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Vol.41 「論理的思考力」をどうやって磨くか

 

 いきなりですが、パズルの問題を出題します。ぜひお子さまと一緒に考えてみてください。
「か」「き」「く」「け」「こ」と名前のついた箱が1つずつあり、このうち3個の箱に宝物が隠されています。次のことがわかっているとき、「く」の箱には宝物がありますか?「ある・ない・決められない」の中から1つ選び、その理由を書いてください。

【わかっていること】
①「か」「き」「く」の箱のうち2つの箱に宝物が入っている。
②「く」「け」「こ」の箱のうち2つの箱に宝物が入っている。
③ 全部の箱のうち3つの箱に宝物が入っている。

お子さまと一緒に解いてみた場合、問題の正誤よりも「理由をどう説明しようとしているか」の部分に注目してあげてください。くれぐれも「どうしてこんな問題がわからないの!」と叱ることはしないでくださいね(笑)。

日本と中国の小学生に生じている大きな差

 このようなパズルを論理パズルと呼びます。1997年のデータですが、日本と中国の小学生にそれぞれ論理パズル(この問題を含めて7問)を解かせた衝撃的な結果があります。「論理的思考力の差」を示す顕著な例になっていますので、できる限り結果を紹介してみます。
(1)平均正答率(理由の有無は別として、選択した回答の正誤)
 中国の小学生はほぼどの学年でも65%以上ですが、日本の小学生では5年生の57%が最高。ただしこの数値は中国の3年生よりも低いのです。
(2)抽出正答率(正答を選択し、理由が論理的思考であった)
 日本では6年生でようやく40%を超えますが、これは中国の3年生よりも低いです。中国の小学生は各学年ともに平均正答率との差が小さく、日本に比べて正確な論述の習慣があると思われます。日本の3年生では理由までしっかり書けた正答の割合は10%を下回ります。
(3)矛盾使用論述成功率(7つのパズルのうち少なくとも1問に矛盾使用論述を成功させている)
 中国の6年生では40%に達していて、3年生でも24%が成功しています。日本の小学生は3年生においてはわずか3%、6年生でようやく20%を超える程度であり、最も大きな差となっています。

 

矛盾使用は「論理的思考力」の基本!?

 (3)で紹介した「矛盾使用論述」を使って、冒頭のパズルの解説をしてみましょう。

 もしも「く」の箱に宝物が入っていないとしたら、①より「か」「き」には宝物がある。②より「け」「こ」にも宝物がある。すると、合わせて四つの箱に宝物が入っていることになるが、③よりこれは条件にあわない。だから「く」の箱には宝物が入っている。

 いかがでしょうか。こうした考え方がとっさに思いつくかどうかは、日頃の思考習慣が大きく影響します。日本においては高校数学で「背理法」を学ぶときに正式に触れる考え方ですから、すでにこれを使える小学生のほうが少数であることは理解できます。それに対して中国では、小学3年生のおよそ4分の1がすでにこの考え方で回答できるわけですから、このような考え方に触れられる環境は決して特別なものではなく、早い段階から一定のトレーニングを受けているであろうことが推測されます。
 このパズル調査を受けた世代は現在25歳前後です。グローバル化を進める企業が日本の大学生より中国人留学生の採用を増やしている最近の事情を重ね合わせると、紹介した調査結果が暗示していたことはあまりにも多かったのではないかと、私は思うのです。

 

「論理的思考力」はいつまでに身につけるべきか

 では、日本の小学生に対して今後どのような指導をしていけばよいのかを考えてみます。
 論理的思考力が本格的に学校で要求されるのは「中2(公立)の2学期」からと考えておきましょう。中2の2学期には数学において「証明問題」を扱うからです。
 ここからは図形学習の視点が変わります。面積や体積の求め方(公式)を覚えて計算するだけでなく、例えば補助線を一本引くだけでも「補助線を引く理由を考える」必要が生じます。「ここに補助線を引きなさい」と習って覚えても、「なぜ?」というプロセスがないと自分で活用することができません。答えの正誤に終始せず、その途中経過が問われ始めるのがこの時期なのです。
 また、受け身の勉強ではなく自分で別の証明を探したり、別解を見つけたり考えたりする主体的な勉強への変身も必要です。
 昔も今も中学生活は、この時期を境として二つに分けられるといってもおおげさではありません。学習内容から生活習慣まで、さまざまな角度から「感情から根拠」「指示待ちから主体性」が求められるようになります。これが、「学習指導要領が何回改訂になろうとも証明問題を学習する時期は移動しない」理由なのであろうと私は考えています。
 ですから、一般的な日本の小学生は遅くとも中1までに「論理的な考え方」に慣れておきたいところです。中学受験をされる場合は、入試問題を解いていく過程のなかで当然考え方を問われますので必要とされる時期は早く、普段の学習においても「なぜ? どうして?」を軽視しないことが大切です。
 そして小学生の段階で意識したいことは「考え抜くことを面倒と思わない習慣作り」です。冒頭の論理パズルなどは「楽しく考え続ける」には最適な題材の一つです。あるいはお子さまが取り組んでいる作文においても、「自分の気持ち(考え、根拠)」をていねいに書く習慣をつけていくことで、主体性を身につけておきましょう。

 調査結果からも明らかなように、決して英才的な特殊トレーニングを課さなくとも小学3年生でも矛盾使用論述ができるようになるのです。「考えることを習慣にする」ことは普段の会話の積み重ねでも可能です。お子さまが「ウザい」「カワイイ」といった無思考な言葉を多用し始める前に、少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。     

 

vol.41 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2011年 8月号掲載

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