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Vol.214 中学入学後の成績が低迷する子の共通点とは?
現在私は、二人の中1生を個別で指導しています。どちらも中学入試を経て私立の中高一貫校に進んだ生徒で、彼らが小6のときには算数を指導していました。入学時の成績はけっして悪くなかったものの、秋以降の同じタイミングで成績が急降下。「定期試験の成績が……」と相次いで相談を受けたのでした。この二人にはどのような共通点があったのでしょうか。
保護者が心配する「深海魚」とは?
近年、受験界隈でよく用いられる「深海魚」という表現をご存じでしょうか。中学入試、高校入試を経て進学した生徒が勉強についていけず、成績が最下位層に沈んだまま浮上できない様子のことです。
保護者の立場からすると、ようやく入試を突破して安堵したのもつかの間、今度は定期試験の成績で将来を案じる日々が続くのではたまったものではありません。このストレスを避けたいと考える保護者は増えているようで、お子さまの進学先選びにおいて「深海魚になってしまうリスクを避けて合格可能性の高い学校を選ぶ」と「ギリギリでもいいからこの学校に通いたい!という子の意志を尊重する」の二択で悩む声を聞いたことがあります。また、「合否ラインすれすれでの合格、あるいは補欠からのくり上げ合格だと、入学しても全員が自分より成績上位者になってしまうので、入学後に深海魚になる可能性が高い」とする意見は、定期的にSNSでも散見されます。
一方で、現在私が指導している二人の生徒は、入試時の成績と入学直後の試験結果は悪くありませんでした。入学からわずか半年あまりでここまで成績が急降下するとは予想していなかったと、どちらの保護者も語っておられました。
分岐点は「中1の夏休みの使い方」
二人の生徒には「夏休みの宿題が未完成のまま2学期に突入している」という共通の問題点がありました。そして二人とも「算数が得意だったので、数学はなんとかなると思っていた」と語ります。
公立であれ私立であれ、中1の夏休みですからどんな子でも勉強を忘れて遊んだり、家族で旅行に行ったりするのは当然です。ただし、だからといって勉強しなくてもよいわけではありません。私のもとに駆け込んできた一人目の生徒は部活が原因でした。本当に毎日の練習、週末は試合、そして合宿。お盆の時期も含めて朝早く起きて練習に向かい、夜帰宅したら疲れて寝てしまうという生活のくり返しだったそうです。日々全力で取り組んだ結果、夏の終わりには未消化の宿題が山のように残っていたことはもちろんのこと、疲労困憊で体調を崩してしまっていたそうです。
二人目の生徒の原因はゲームです。オンライン型の対戦ゲームにはまり昼夜逆転の生活を送っていました。保護者が設定していたスマホの制限機能をあの手この手で突破し、家族が寝静まったあと朝までゲーム三昧の日々。両親ともに不在にする昼間に寝ていたようです。
彼らのその後は前述のとおり、成績は急降下してしまいました。二人とも、最初は英単語や漢字といった小テストの準備が不十分であったり、各教科の課題提出が遅れることに対して「まずい」とは思っていたけれど「本気を出せばすぐに取り戻せる」と状況を甘く見たりしていた点を強調しなければなりません。9月は学校行事が多いため、勉強のペースが崩れたままでも最初のうちはやり過ごすことができたようなのです。しかし定期試験がやってくると、1学期とは別人のような中途半端な準備でテストに向かうことになってしまいました。さらには二人とも「自分よりもっと成績の悪い人がいる」という言い訳をして保護者を激怒させるところまで一緒でした。
彼らに限らず、小中高生にとって夏休みの生活習慣の崩れは悪影響が大きく、夜更かしの癖がついてしまうと秋以降すぐには戻せません。朝から元気がなく眠そうにしていて、午前中から居眠りを始めるようになってしまうと、もちろん成績は急降下していきます。ゲームに限らず深夜まで動画を見たり本を読んだり、ということに慣れてしまった生徒は、私が見る限りでも公立私立、あるいは男女問わずたくさんいます。これは年末年始明けの1月にも同じことが言えますので、保護者のみなさまはどうぞ注意なさってください。
「深海魚」からの再浮上にはどのくらいの時間がかかるの?
このように1回成績不振に陥ってしまったら、いわゆる「深海魚」になってしまったら、もう再浮上するチャンスは残されていないのでしょうか。ここでは、もう10年以上前に私が関わった元生徒の過程をご紹介します。この生徒の場合も、私立の中高一貫校に進学後「中2秋に学年でビリ」の状態で再会し、「高2の夏前にクラス1位」に戻るまで、実に3年の月日を要していることを覚えておいてください。その過程は次の3段階に分かれます。
①当面の危機・不安を回避する
中学生は留年こそありませんが、私立中ならば赤点の状況によって進級会議にかけられたり退学がちらついたりしますから、まずは「赤点連発の状況からの脱却」が目標になります。中学生は反抗期を迎えますので、保護者の「このままじゃ大変なことになるわよ!」は全く響かないどころか逆効果になっていまいます。本人も「このままではまずい」と思ってはいるものの、何をどこから始めればよいのか見失っている状況ですから、私のような第三者が、強制力を持って勉強させるけれど、生徒の味方だから言い分や愚痴も聞いてあげるほうが親子ともにストレスは軽減されるようです。定期試験であれば、サボらずに準備をするだけでも当面の危機を回避できる程度には点数が回復します。
②自立に向けた試行錯誤をサポートする
点数が回復してもそれをゴールとするわけにはいきません。私に言われたことをこなしただけでは自立とはほど遠い状態ですから、試験に向けたスケジュール作り1つをとっても
・私が作ったスケジュールをサボらずに消化する
・スケジュール作りの効果を実感する
・自分でスケジュールを作ってみる&スケジュールを実行して右往左往する(最初は予定通り消化できるはずがないので)
・自分の体力や性格を客観視し、自分にあった実現可能なスケジュールを作成し、実際に消化する
・試験に向けて明確な目標を自分で設定し、それをクリアするために計画的に動く
と、少なくとも5段階のステップアップをサポートしなければなりません。1回の定期試験に対して課せるノルマは1つまでですから、最短でも5回分(1年分)の時間が必要です。もちろん試行錯誤しながら失敗することもありますし、同じミスをくり返して停滞することもあります。点数ももちろん大切ですが、準備がうまくいって初めて次の段階に進むのですから、スケジュール作りという1つの項目をクリアすることでさえ2年近くを要することをご理解いただけるでしょう。
③将来の目標から逆算して、私が手を放す時期を明言する
この生徒の場合、将来なりたい職業が明確であったため、高1に進級した段階で「高2の夏からの予備校通い」を明言しています。そのために、高1夏でクリアすべき目標、高1冬でクリアすべき目標、高2夏前にクリアすべき目標をそれぞれ伝え、段階を踏んで私は「管理する人→見守り応援する人」へと立ち位置を変えていきました。部活でもゲームでもデートでも、高1生に禁止事項を課すことは不可能です。一番覚えるべきは「自分で自分をコントロールする術」であり、遊ぶなら遊ぶ、勉強するなら勉強すると明確に振り切って、中途半端なことだけはしないように言い続けた覚えがあります。
中高一貫校に通うメリットは、このように「スモールステップでお子さまの成長や試行錯誤を待ってあげられる」点にあります。実際にあった事例として「次の試験を頑張ろうと思って、自主的に早めに部活を休んだ。でも早く家に帰ってみてもそれほど勉強時間は増えなかったし、かえって油断が生じてしまい集中力を欠いてしまった」という反省を生んだ回がありました。試験結果としては伸び悩み、本人は保護者から叱られたようでしたが、自分自身で試してみたけれどうまくいかなかった(だから次は○○を改善しよう)という姿勢には成長の兆しがあり、私は次回の挑戦を待ってあげたくなりました。
ただし、保護者にはここまで正直に反省の弁は述べないと思いますので、真意は伝わらないはずですが……。反抗期って難しいです。
vol.214 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2026年2月号掲載
