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Vol.207 続・「上手な勉強のしかた」に悩む子どもたち
ちょうど2年前の2023年7月号において、「子どもたちの勉強に対する悩み」に関する調査結果をご紹介しました。今回はこの調査結果の続編をご紹介していきます。例えばタブレットの利用という1点においても、親がタブレットを使って勉強したことがなければ、またオンライン授業を受けたことがなければ、子どもに適切な使い方のアドバイスをすることはできません。コロナ禍を挟んで急激に進んだ様々な変化が、昭和や平成初期にはなかった「子どもたちの新しい悩み」を生んでいるようです。
小学生が「上手な勉強のしかた」に悩む時代
まずは表1をご覧ください。「上手な勉強のしかたがわからない」と回答した子どもは、コロナ禍直前の2019年を基準に見ると6年間でかなり増えていることがおわかりいただけると思います。特に小学4〜6年生においては、6年間で21.8ポイント(増加率は50%)という急激な上昇となっていて、2024年の調査においてはおよそ3人に2人が悩んでいるというのですから驚きです。

私は、小学生が考える「上手な勉強のしかた」には大きく分けて2つの視点があると考えています。1つ目は「勉強の内容をしっかり理解できるための方法」に関する悩みです。小学生の学習環境は「デジタル機器の利用」「小学5・6年で英語が教科になった」の2点が2020年からスタートしたことで昭和や平成初期に比べると激変しており、「どう使えば効果がでるのか」「何に気をつけて勉強すればよいのか」という経験者の知見がまだまだ十分に蓄積されていません。先生でさえ子ども時代の経験や思い出がなく指導者として試行錯誤を続けている状態なのですから、保護者もお子さまの勉強面で「百発百中の適切なアドバイスができる」ことを前提にするには無理があります。子どもの視点に立てば「今まで通り言われたことを真面目にやっているけど全然できない」「急にいろいろ試して自分で考えなさいと言われるようになった」などの理由が、悩みの理由として想像できるのです。
2つ目は、大人の感覚でいえば「時短・コスパ」にあたるもの、つまり「効率的に短時間で課題を終わらせる方法」に関する悩みです。子どもの視点に立てば、家で消化するべき宿題もあり習い事もあり友だちとも遊びたい……、とにかく忙しいので素早く勉強を終わらせる便利な方法を知りたい、というところでしょうか。
小学校の学習内容は、20年前と比べて教科書の厚さ、つまり授業内容が各教科でかなり増加しています。授業時間数も増えているとはいえ内容の増加分には見合っていませんから、必然的に「基本事項の理解は授業中に、定着は宿題として家庭で」という方針で授業を進めざるをえません。
また、小学校高学年になると増えてくる「調べ学習」も時間を要します。昭和や平成初期と違って小学生であっても高校生や大学生と同等の情報収集、整理や分析が可能な時代ですから、本当に好きなテーマに取り組めばあっという間に時間が過ぎていくことでしょう。
2019年の段階ですでに数値が高かった中学生・高校生の場合は、おそらく悩みの本質は「時間のやりくり」になると想像できます。特に中学生は、時間も体力も限られた中でいろいろやりくりをしながら勉強や部活あるいは習い事を続けていますし、この時期の中3生は部活では最後の大会、修学旅行に体育祭と本当に忙しいなかで受験を意識しながら定期試験に向けた準備も必要です。「効率のよい勉強のしかた」を欲している様子はひしひしと伝わってきます。
「勉強しようという気持ちがわかない」子が急増中!?
次に、表2と表3をご覧ください。
「勉強しようという気持ちがわかない」と回答した子どもも、最新の2024年は2019年と比較して数値が増加していることがわかります。小学4〜6年生においては、6年間で22.3ポイント(増加率は66%!)と表1のデータを上回る上昇となっていることにご注目ください。また、表3にもご注目ください。「先生や親にしかられたくないから」を勉強する理由に挙げた小学生は、直近3年でも2021年の41.6%から2024年は57.5%に急増しており、中学生や高校生でも2024年は半数を超えています。一方で、「自分の希望する(高校や)大学に進みたいから」「将来なりたい職業につきたいから」という理由は小中学生ともに若干減少していて、勉強する理由の変化が影響している可能性を否定できません。
勉強でもスポーツでも、自分が上達していく過程を実感することが楽しさにつながることは言うまでもありません。最初は上手にやっている友人や先輩の方法を真似するなど「方法論」から入って様々に試し、取捨選択しながら自分流を作り上げていく過程こそが「楽しさ」だったと、私自身過去を振り返って思います。

ところが様々な事情によって近年の小中学生は、勉強において「方法論から入ってみれば?」といったアドバイスすらもらえず、何をどうすればよいのか見当がついていないのだろうと、表1のデータが教えてくれています。「宿題はやったの?」「テスト勉強はちゃんとしなさいよ!」と、具体的なアドバイスはなしで声がけしても、子どもがこうした言葉をちゃんと聞いて行動に移すことなどほとんどないことは、我々保護者のほうが経験上わかっているはずです。どうかみなさまには、お子さまの目に見える学習姿勢を確認して安心するのではなく、ご自身の具体的な経験談を話してあげてほしいのです。
学習環境は、昭和や平成初期と比べて変わってしまったものもあれば変わらないものもあります。例えば学習スケジュールの立て方や実行したときの失敗談、英単語の効率的な覚え方、極端な例では「算数・数学でわからない問題に対峙したときに先に正解を見るのはアリかナシか」といったものまで、時代を経ても変わらない事柄については、みなさまの経験した学習法や工夫したポイントを教えてあげてください。みなさまが昔好きだった教科についてその理由を普段からお話しされるだけでも効果があります。「お母さんが社会を好きになるきっかけとなった○○」がいよいよお子さま自身の目の前に登場したときに、お子さまの学習意欲がどれほど向上するかは言うまでもありません。
どんなことでも、最初は誰かがやってみせてあげないと子どもには理解ができませんし実行・継続は不可能です。「親に怒られるから勉強する」ではなく「親が応援してくれるから勉強する」と回答してくれる子どもが、今後増えることを願っています。
参考:ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2024」
vol.207 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2025年7月号掲載