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Vol.202 部活命!はもう古い?変わり始めた公立中の部活動事情
年が明けて3学期がスタートすると、あっという間に卒業シーズンを迎えます。小学6年生は中学に進学する様々な準備が始まり、いよいよ始まる中学校生活への期待と不安で毎日がとくに早く感じられることでしょう。中学生活における不安といえば学習面のこと、期待といえば部活のこと、というのは昔も今も変わらないと思いますが、最近は「公立中学校の部活動」を取り巻く環境が変わってきました。
いよいよ始まる「部活動の外部委託」
私も報道に触れて驚いたのですが、神戸市は2026年度から公立中学校の部活動を終了し、地域のスポーツ団体などによるクラブ活動に移行することを発表しました。政令指定都市の規模で平日も含めた全面移行に踏み切るのはもちろん全国で初めてです。
もともと神戸市は、平成30年5月から早朝練習(いわゆる「朝練」)を原則行っておらず、大会や練習試合などの特例を除いては、1日の活動時間を平日は2時間程度まで、休日は3時間程度までとするガイドラインを作っていました。今回、このガイドラインが加速する形で決定された「部活動の外部委託」について、その理由はいくつかあり、また、神戸市に限ったものではなく、おそらく今後日本全国どこででも起こり得るものだと考えてください。
1つ目は教員側の労働環境です。全国的に教員の多忙ぶりが話題となり、教員不足はもちろん教員志望者の減少が深刻な問題になっています。いわゆる「時間割が埋まらない」事態は珍しいことではなく、ましてや部活は休日勤務の問題や、教員自身に指導経験がない部活の顧問を任せることで生じるストレスの問題などが悪循環を生む要因の1つに挙げられています。
2つ目は急激に進む少子化の影響です。「子どもが増えている地域」はもはや全国的に見ても少なく、今後増えていく見込みはありません。サッカーや野球といった多人数の部活動がすでになくなっている中学、単独で試合に出られないので複数の中学で合同チームを作るケースも多くなっています。
神戸市が行った部活動に関するアンケート結果によると、生徒・保護者のニーズはより「楽しむこと」に変化しているそうです。多様化の時代を象徴する事例として、中学生になってからやってみたい活動として「ダンス」「釣り」「料理」「eスポーツ」といった、昭和の部活動からは想像すらできない種目が上位に挙がっているといいます。
一方で、野球やサッカー、テニスといった競技へ本格的に取り組み、より専門的な指導を求める生徒は、最初から部活動ではなく民間のクラブチームに通っているケースが全国的に増えています。
【資料1】をご覧ください。
コロナ禍による部活動の休止、活動縮小などもあって、コロナ禍をはさんで男女ともに地域のスポーツクラブへ所属する割合が増えています。
神戸市の今回の施策は、全国的なこの流れに先んじる形で、部活動を地域に移行することにより野球でもサッカーでもダンスでも、活動場所は在籍する中学校に限らず地域の施設に広がり、必要に応じて地域の専門の指導者の指導も受けられる仕組みができるということなのです。もちろん各家庭が負担する金銭面の問題や、生徒や保護者のニーズに応じた団体があるかどうか、地域的種目別の偏りがある場合にどうするか、といった課題を今後解決していく必要があります。
ハードな運動部ってどこにでもあるの?
子どもたちの間でも保護者の間でも、進学先の中学校の「ハードな部活」に関する情報は飛び交っていることでしょう。「○○部は顧問が熱心で1年中ほとんど休みがない」「△△部の顧問はやる気がないから練習がゆるい」といった情報は、地域密着型の塾だと在校生の声をまとめて資料にしてしまうところも少なくありません。この連載でも何度かお伝えしていますが、英語を中心に教科書の内容が濃くなっている一方、授業時間数は増えていない現状があります。子どもたちにかかる学習の負担が10年前、20年前に比べて大きくなっているので、昭和と同様の「何よりも部活が最優先」という生活スタイルが中3夏休みまで続くことを心配する保護者の声をよく耳にします。
ここで、次に紹介する【資料2】と【資料3】をご覧ください。これは、全国の公立中学生を対象とした、土日を含めた曜日別の部活動実施状況をまとめた数値です。公立中男子の月曜日を例にとると、2016年には「全国平均でおよそ100分の練習をしている」と読み取ってください。コロナ禍をはさんで、活動時間が週当たりで見れば3分の2まで減っていることがわかります。曜日別に見れば水曜日の減少率が著しく「全国的にこの曜日には部活をやっていないところが増えたのだろうな」と一目でわかります。
お子さまが進学される予定の中学においても、どうか部活の活動日や活動時間、試合前の強化期間の特例の程度などを確認されておくことをお勧めします。前述の神戸市のように自治体レベルで部活動による負担を軽減する仕組みを作って対応するところもあれば、中学校によってルールがバラバラで、昭和顔負けのハードな練習が課される部活動が容認されているところもあるでしょう。
もちろん夏期と冬期で活動時間に違いが生じますが、2023年のデータからは「公立中学では男子・女子を問わず平日は週3~4回で2時間弱、土曜は3時間弱の部活動が行われている」と読み取れます。
コロナ禍前よりは減っているとはいえ、体力面で不安の残る中1であっても、部活動で2時間程度の運動をこなした後にどうやって学習時間を確保するのか、塾通いであれ自学であれ、その場しのぎの判断ではなく入学時からしっかりとイメージし継続することが重要です。情報収集や英検をはじめとする資格試験への挑戦などでは、日曜日にまとまった時間を確保しなければならないケースがあります。ハードな練習を課す部活やいわゆる「強い」部活に所属している場合には、様々な部分において他の人よりも早めに積極的に準備することが必須になります。
「つらかったことも多かったけど続けてよかった」という部活の思い出をお持ちの方がたくさんいらっしゃると思いますが、大人でも子どもでも「つらいことはやらない、やれない」の時代です。全国的には、専門的な指導を求める層だけが民間に出向き、「部活動は楽しめればOK」というニーズが急速に広まっていくことでしょう。どうぞみなさまも「勉強も運動も、どうせなら楽しくやろう!」とお子さまに声がけしてあげてください。
参考資料:スポーツ庁「全国体力・運動能力等調査結果」平成28年度
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/kodomo/zencyo/1380529.htm
令和5年度 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/kodomo/zencyo/1411922_00007.html
vol.202 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2025年2月号掲載