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Vol.200 小学生の保護者も必見!来春から「大学入学共通テスト」が大きく変わります
30年あまりにわたって活用されてきた「大学入試センター試験」が「大学入学共通テスト」に変更されてから、はやくも5回目の入試シーズンを迎えようとしています。実は、学習指導要領の改訂に伴い新課程で学習を続けてきた最初の世代(現高3)が大学入試を迎える来春に合わせて、変更の第2弾が実施されるのですが、みなさまはご存じでしたか?今回の変更点は現在の小学生にも適用されることになりますから、「うちの子に大学受験はまだまだ先の話」と楽観視せず読み進めてください。
昔報道されていた「大学入学共通テスト」の問題点はどうなったの?
「大学入試センター試験(以下センター試験)」が「大学入学共通テスト(以下共通テスト)」に変更されることに伴い、「記述式試験の導入」や「英語では民間試験を活用」が実施される方向で進んでいたことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。2019年11月に「共通テストにおける英語民間試験活用の見送り」が発表された後の経緯については、コロナ禍もあって世間の関心事から離れていきました。来春からの変更でどうなっていくのか確認してみましょう。
⑴ 英語の民間試験導入について
共通テストでの民間試験導入は見送りのまま変わりません。共通テストは国公立大学進学を志望する生徒にとっては事実上受験が必須であり、5年前に議論となった「民間試験を受ける際の不平等(居住地域による受検機会や交通費などの差、家庭環境などによる経済的負担)」への配慮が要因です。
ただし、各大学(とくに私立大学)が独自に行う入試や、近年利用者が増加し続けている総合型選抜(旧推薦入試・AO入試)においては、民間試験の結果を活用する機会がたくさんあることを覚えておいてください。
小学生においても、例えば「英検」を受けている人は多いのではないでしょうか。将来私立大学の受験を念頭におく場合には、各大学が指定した民間試験の結果が英語の試験の代替となる(英語の試験が免除になる)ケースが考えられています。一方、くり返しになりますが、国公立大学を目指す場合には1月に受験する共通テストで使われることはありません。導入の見送りは、あくまでも共通テストに限ったものです。
⑵ 記述式試験導入について
共通テストでの実施は見送りとなり、過去のセンター試験と同様マークシートによる解答方式です。国公立大学の二次試験はこれまでも記述式で行われていますので、特に受験生が戸惑うことはありません。「じゃあ、何のために変更したの?」と言いたくなるところですが、記述式試験への変更を検討した理由が、
◯自らの考えを論理的・創造的に形成する思考や判断
◯思考や判断に至った過程や結論を的確に、さらには効果的に表現する
能力を評価したかったという点については、小学生にも他人事ではありません。マークシートで選択肢の中から正しい答えを選ぶだけの、知識重視型の一問一答式の出題は減っていくことになります。それは近い将来高校入試や中学入試での出題形式にも影響を及ぼしますので、「なぜ?どうして?」と自問自答できるような思考習慣が求められていきます。
「5教科7科目」から「6教科8科目」へ
国公立大学を受験するには、一般的に「5教科7科目」が必要とされていますが、来春以降は「情報」が教科として増えて「6教科8科目」となります。学習内容にはプログラミングやデータ活用といった内容が含まれ、サンプル問題では「モノクロの画像を16画素モノクロ8階調のデジタルデータに変換する手順」「比例代表選挙で各政党に配分する議席数(当選者数)を決める方法についてプログラムを用いて検討する」といった題材が紹介されており、もちろん私もチンプンカンプンです。
この「情報」という教科の登場は、小学校では2020年度から始まっているプログラミング教育の必修化などにも影響を及ぼしています。お子さまはどのような内容を学んでおられますか?
ちなみにこの新教科「情報」は、国立大学の前期入試においては募集全体の97%が共通テストにおいて必須とされているため、将来国立大学への進学を希望するのであれば事実上避けて通ることはできません。ただし、60%を超える大学で配点割合を低めに設定しているとのこと(大手予備校調べ)ですから、当面のところ「情報」という教科が合否に大きな影響を与える大学は多くないようです。
小中学生にも影響?社会科をしっかり学習しよう
一般的には「社会科」と呼ばれる教科「地理歴史/公民」でも、新課程入試のスタートに伴い大幅な変更が見られます。我々保護者世代にもおなじみの「現代社会」はすでに姿を消しており、必履修科目「地理総合」「歴史総合」「公共」をベースに編成された6科目の中から最大2科目を選択して受験します。「歴史総合」は日本史と世界史の融合分野で近現代史に限定されているため、小中学生での学習履歴が大きく影響を及ぼします。特に中学生では、本来中3から公民の学習がスタートするはずなのに、中2までで歴史の教科書が終了しないケースが本当に多く見られます。中3の1学期に近現代史の授業が猛スピードで進むので、日本の近現代史に関する知識は高校入試に向けた準備でしっかりとカバーする必要が生じます。
新教科「公共」については、18歳で選挙権を得られるようになったことが大きく影響しています。
我々保護者世代が高校生だった頃には信じられなかったことですが、「選挙権を持っている高校3年生」が先日の衆議院選挙においてもしっかりと一票を投じているのです。18歳になった高校3年生は「一票を通して世の中に意見が言える、社会的に責任を持つ大人」です。現在中学3年生ならば、あとわずか3年で選挙権を得ることができます。30年前40年前とは違って、中学生であれば先日の選挙報道に限らず様々な社会的課題に対して無関心であってはなりません。中学入試や高校入試でも「無責任な理由ではなく一人の大人として社会に参加するため」の知見が問われるようになりました。
こうした世の中の変化の象徴として登場したのが新教科「公共」なのです。なお、この「公共」は共通テストにおいて「倫理」あるいは「政治・経済」とセットになって編成されますので、実質的にはセンター試験時代の受験生よりも科目が増えたというイメージで捉えておく必要があります。受験生には大幅な負担増となることは明らかですが、受験勉強に費やせる時間には限りがあります。だからこそ、これまで以上に小中学生時代の土台固めが大切になってくるのです。
保護者も未来を見据えてバージョンアップを
来春からスタートする共通テストの変更は、単なる入試システム改訂ではありません。世の中の変化を反映して、小学生の学習内容にも大きな影響を与えています。保護者のみなさまが受験生だった頃に比べて世の中がとてつもないスピードで変化したのと同様に、小学生の学習内容や環境、受験を取り巻く事情も大きく変わっています。どうか「私の時代はこうだった」「私はこうやって勉強してきた」という自分の経験を根拠として、何十年も前のスタイルをお子さまに一方的に当てはめることは避けていただきたいのです。もちろん時代によらず大切なこともたくさんありますが、お子さまを見守る保護者の感覚も未来を見据えてバージョンアップしておいてください。
vol.200 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2024年12月号掲載