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Vol.45 お子さまの「健全な反抗」にイライラしないために

 

 普段塾で中学生を指導しているため、「中学生の母」と話をする機会がよくあります。そのとき必ずといってよいほど話題に上がるのが、「最近子どもが言う事を聞かず反抗的な態度をとる」「こちらが何を尋ねてもまともに返事すらしない」といった、「素直でなくなってしまった子ども」への愚痴です。私は心の中で「よしよし、(本人は)健全に成長しているな」とうなずきながら、「今後は何かあったら我々に伝えてください。直接言えばけんかのもとですから」といつも答えています。
 今小学生のお子さまをお持ちの皆さまにも、近い将来同様の場面が登場することでしょう。今回は、そんな時にイライラしなくて済む方法として、私が保護者会で話している内容を紹介していきます。

お子さまの「健全な反抗」の背景

 子どもは新しいことを身につけるにあたり、必ず身近な人の真似から始めます。家庭であれば「親の一挙手一投足」をよく観察することでしょう。学校や塾であれば、先生の話をよく聞いてその手法を真似しながら身につけようとします。ですから、小学生までの段階での「いい子」とは、この真似の過程で「指示を忠実に守る手がかからない子」を指すことになるのです。
 それに対して中学生以降になれば、その成長段階にあわせて本来は「いい子」の定義も変わらなければなりません。勉強面も部活においても、これまで通りの「指示を守り真似る」面に加えて、「自分で考えながら試行錯誤する習慣」を身につける時期にさしかかるからです。
 ところが保護者の中には、子どもに接するときの「いい子」の基準が切り替わらず、いつまでも小学生時代の感覚のままの「いい子」を要求する方が、少なくないと実感しています。
 この結果、ほとんどの子どもは二重のストレスを感じることになります。一つは自身の「試行錯誤」の過程で生じるストレスです。頭で考えることと実際の行動との間にズレが生じることは当然で(「できると思ったんだよ!」という言い訳が出るのがこの時期です)、うまくいかない自分に対して一番苛立ちを感じているのは、もちろん彼ら自身だからです。そしてもう一つが前述の「(成長段階とずれた)親からの要求」でしょう。これらが「反抗的な態度」の原因だと私は思います。
 よって私は、「健全な反抗」とこれを呼んでいます。最近は、親が求め続ける「いい子」を中学・高校と演じ続ける「反抗期のない子ども」も少なくないようですが、そのまま大人になった彼らが「社会的に魅力のある人間」に見えるかといえば、疑問符をつけざるをえないからです。


親が唱える呪文は「守(しゅ)・破(は)・離(り)」

 この「健全な反抗」は「親離れ」の始まりでもあります。最近では、子どもの「親離れ」のほうが親の「子離れ」よりも早く来てしまうケースがほとんどで、我々の立場から見ると「子離れ」のほうに正直手がかかります(笑)。中には「親離れ」「子離れ」がどちらもないまま大学生まで成長してしまうのだろうな、と思われる事例も存在します。
 だからこそ、皆さまには来るべき「子離れ」のタイミングを慎重に図っていただきたいのです。そのためには「守・破・離」の考え方を理解し実践していただくのが最適だと考えています。
 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、「守・破・離」とは、不白流茶道開祖の川上不白(江戸時代中期~後期の茶匠)が記した『不白筆記』(1794年)にも見られる言葉だそうなのですが、「修行の段階を説明する言葉」として現代でもよく使われています。さらに細かく見ていくことにしましょう。
 『守』― 最初の段階では、指導者の教えを守り真似することから始まります。まずは言われたとおり、見たとおりの形から入り一から百まで型通りに行いますが、形だけ整えたところで「型にはまった融通のきかない状態」になってしまうことはおわかりだと思います。ここでは作法・技法といったものだけではなく、指導者の「価値観」も同時にしっかり学ばなければなりません。
 『破』― 試行錯誤する段階です。さらなる飛躍のためには「言われたことを忠実にこなす」だけでは不充分です。そして自身がそのことに気づき独自に工夫して、指導者の教えになかった方法を試してみることが必要になります。
 『離』― 文字通り「指導者から離れる」段階です。自らの新しい独自の道を確立させる最終段階のことをいいます。

 お子さまの成長と照らし合わせてみると、皆さまにとって「守」と「離」はイメージしやすいのではないでしょうか。「守」はしつけや学校の勉強を、「離」は文字通り一人前として独立する姿を思い浮かべることでしょう。それに対して「破」の部分に関しては、具体的な時期や出来事をイメージすることができるでしょうか。私が保護者会などで問いかける限りにおいては、これを明確にイメージしておられる保護者の方はけっして多いとは思えません。「それは今ですよ!」と申し上げると、どよめきがおこるほどです。
 お子さまが取り組んでおられる作文においても同様で、「守」はあくまでも「作文の書き方」の把握でしかありません。お子さまの作文力の向上は、単にテクニックを身につけたかどうかではなく、「破」の部分で試行錯誤した経験に比例していること、そしてそんな「破」の部分を経た力こそが独創性や論理的思考力といった「21世紀に求められる力」につながっていることがおわかりいただけると思います。
 残念ながら、最近では社会全体で「破」を意識しない傾向が強まっていると思います。「守」の世界しか経験していない子どもが、大学生や社会人となった後に「破」の感覚を身につけることは非常に困難で、「正解なきグローバル時代」をタフに生き抜けるとは思えません。最近多い「健全な反抗」がない子どもたちは、けっして日本の未来にとって「いい子」ではないのです。

 勉強に限らずどんな世界でも、挫折や葛藤、摩擦が生じるのは「破」の段階です。これを子ども自身が乗り越えない限り「離」が来ない、と考えておくことが、「子離れ」なのだろうと私は考えます。これを認識できていれば、たとえお子さまが反抗的な態度をとろうとも「通過儀礼だから仕方ないわね」とやり過ごすことができるのではないでしょうか。お子さまと同じ土俵でけんかするのではなく、ぜひ「お釈迦様の手の上で……」という感覚で接してあげてください。

vol.45 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2011年 12月号掲載

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