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Vol.2 学習指導要領の改訂から見えること(上)

 

 いま私の手元に、「(中央教育審議会)教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」という小冊子があります。簡単に言うと「学習指導要領がこのように変わります」という内容で、主な変更点がまとめられているものです。今回の変更点は、裏を返すと前回(02年)の「ゆとり路線への改訂」後に学んできた、現在の中学生・高校生の多くが抱える「弱点」を指摘していると考えることもできます。
 前回の改訂が教育界にとって「失われた10年」になってしまうのかどうかは、現時点では誰にもわかりません。ただ「明らかに弱くなった部分」があることは事実ですから、その内容を知っておくだけでも、お子様の学習の方向性を決める際のヒントになるのではないでしょうか。今月、来月と2回にわたってその内容をお伝えしていきたいと思います。

前回の改訂内容の「弱点」とは

 前回の改訂により、小学校の教育現場で最も深刻な事態を招いたこととして「学習内容を定着させる時間がなくなってしまった」ことが挙げられます。漢字でも計算でも、授業中に「聞く」だけでは定着しません。内容の習得には、個人差があるとはいえ「繰り返し演習」が必要であることは言うまでもありません。
 例えば掛け算の「九九」を覚えたときのことを思い出してください。皆さんが小学生の時、自宅でも何度も何度も口に出して覚えたと思いますが、学校でも覚えるための時間が確保されていませんでしたか?私が小学生だった当時には、1回の授業ごとに何人ずつかが口頭のテストを受け、テストを受けない子どもたちは2人1組で問題を出し合う、という授業がかなり長期間続いたものでした。
 ところが前回の改訂により、真っ先にこの「繰り返し演習」の時間が削られてしまったのです。よって「九九」の学習はするけれど、全員ができるようになるまで授業の進度を止めて待つという余裕は学校の現場から消えてしまいました。小学校の保護者会で、先生たちが「授業中の演習だけでは定着しませんから、自宅学習が重要です。ご家庭でしっかり勉強を見てあげてください」という発言をされるようになったほどです。


授業時間はこのような割合で増加する

 この状況を解決するために、特に小学校を中心に授業時数が見直されます。小学生の標準授業時数案を見ると、国語は6学年合わせて84時間増加し、そのうちの69時間分が小1・小2に振り分けられています。この授業案は年間35週として考えていますから、この2学年では国語の授業が週1時間追加されることになります。これにより小1・小2では週9時間の授業が確保されることになり、低学年での国語力強化を目指します。算数は6学年合わせて142時間増加します。その内訳は小1で年間22時間、小2で年間20時間、小3~小6で各年間25時間ずつと、均等に増加させるのです。

 中学生の標準授業時数を見ると、まず英語が各学年週あたり1時間の増加になります。これにより、以前は週3時間だった英語の授業が週4時間となります。数学は、中2ではこれまで通り週3時間ですが、中1・中3で週1時間ずつ増加して「週4時間」となります。目をひくのが理科の時間増です。中2で35時間、中3では60時間もの増加が見込まれています。 とはいえ、これでようやく中3理科の授業数は年間140時間(週4時間)を確保したに過ぎません。ということは前回の改訂以降、中3生は理科を年間80時間、つまり「週2時間程度」しか勉強していなかったということなのです。また、小中問わず「総合的な学習の時間」は週1時間程度削られることになります。


言語活動・理数教育の充実を目指す

 今回の改訂の柱として「言語活動の充実」「理数教育の充実」が挙げられています。前回も述べましたが、資源を持たないこの国が21世紀に生き残っていくためには、最大の財産である「人」を磨き、「知的資源」を持つ以外にありません。学術研究や科学技術の競争が世界規模で激化している中で、中3理科の授業を週2時間しか確保できなかった状況は緊急事態と言ってもおおげさではないでしょう。
 また、「言語を使いこなす」という能力も、その定着が疑問視されています。論理的思考力、あるいはコミュニケーション能力の低下が叫ばれる中で、これを国語の授業のみで解決することは不可能です。そこで、理科・算数(数学)の授業時間を増やしながら、各教科において観察・実験やレポート作成、論述などを行う時間を確保して、2つの問題点を複合的に解消しようという取り組みが始まるのです。

 授業時間増の割合や改訂の柱とされている内容を知ることで、逆に現在の小・中学生を取り巻く学習環境の危機的状況も、はっきりとおわかりいただけたのではないでしょうか。今回の改訂は基本的・基礎的な知識や技能の定着度の改善、学力の土台作りといった部分には効果が期待できるでしょう。ただし、これが論理的思考力・表現力・発想力といった「21世紀型の学力」の向上に直結するかどうかは、まだわからないと言わざるを得ません。
 そのため、何らかの形で学校の授業以外の「プラスα」が求められる傾向はしばらく続くと思われます。


vol.2 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2008年 5月号掲載

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