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Vol.212 「知らない人とは話しづらい」は乗り越えるべきものなの?
仕事柄、学校の先生や塾の先生と情報交換をする機会が多いのですが、最近よく話題にあがるのが「自分から質問できない中学生が増えている」という件です。保護者から「この子は自分から質問に行けないので、先生のほうから『質問はないか?』と声をかけてほしい」と依頼されるケースが、以前に比べて増えているというのです。親しくない相手に自分から話しかける際に不安や緊張を感じるということは理解できますが、この傾向は今後ますます増えていくのでしょうか。
「知らない人とは話しづらい」この10年で思い当たる2つの事象
「中学生の気質の変化」が最近話題になることが多かったので、かつて自分が書いた記事を読み直してみることにしました。すると「知らない人とは話しづらい」という点で、この傾向を暗示している2つの事象を拾うことができました。
1つ目は「都立中高一貫校(併設型)の募集停止」です。高校入試も行って生徒を受け入れるシステムを採用していた都立中高一貫校(併設型)が、数年前までに次々と募集を停止していきました。その理由として、都立中高一貫校検証委員会のアンケート結果資料(平成30年4月)によると、都立中高一貫校を志望しない理由として、学力面(進度のギャップ)よりも「中学入学組になじめるか不安」「高校から入学する生徒だけで高校生活をスタートさせたい」という項目のポイントのほうが高かったというのです。これは、私立高校選びにおいても同様で、中学入学組と混合クラスになる学校であればもちろん、完全に別のクラスを設定している学校であっても「部活で一緒になるかもしれないからイヤだ」という生徒が、私の周辺であっても確かに存在します。
つまり、「(中学入学組の)既存コミュニティに後から入ること」への拒否反応が、進学先選びに大きく影響を及ぼしているのです。
逆に、中高一貫校側の視点にたってみます。学校関係者の多くが口にするのは、高校から迎え入れる生徒について、あらゆる面において「中学入学組に刺激を与え、自分自身も刺激を受け、相乗効果で成長できる」資質を持っていてほしいということです。もちろん学力面で中学入学組についていけるだけの土台も求められますが、「向上心のかたまり」「(入試を通して自立を経験した)鋼のメンタルを持つ」「後からコミュニティに入ってきたはずなのにいつのまにか自分が輪の中心になってしまう」といった面を求めているというのです。既存のコミュニティに溶け込めるかどうかについて、最初から心配したり拒否反応を示したりする生徒をそもそも欲していないので、高校入試をする中学生の気質の変化が生徒募集の見直しにつながったと見るのは自然な流れです。
2つ目は「異世代コミュニケーション」です。新入社員が「自分の前に置かれた固定電話に出ようとしない」という話題はすっかり春の風物詩になった感がありますが、自分の生活圏に関わっていない人や習慣、文化について体感したり見聞したりする機会が少なくなっている点です。かつての自分の記事にも「最近の大学生は知らない大人と接触する機会が少なく就活時に緊張する、と様々な場面で聞かれるようになりました」という一文がありました。幼少期には「知らない人と話してはいけません」と言われ続けた彼らですから、部活やアルバイトといった機会を通して自分と異なる世代の人と交流していない限り、それはそれは緊張することでしょう。大学生・社会人ですらこの状況なのですから、中学生であれば、質問1つをとっても動く前から心配したり拒否反応を示したりするのも無理はありません。
「知らない人とは話しづらい」という気持ちはわかりますが、その感情を乗り越えてしまうだけの行動力とコミュニケーション能力がもしかしたら今後必要になるかもしれないという自問自答は、小・中学生であれば欠かせないと私は思います。
「知らない人とは話しづらい」はいつまで通用する?
学生の間は自分の生活環境を自分で選ぶことができますが、当然ながら社会人になれば「求められる資質・能力」に適応する必要があります。新卒採用に携わっている人事担当者を対象としたある調査結果をご紹介します。(参考1、参考2)。ぜひお子さまと一緒にご覧ください。
個人的には「リーダーシップ」の低さが気になりますが、今回の話題とは離れるので割愛します。「知らない人とは話しづらい」というキーワードに対応するのは、①と④、そして⑥でしょうか。大企業になればなるほど、①と⑥の数値が高くなっている点など、ぜひ親子で話題にしてください。求められるのは、簡単に言えば「しっかりと意思疎通ができて、相手と信頼関係を築ける力」となるでしょうか。社会人ですから「みんな仲良く」が求められているわけではありません。小・中学生に落とし込めば、話しかけられても表情一つ変えずに無反応とか、他人の善意に対して「ありがとう」という感謝の言葉一つすら返さないといった行為が、相手との意思疎通を終了させてしまうということを知っておく。相手の話をよく聞かず一方的に自分の言い分だけを主張していては信頼関係を築けないことを知っておく。これでよいのです。
「知らない人とは話しづらい」は悪いことではありませんし、話すことが苦手なら笑顔で対応するだけでも相手の受け取り方は大きく変わるはずです。
最後に、自分が見ている限りにおいて、自分から声をかけて相手との会話のきっかけを作ろうと動ける小・中学生の特徴をご紹介します。
彼らは、「初対面なら共通の話題なんてないのが当たり前」という前提で相手に対して近寄っていきます。それができるのは「興味の対象が広い」からです。テストや受験に関する知識ではなく、雑学やスポーツ、文化まで幅広く関心を持っていて例外なく知的好奇心が旺盛です。例えば住んでいる地域が話題になれば、どの地域に対しても1つや2つは知識(浅くてもかまわない)を出せるのです。その話題が有名なラーメン屋だったりその地域で強い部活だったり、とにかく相手に合わせることができるため、会話が成立して距離感が縮まっていきます。そのたびに「あぁ、知識にムダなんてないんだな」と彼らから教えられています。


出典:『日本の人事部 人事白書2025』
vol.212 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2025年12月号掲載
