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Vol.199 小中学生でも『生成AI』を当たり前に使う日がやってくる
スマホの買い替えを検討していた先日、いよいよスマホに『生成AI』が搭載される日がやってくることを遅まきながら知りました。来年以降、お子さまが進学などの節目で初めて持つスマホには『生成AI』が標準搭載されることでしょう。今までにもまして、我々が子どもの頃には想像すらできなかった日常がお子さまの目の前に広がっています。今回は、お子さまと『生成AI』の付き合い方について保護者として留意するべき事項をまとめました。
子どもが『生成AI』を持つと何が変わる?
例えば、夏休みの自由研究課題の発表を考えてみましょう。昭和世代の私だと、模造紙にマジックで大きな字を書き、せいぜい写真を貼り付ける程度で準備は終わっていました。パワーポイントを巧みに使いこなしてパソコンで準備を完結させる中学生を見てびっくりしたのは、おそらくこの連載の開始時(15年くらい前)のことでした。それがいよいよ、スマホやタブレット、あるいはパソコンに搭載された『生成AI』を使いこなして、特別なスキルがなくても課題が完成します。従来のAIは「決められた作業を自動化する」ものでしたが、『生成AI』はこれまでに蓄積されたデータを活用して、文章や画像、動画などを一から作成できるからです。
情報を与えれば人間が書いたような自然な文章を生成し、条件にあった画像データを自動生成してくれます。仕事で使えばレポートや議事録、プレゼン資料の作成などに大きく貢献するのですから、小中学生の夏休みの課題であれば「子どもとは思えない出来栄え」の作品に仕上がることでしょう。
スケッチブックに絵の具で描いた風景画や、上手に書けなくて困った読書感想文などの宿題も、自分ではなく『生成AI』に処理させることが宿題になる時代もやってくるのでしょう。
もちろん、日常の学習にも変化が生じます。英語の学習において紙の辞書と電子辞書のどちらを使用すべきか、で意見が割れたのはもう昔の話。現在は「スマホの翻訳アプリ」の使用可否が話題になります。誰でも使える翻訳アプリは、現在はまだまだ不便だったり微妙だったりする点がありますが今後はもっともっと便利に正確になることは間違いないでしょう。
『生成AI』との上手な付き合い方を教えたほうがよい
株式会社ICT総研の調査結果によると、日本国内における生成AIサービスの利用者数は急速に増加していて、2024年末には1924万人、2025年末には2537万人、2026年末には3175万人、2027年末には3760万人に達すると予測されています。このペースだと現在の小中学生が社会人になる頃には「使いこなせることが当たり前」のレベルになっていることでしょう。よって、現在の保護者の価値観のみで判断して「自分の子どもには使わせたくない」と制限をかけてしまうことは避けたほうがよいと私は思います。ただし、無条件で使わせれば10年前のスマホ普及時と同様に、子どもたちがトラブルに巻き込まれる可能性が生じますから、今後お子さまにスマホを与える際には上手な使い方とリスクをしっかり伝えなければなりません。我々保護者世代が経験したこともなければ想像すらできなかった未知の道具について、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
⑴ 安易に頼らない、最短距離で答えに到達するデメリットを伝える
積極的に『生成AI』を利用している事例を検索すると、長崎県立長崎北高校がよく登場します。この高校では、2年生の英語の授業で対話型生成AIを取り入れ、生徒が書いた英文を生徒自身が『生成AI』に読み込ませて、先生ではなく『生成AI』に添削してもらう使い方をしているそうです。使っている生徒や教員の感想には「所要時間の短縮には効果がある」「すぐに回答を得られるが頭に残らない」「自分で答えを考えずAIに頼ってしまう」などの言葉が並んでおり、使用することのメリット・デメリットが共存していることを教えてくれます。
いちばん問題となるのは、課題を出す大人側が「『生成AI』を子どもたちが使う可能性」を考慮していない場合です。小中高生が『生成AI』を使って課題を仕上げたことを見抜けないと、公正な評価や子どもたちの学力向上に支障をきたす場合が考えられます。授業で出される課題の意図の説明、『生成AI』の使用可否に関する指示が明確になされることは近い将来大前提となるはずですが、当面は保護者がしっかりと管理し『生成AI』を使うべきではない場面について伝える必要があります。
⑵ 著作権・肖像権を侵害しない
『生成AI』が作成する作品は、あくまでも蓄積されたデータを活用して新たに仕上がったものですから、使用者にその意図がなくても著作権や肖像権あるいは商標権を侵害してしまう可能性があります。東京都教育委員会は、夏休みの読書感想文やレポートなどで『生成AI』の回答をそのまま提出しないように注意を促しています。各種コンテストやコンクールにおいては、表彰作品の中から剽窃(ひょうせつ)あるいは不適切な引用と判断された事例を目にする機会がありますが、『生成AI』を使用すること自体が不適切となるケースがあることを、小中学生であっても知っておく必要があります。
⑶ 『生成AI』を全面的に信用しない
『生成AI』は、使用者が読み込ませた情報をデータとして蓄積します。自分や友人を特定できる個人情報を入力すると、その情報が蓄積されて自分に意図がなくても流出してしまう可能性があります。
住所や電話番号、学校名など、一度流出してしまうとたやすく消せないことは大人であれば知っていることですが、子どもたちにはそのリスクがまだ他人事である可能性が高いのです。その一方、悪意を持ってウソ情報を読み込ませることも可能ですから、『生成AI』が仕上げた作品が必ずしも正しいとは限りません。これはインターネットが普及した際、SNSが普及した際に叫ばれた注意点と全く同じです。たとえ英作文の添削であったとしてもその内容をうのみにせず、友人と一緒に確認してみるなど、その精度を確認することを習慣にしたいところです。
『生成AI』は学校現場に最適なツール
現状において『生成AI』の使用が最も有効なのは、子どもたちよりも学校の先生方ではないでしょうか。とにかく多忙な先生方にとって、『生成AI』を上手に使いこなすことで自身の仕事量を劇的に減らせる可能性が高いわけですから、おそらく今後教育現場に入っていく過程では「児童生徒のため」「先生方の管理ツールとして」の二本立てが考えられます。
愛媛大学教育学部附属中学校では、『生成AI』を授業の振り返りの効率化のために使用しているそうです。子どもたちがタブレット端末にその日の授業で学んだ内容や疑問点を入力すると、『生成AI』が即座にフィードバックしてくれるというのです。昭和のイメージだと「学習記録帳に書く→提出→先生が読んでコメントを書き返却」となる一連の作業を一瞬で終わらせてくれるのですから、使わない手はありません。ただし前述の通り、まだまだ全幅の信頼を寄せるわけにはいきませんから、この学校では先生方が『生成AI』のコメントをダブルチェックしながら、学習内容や生徒の理解度に応じて修正を加えることで、コメントの質の担保と業務の効率化を両立しているそうです。
こうしたデータの蓄積が進み、全国の先生方で情報の共有ができるようになるのが何年先かはわかりませんが、個別の学習指示やアドバイスを『生成AI』から受けるようになるのは、それほど遠くない未来のことなのでしょう。
おそらく近い将来、『生成AI』はスマホを超えて我々の生活のあらゆる場面に影響を与えることでしょう。どこまでの可能性があるのか、どんな規制が必要なのかはまだまだ未知数です。
我々保護者世代は、未来を生きる子どもたちにとってこの技術が必要であることを理解し、使用を禁じる方向ではなく上手な使い方を一緒に学んでいくスタンスを取るべきだろうと考えます。次々と登場する新しい技術を使いこなすことは、大人たちが未来の社会を生き抜くためにも絶対に必要なのですから。
vol.199 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年11月号掲載