとっては身近に感じ意識しておかなければならないものなのです。
保護者の数値が高かった「チームで働く力(チームワーク)」は、前述の「考え抜く力(シンキング)」と対立するものではありません。「探究学習」においても、周囲の仲間との情報交換や協働は不可欠です。また「発信力」は、小論文・面接・プレゼンテーションなどが合否判定に用いられる総合型選抜では合否に大きく影響します。受験生として大学に徹底的に自身を売り込む姿勢は就職活動とほぼ同じであり、自己分析力やコミュニケーション力といった、かつては大学3年や4年で初めて意識していた資質を、高校卒業時に準備しておく必要も生じています。
幼少期に「知らない人としゃべっていけません」と躾けられてきた子、コロナ禍で異世代の人との接点が少なかった子も、その過程とは関係なく数年後には見知らぬ人はもちろん、価値観や文化・環境が全く異なる人に対しても、臆することなく自分の考えを理路整然と述べ、自分の考えを理解してもらう努力をしなければなりませんから、小中学生であっても少しずつ「大人としてのコミュニケーションの仕方」を経験しておきたいところです。
また、これら12の能力要素のうち「現状では不足していると考えている能力(注)」に目を向けると、高校生保護者ともに「主体性」「実行力」「発信力」が上位に並びます。「現状持っている能力」では、高校生保護者ともに「傾聴力」「規律性」「柔軟性」などが上位に並んでおり、今どきの高校生の真面目さや周囲への気遣い度が伝わってきます。
コロナ禍を経て大きく変わった世の中の傾向の1つに「自分なりのアイデアを出せる、提案できる人」への評価が高くなった点を、私は様々な機会に挙げています。特に中学生とその保護者には「自分の意見や考えは持たないが、言われたとおりのことをそつなくこなし一定の評価を得る」ことで満足する一昔前の優等生は、その考え方をいずれ変えなければ様々な場面で苦労するであろうことを声高に述べています。素直であればあるほど、自分に対する評価軸が変わるごとに混乱するでしょうし、順応するまでには大きなストレスを感じることでしょう。
もうすでに、お子さまを取り巻く環境は我々保護者世代が育ってきた時代とは変わっています。おそらくもっともっと急激に変化する未来を、お子さまがたくましく生き抜くにはどうすればよいのでしょう。我々の時代の何倍も「自分で考え・解決する能力」を磨くしかない、と私は思います。そのトレーニングとして、みなさまが受講されている作文講座は適している部分が数多くあります。自分で論点を作ることはもちろん、「自分はこう思う」という一方的な主張だけではなく、「他者に理解してもらえるように工夫・想像した上で自分の考えをまとめる」ことが求められているはずです。世の中がどのように変化しようとも、このトレーニングの経験はお子さまの将来にとってきっと有益な財産となるはずです。
(注)将来必要とされる能力と現在持っていると考える能力とのギャップ
参考:経済産業省HP「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料 https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html
第11回 高校生と保護者の進路に関する意識調査2023 https://souken.shingakunet.com/research/2024/02/2023-1.html
vol.196 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年8月号掲載