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Vol.211 中学生が「ずるい!」と感じる大学入試早期化と選考方法
9月号においてご紹介した、大学入試で「推薦・総合型選抜」を利用した受験生の人数について、具体的には「私立大学に限ると2021年の段階で入学者の半数が、2024年では入学者のおよそ60%が利用している」「国公立大学入試においても2024年には入学者の20%が利用している」旨を、中学3年生に話す機会がありました。彼らの感想の中に「ずるい!」という声があったのですが、みなさまはどのようにお考えでしょうか。今回は、中学生が感じた「ずるい!」の中身を掘り下げていきます。
「ずるい!」の1つ目は入試の時期
まずは、表1をご覧ください。

大学入試では、毎年1月に実施される大学入学共通テストを皮切りに多くは2月中に一般入試が行われます。その一方、総合型・学校推薦型選抜は早いと9月頃から選考が始まり、ちょうど今の時期がピークとなり、多くは年内に早ければ11月上旬にも進学先を決めることができます。表1にあるとおり、総合型・学校推薦型選抜を利用する受験生の増加傾向は顕著で、2025年春にはとうとう学力試験(一般選抜・共通テスト利用入試)利用の割合を上回ってしまいました。つまり、「年内入試で合格を決めて受験を終了するほうが多数派になっている」のです。
年明け2月あるいは3月に高校入試を控えた中学3年生は、お正月をはさんだ冬休みが最後の追い込みの時期となりますから、「年内に入試が終わる」先輩や兄姉の姿をうらやましく思っても不思議ではありません。いろいろな思いが入り混じっての「ずるい!」なのでしょう。
私も保護者として、かつて子どもたちの受験時には「受験を早く終えられるならばそれに越したことはない」という想いがありました。表1の傾向は、私のように想う保護者がすでに一定数いること、今後ますます増えていくだろうと推測できることを示しているのではないでしょうか。
大学側も、こうした想いに応えるべく入試制度をさらに変えつつあります。なんと学校推薦型選抜などの年内で実施する入試において学力試験を課す大学が登場し始めているのです。
これまで文部科学省は、従来大学入試における学力試験を「2月1日開始」と定めていて、年内の総合型・学校推薦型選抜の入試では、小論文や面接などを使うルールになっていました。
しかしながら、近畿地区にお住まいの方はご存じかもしれませんが、かなり昔から関西の一部大学では「推薦入試」でありながら面接や書類審査を行わず、学力試験によって選抜する仕組みがありました。
この仕組みを、首都圏でも2025年度から東洋大学が、12月1日が試験日の「学校推薦入試」で取り入れました。これが賛否両論大きな話題となったのです。
まずは、大学入試の早期化に拍車がかかるという面から年内の学力入試への懸念を示す声が、全国高等学校長協会からあがりました。一方、追随する動きを公表した大学が首都圏で14校ありました。
文部科学省は、一旦は学力試験の期日順守を全国の大学に通知しましたが、2025年6月に小論文や面接など複数の評価方式を組み合わせることを条件に年内学力入試の容認に舵を切ったのです。これによって、首都圏私立大学のおよそ20%が早くもこの秋に学力入試を実施する見込みとなっています。数年後、みなさまのお子さまが大学入試を迎える頃には、もしかするとこの制度は現在の何倍も利用されているかもしれません。
「ずるい!」の2つ目は選考の中身
総合型・学校推薦型選抜では、現在のところ小論文と面接を中心に合否判定が行われます。苦手教科とも正面から向き合い英数国理社をバランスよく学習する必要がある中学3年生が「数学を勉強しなくていいなんてずるい!」と言いたくなる気持ちは、私も少しだけ理解できます。
しかしながら、本当に総合型・学校推薦型選抜は「楽な入試」なのでしょうか。ここでは、選考内容が公表されている慶應義塾大学法学部FIT入試(9月実施)の内容を紹介していきます。
⑴ 事前提出書類
志願者調書、志望理由書(従来は2000字、今年度から800字)、自己推薦書(A4サイズ5枚以内)の3点を提出します。自己推薦書は、明記されている出願資格の中で自分に該当するものを選び、その内容を踏まえて「あなたが慶應義塾大学法学部での学びを経て、どのように社会に貢献する人材となり得るのかについて」自由に表現することが求められています。A4サイズ5枚以内ですから、写真や絵、実績のコピー添付など、他人と同じものでは意味がありませんから隅から隅まで工夫をこらす必要があります。本気で取り組むなら高3の夏休みは日々こうした書類の作成に追われます。
⑵ 当日の選考内容
ここでは、2024年9月21日(土)に実施された選考内容の概要をご紹介します。
① 論述試験
試験時間45分で、A3原稿用紙形式・2240字以内のいわゆる小論文です。ただし、最初に「ジェリマンダーから考える民主主義の危うさ」というタイトルの模擬講義を受講し、その上で「アメリカにおけるジェリマンダーの防止や認定の難しさは、他の社会的課題の解決の難しさに通じると考えられる。実際に同様の事例として、他にどのようなものがあるだろうか。具体例を挙げてジェリマンダーの問題との共通点を示しながら説明しなさい。」という設問に挑みます。事前に講義を受けるので、知識の有無ではなく「社会の最新トレンドを高校生なりに捉え、自分の経験と重ねて表現する」ことが求められます。ちなみに、ジェリマンダーとは「選挙において特定の政党や候補者に有利なように選挙区を区割りすること」だそうです。私は初耳でした。
② 口頭試問
冒頭で自己アピールを兼ねた自己紹介(2分)を含めた合計15分で実施される面接です。口頭で与えられたテーマに対して、すぐに内容を理解し自分の考えを述べることが求められ、自分の回答に対する質問にも応答しなければなりません。その内容は次のとおりです。
法律学科:米国、中国、ブラジルといった国々では、裁判所の手続にAI を導入しています。生成AIはすでに日本の司法試験でも一部科目で「合格水準」を取ることが可能となっています。一般にAIには多くのメリットがある一方で、さまざまなリスクがあることも知られていますが、司法や裁判制度にAIを導入することについてあなたは賛成ですか反対ですか。
政治学科:近年、AIの能力が著しく向上するなか、政治家や政党がAIを政治に利用する動きが見られます。AIは、人間には不可能な膨大な情報量を収集・分析することができるため、その分析結果を政治に利用することで、政策の「最適化」を図ることができる可能性がある一方、その判断基準や利益衡量が不透明化するおそれもあります。将来、AIが政治を補完したり、代替したりすることができるのか、あなたの考えを話してください。
中学生が想像する面接でのやりとりは、おそらく面接練習で聞かれる「志望動機」「自分の興味関心」「将来の夢」といったものだと想像します。これらを上手に語るだけで大学に合格できるとなれば「ずるい!」と言いたくなるのも無理はありません。しかしながら、総合型選抜で問われる内容は「自分のこと」ではなく、今後この仕組みが普及すればするほど「社会の一員としての姿勢や考え方」となるはずです。小中学生であっても日頃からニュースや社会の変化に目を向け、世の中の様々な事象や問題に関心を持つこと、まずは1つでも「大人顔負け」のテーマを持つことは可能です。このような姿勢は、大学入試のため、早く受験を終えるため、限定的な効果ではなく、お子さまの今後において様々な場面で活きてくることでしょう。
出典:リクルート進学総研 高校生の進路選択に関する調査(進学センサス2025)
https://souken.shingakunet.com/research/pdf/2025_sensasu_report.pdf
参考資料:慶應義塾大学 2025年度FIT入試第2次選考概要(A 方式)
<参考> https://www.keio.ac.jp/ja/admissions/docs/a_2025.pdf
vol.211 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2025年11月号掲載
