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Vol.215 「学力の地域間格差」を保護者はどこまで気にするべき?
2月になると首都圏では中学入試・高校入試・大学入試が次々と実施されます。近年では地方から首都圏の大学を目指す受験生が減っているとの声をよく聞きます。その要因として経済的事情もさることながら、活況な中学入試事情を背景とした都市部の学力向上、つまり「学力の地域間格差」が年々拡がっている可能性も我々指導者の間では話題になります。小学生・中学生の保護者のみなさまにとっては「学力の地域間格差」が本当にあるのか気になるところではないでしょうか。
全国学力調査の都道府県別順位はどこまで信用できるの?
地域別の学力差を示す指標として報道でよく紹介されるのが2007年度から始まった全国学力・学習状況調査(以下全国学力調査)の都道府県別順位です。開始当初、秋田県・福井県・石川県など、大都市圏以外の地域が上位に名を連ねることで話題となったことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。最近では報道される機会も少なくなっていますが、今でも毎年実施結果は公表されていて、それぞれの自治体でこの結果をもとに分析や現場へのアドバイスなどが行われています。
一方で、大学受験時の学力を示す指標としてよく用いられるのが、保護者世代であれば大学入試センター試験、現在であれば大学入学共通テストの成績です。全国一斉に多くの受験生が挑戦しますから、当然ながらその都道府県別順位もついてしまいます。このデータが報道されることはほとんどありませんが、受験者のデータを集めて分析する大手予備校から発表されています。
今回は、小6算数、中3数学、そして高3の数学ⅠAの結果を比較してみます。

共通テスト数学の都道府県別順位では、実はこの後6位兵庫、7位千葉、8位滋賀、9位和歌山と見事なまでに首都圏・近畿圏が続き、10位に北海道が登場します。ちなみに小・中学校の学力調査結果上位地域を見ると、石川は18位、福井は23位、徳島が24位、富山が27位と続きますが、秋田は46位となっています。小6・中3の間には相関がある程度見えるとはいえ、どうして高校3年間で都市圏に抜かれてしまうのでしょうか。この理由は、全国学力調査と大学入学共通テストの質の違いにあります。
全国学力調査は、大都市圏に住んでいようが地方に住んでいようが全国共通の基礎学力を点検するものですから、都道府県別の順位(平均点)から読み取れるものは「学力がキチンとついていない児童・生徒の割合」になります。よって福井県や石川県、秋田県といった地域では「全体的に基礎学力がついている(落ちこぼれが少ない)」と読み取ることはできますが「他地域に比べて優秀な児童・生徒が多い」かどうかは判断がつきません。逆に都市圏は、家庭のライフスタイルが多様化していることにより、学習習慣が定着していない児童・生徒の存在を想像することはできますが、この結果をもって優秀生が少ないとは言い切れません。
これに対して大学入学共通テストは大学合格を目指す人が受ける選抜試験です。大学受験を考えない生徒は受験しませんから、この試験の都道府県別平均点で地域ごとの優秀生の割合をおおまかに読み取ることができますが、その地域の高校生全体の基礎学力を示す指標とは言い切れません。よって、小中学生の基礎学力については、20年前に比べれば東京の頑張りこそ可視化できるものの僅差であり、地域差を気にする必要はないといえるでしょう。
大学受験時に初めて見える「地域間格差」の正体
一方、大学受験時には明確な「地域間格差」が存在します。例えば地元に予備校があるかないかも1つの要因でしょう。しかし最も大きな要因は地域ごとの「国公立大学志願者割合の差」なのです。
国公立大学を受験するには、まず大学入学共通テストで原則6教科8科目の結果が求められます。国語・地歴・公民・数学・理科・外国語と、保護者世代にはなかった新教科「情報」も必要です。共通テスト対策だけでも大変な負担が生じることがおわかりいただけることでしょう。
東京や神奈川、大阪といった地域では、自宅から通える範囲に私立大学がたくさんあるため選択肢は多く、共通テストで苦手教科(数学など)を捨てても受験できる私立大学、学校推薦型選抜や総合型選抜で合格できる大学など、国公立大学受験を前提とせずとも進学先を決めることができます。(表2)をご覧ください。

それに対して地元の大学の選択肢が少ない地域では、大学受験=国公立=共通テストという準備を前提とする高校が多くあります。経済的事情などによって「何が何でも地元の国公立へ」という目標を掲げる生徒であれば、苦手な数学や理科から逃げることができないまま共通テストを受験するケースも少なくないはずです。
先日実施された2026年度の大学入学共通テストの公表されているデータによれば、数学1(数学Ⅰ+数学ⅠA)の受験率が最も高かったのは宮崎県の93.0%、最も低かったのは神奈川県の51.8%とのことです。数学2(数学Ⅱ+数学ⅡB)でも受験率最高は宮崎県の93.0%、最低は埼玉県の47.7%、新教科「情報」についても、最高は宮崎県の93.0%、最低は神奈川県の34.9%となっています。
同じ受験生でありながら、教科に対する負担感はかなり違うことがおわかりいただけることでしょう。
宮崎県ほど顕著でなくてもこうした事情は各地で見聞されるはずで、大学入学共通テストの5教科受験率が高ければ高いほど、自分の得意教科だけで勝負できる生徒の多い都市圏に比べれば平均点が低くなるのは当然です。
このような「大学の選択肢」の差は、その地域の高校の指導内容にも影響を及ぼします。高1で数学や理科とお別れしても大丈夫な地域と、最低限大学入学共通テストのレベルまで全教科を仕上げることが前提となる地域があるのですから、共通テストの平均点をもって「学力の地域間格差」を語ることに意味はありません。いわゆる「地頭のよい」生徒の割合は、地方でも都市でも変わらないことはみなさまご存じのはずです。小中学生の間はじっくりと地頭を鍛える、具体的には「読んで、根拠をもって考えを書く・述べる」という土台部分を徹底することが大事です。これはどこの地域に住んでいてもできることだと私は思います。
vol.215 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2026年3月号掲載
