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Vol.28 学力の「地域間格差」を気にする方へ
先日、ある地方で小・中学生の保護者を対象に話をさせていただく機会がありました。「東京から来た進学塾講師」の話を聞きに来る方々ですから、当然子どもの成績や受験には関心が高く、終了後の質疑応答では非常に熱心な質問がよせられました。その中で多かったのが「大学受験を想定した場合、都市との学力格差が心配だ。だから今のうちに何をやらせておけばよいか」というものです。地域がら中学受験熱は高くなく、学校も塾ものんびりとした雰囲気のようで、保護者の方々が心配されている様子がひしひしと伝わってきました。今回は、学力の「地域間格差」について私の考えを述べてみたいと思います。
「全国学力テスト」の結果と大学受験
報道で紹介される全国学力テストの都道府県別順位を見ると、秋田・福井をはじめとした地方の頑張りが毎年目立ちます。例えば大阪は小学生が34位、中学生が45位(いずれも09年)で、テコ入れの必要性を知事が訴えていました。ところが、これが大学受験になると必ずしも順位が一致するわけではありません。
各種学力テストの都道府県別順位
小学校 | 中学校 | センター試験 | |
---|---|---|---|
1位 | 秋田 | 福井 | 東京 |
2位 | 福井 | 秋田 | 神奈川 |
3位 | 青森 | 富山 | 奈良 |
4位 | 広島 | 石川 | 大阪・千葉(同順) |
5位 | 石川 | 岐阜 |
小学校・中学校…09年全国学力テスト成績順位(産経新聞発表)
センター試験…09年大学入試センター試験5教科950点満点(大手予備校発表)
大学入試センター試験の都道府県別順位では、実はこの後に6位京都、7位埼玉、8位和歌山、9位兵庫と、見事なまでに首都圏・近畿圏が続いています。このギャップに気づいている保護者の方々だからこそ「学力の地域間格差」を気にされるのでしょう。この順位変動の要因は何なのでしょうか。
「テストの質の違い」を理解しておく
全国学力テストは「学力到達度」を見るものですから、中学受験で出題されるような難問は出題されません。基礎学力がついていれば得点が取れるものですから、都道府県別の順位(平均点)からは「基礎学力がキチンとついている児童の割合」を読み取るべきなのです。だから、秋田や福井は「全体的に基礎学力がついている(落ちこぼれが少ない)」と読み取ることはできますが「他地域に比べて優秀な児童が多い」かどうかはわからないのです。逆に都市圏は、「基礎学力のついていない児童の割合」が多いということが読み取れます。
逆に大学入試センター試験は、大学合格のための「選抜試験」です。大学受験を考えない生徒は受験しませんし、学力によって得点も大きく変動しますから、この試験の都道府県別平均点からは「地域ごとの優秀生の割合」を読み取ることができます。しかし、はっきり断言しておきますが、平均点が低いからといって、地方の学校が大学受験の段階で手を抜いているわけではありません。なぜなら「大学受験は情報戦である」ことを否定できないからです。専門のスタッフが傾向を分析し、最善のカリキュラムを組んでいる予備校で「得点へのテクニック」を入手できる環境にある生徒と、予備校そのものが地域になく、通っている学校が持つ情報に頼るしかない生徒との間には、どうしても情報格差が生じます。
また大学選択の段階においても、私立大学の選択肢が多い都市圏では、例えば数学・理科が苦手であれば「私立文系型」の勉強に絞って、センター試験を受験しないという選択が可能です。ところが、大学の選択肢が少ない地方においては「とにかく国立大学へ」という志向が強くなりますから、苦手教科を「捨てる」ことができないままセンター試験を受験する場合も少なくないのです。これらの要因が複合的に重なった結果が、平均点の格差につながっているのです。
地域間格差は気にしない
大学入試センター試験の都道府県別平均点において、実は「隠されている傾向」が存在します。国語の平均点を見ると、35位・神奈川、39位・東京、41位・栃木、43位・茨城、44位・群馬、46位・千葉、47位・埼玉
と、明らかに関東圏の順位が低いのです。ちなみに近畿圏では、奈良・1位、和歌山・2位、大阪・8位、京都・15位、兵庫・21位 と同じ都市圏でも明確に差がついていることを知っておいてください。つまり「何が何でも首都圏がベスト」ではないのです。
この傾向について分析した関東圏の塾・予備校は、私の知る限りありません。これはある意味当たり前で、「自分たちの弱点」をわざわざ世間に公表することになるからです。この原因を私なりに推測すると「中学受験段階・高校受験段階についた悪癖」にあると思います。
具体的に言うと「記述部分を空欄にすることを気にしない」習慣が身についてしまっていることです。
公立高校受験生を対象とする塾の競争が激しくなっていることもあり、国語でさえ「定期テスト対策の充実」という名のもとに「パターンを覚えて得点を稼ぐ」ことを叩きこまれている生徒が明らかに多くなっています。「記述が苦手なら捨てろ、その分漢字と文法は完璧に」これも必勝パターンのひとつです。
中学受験においては、特に男子の「記述力の低下」が目立ちます。その理由として、首都圏の多くの塾が「高校受験と中学受験を並立している」ため、指導する側が、前述の「パターン暗記」を小学生にも取り入れているのではないか、と推測しています。これでは小学生が国語力を伸ばす余地がありません。
いわゆる「地頭のよい」児童の割合は、地方であれ都市であれ変わらないはずです。首都圏の場合、「普通の高校生にテクニックを教えて点数を取らせる」ことで英語・数学の得点がかさあげされているだけと考えておくべきでしょう。私は、特に小学生のうちは「パターン」より「思考」を優先するべきだと思います。具体的には「読んで、考えを書く」という土台部分を徹底することが大事です。これはどこの地域に住んでいてもできる事ではないでしょうか。
vol.28 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2010年 7月号掲載