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Vol.197 理工系大学の入試で広がる「女子枠」に注目!

 近年の大学入試において「女子枠」の導入が進んでいます。国公立・私立を問わず大学の理工系学部で実施されるようになって認知度も上がり、国公立大学に限って調べてみても、すでに「女子枠」の志願倍率が国公立大学全体の志願倍率(2.9倍)を上回る人気になっている学科も登場しています。今回は、この「女子枠」の背景とその中身についてご紹介します。

「女子枠」の導入は国の方針

 大学入学共通テストばかりが話題にあがる大学入試改革ですが、この改革の中身の1つに「入学者の多様性の確保」があります。文部科学省は大学に対して「家庭環境(経済面など)、居住地、年齢、国籍、障害の有無」など多様な背景を持った者を対象とする選抜を求めていて、2024年度の大学入学者選抜実施要項に関する通知では「例えば、理工系分野における女子等」と明記しました。これが後押しになって、急激に各大学で女子枠の導入が進んでいるのです。
 今春(2024年春)の入試で初めて女子枠を導入した大学は、国公立大11校、私立大14校の合わせて25校です。地方の大学から導入が始まりましたが、2023年に名古屋大学工学部が、今春は全国的に有名な東京工業大学が名を連ねたことで状況は大きく変わりました。東京工業大学では、2024年度に計63名(総合型43名、学校推薦型15名)、2025年度には143名(総合型128名、学校推薦型15名)の女子枠が設けられており、一般選抜も含めた募集定員の総計を変えないことで、現在の女子比率13%を20%以上にすることを見込んでいると発表しています。そのため第1回となった女子枠には、定員3人の枠(建築)に37人が、定員20人の枠(物質理工)には128人が志願しました。
 さらに、2025年度入試から神戸大学が、2026年度入試からは京都大学と大阪大学が女子枠の導入を予定しています。こうしたペーパーテストによる入試が、難しいとされる有名国公立大学にも波及することで、女子が理工系学部を選択肢に入れやすくなる仕組み作りが加速しているのです。

「女子枠」の起源は地元産業からの要請

 今後女子枠が広がっていくとはいえ、過渡期であるここ数年の間はおそらく大学によって、地域によって評価の高低に差がつくことが予想されます。例えば施設・環境面の整備1つをとっても、トイレや女性用スペースの拡充が進んでいるところと遅れているところでは差がつくのは当然です。また、地域差も課題になることでしょう。例えば、自動車をはじめとする製造業が盛んな東海地方では、「地元産業界から女性の理工系人材を求める声」に応えるために、前述の名古屋大学工学部よりも前に女子枠を導入した大学がいくつもあり、これから受け入れを始める地域との差は歴然としています。
 東海地区でいえば、国立の名古屋工業大学工学部では1994年度入試から女子枠(1学科)を導入しているそうです。2024年度入試では4学科に拡大していて、志願倍率が6倍に達する学科もあるほど認知されています。私立では愛知工業大学や大同大学(旧大同工業大学)といった工学部系の大学も、古くから女子枠を設けています。
 これだけでも、地域のニーズがいかに切実なものであったかがわかります。単なる「大学内での男女比率を是正する」目的ではなく、ものづくりにおける女性の視点を取り入れる必要性を受け入れていたことがうかがえます。私の周辺でも、もう10年以上前ですが東京出身で理系の大学院まで進んだ教え子(女子)が親元を離れて愛知県の食品メーカーの研究員として就職し、新商品の開発に携わっていました。本人は「知らない土地に行く不安よりも求められているうれしさのほうが強い」と語っていました。

 現在は、保護者世代が大学生だった90年代よりも女性の社会進出が当たり前になっているので、共働きを前提とした「時短に直結する商品」「子育ての視点で不便を解決できる商品」の開発が求められていて、そこには男性も女性も関係ない「多様性」を身につけている人材が必要です。昭和の時代のような「男ばっかりのがさつな研究室」で大学生活を終わらせてしまったら、社会で必要な「多様性」を知らない私のような社会人になってしまう可能性があります。そんなことは今の時代を生きる子どもたちに引き継いではいけません。男女の別なく社会に求められる人材を育成するのも近年の大学の役割なのです。

京都大学特色入試のサンプル問題に挑戦!

 京都大学では、2026年度(令和8年度)入試から導入する「女性募集枠」のサンプル問題(小論文)を公表しています。(参考)をご覧ください。特定のジャンルに詳しい小学生であれば、夏休みの自由研究の題材として使えそうな設定になっています。ポイントは(2)の「そのトピックに関連してあなた自身が勉強したことや体験したことを具体的に紹介する」でしょう。例えば「地震」というトピックは我々の日常生活にも関わりがありますが、小中学生はすでに東日本大震災を経験していないor覚えていない世代です。彼らが「地震」をどのように捉え、どのような動画原稿を作ろうとするのか大変興味があります。台風や気候変動といったトピックにも、小中学生であれば1つや2つのエピソードはもっていることでしょう。ゲリラ雷雨直前の急激な天気の変化を体感していたり、花火大会やイベントが中止になったりした経験を覚えていれば語れることはあるはずです。

(表1)

 なお、実際にこの入試で合格するためには、
①調査書・学業活動報告書・学びの報告書に基づく1次選考
②合格者には2次選考として、大学入学共通テスト(配点1000点)・能力測定考査(1000点)・口頭試問(250点)
が課せられます。共通テストでは6教科8科目で1000満点中70~80%の得点が必要とされます。8科目受験には国公立大学受験を前提とした準備(私立理系特化の勉強では足りない)が必要で、これだけの得点を取るためには最初から医学部受験レベルあるいは難関国公立大学受験レベルを目指しておかないと対応できないので、正直申し上げてハードルはかなり高くなっています。小論文とはいえ理系の入試問題に計算問題すらないサンプル問題を用意する理由は、このハードルにあるのです。
 これまで女子枠を導入してきた大学の多くが、「どの入試でも一般選抜でも入学後の成績に差は見られない」と公言しています。つまり女子枠は「女子だけハードルが低い選抜ではない」ということが、すでに認識されつつあることを覚えておいてください。
 私が知っている限りでも、すでに理工系女子が4000名在学している東京理科大の選抜では当たり前のように「数学Ⅲの履修は必須」ですし、2027年までに女子比率30%以上にする目標を公表している芝浦工業大学は附属の中学高校を共学にして男女問わず一貫した理系教育を始めているのです。

vol.197 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年9月号掲載

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