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Vol.46 「先生を追い詰めない学校」を探す秘訣

 

 この連載を通して、何度か急激に変化しつつある中学あるいは高校の様子(通知表の評価方法や高校の予備校化など)についてお伝えし、さらには、こうした変化によって生じる「ひずみ」の事例を何度か扱ってきました。最近も近畿圏のある高校で「教員による調査書の不正改ざん」が行われたとの報道を見聞された方もいらっしゃるのではないでしょうか。不正を不正と思わなくなってしまうほど感覚が麻痺してしまう教育現場の背景について、今月は話を進めていこうと思います。

調査書改ざんの実態

 報道によると、 ある高校の58歳の男性教員が3年生24人の成績を証明する調査書を不正に高く改ざんしていたとのことです。このうち12人は改ざんされた調査書を基に大学推薦入試の合格や就職の内定を得ていて、今後取り消しの可能性もあるようです。この教員は、自分が担任をするクラスの生徒を対象に7月から改ざんを始め、最大で英語や体育など4科目にわたって評定平均(5段階)を0.4底上げしていたといいます。9月以降に17人分を受験先に郵送し(大学の指定校推薦で評定平均が基準に満たない生徒2人を底上げで不正に出願した事例を含む)、12人の進路が決まっている状態です。この教員は「生徒をいい大学に早く合格させ、自分も精神的に楽になりたかった」などと動機を説明しているそうです。

 

先生が追い詰められる背景

 皆さまは、この教員の行動をどのように評価されるでしょうか。おそらく一定の割合で「誰も被害を被っていないのだからよいだろう」「生徒のためを思っての行動だから許してあげるべき」といった声が挙がることが予想されます。私の見解は「予備校ならともかく、学校が取る行動ではない」です。調べる限り、この教員が「進学コース」の担任だったこと、そして学校が「進学校へシフトしている最中」であることがわかりました。だからといって58歳にもなる教員が「合格させるためなら手段は問わない」行動を取るようでは、この学校の存在価値はどこにあるのか疑わざるをえません。「学校で教えることは勉強だけではない」とは、ほぼすべての教員の方々が我々塾講師に投げかける言葉ですが、今後皆さまのお子さまが通われるであろう学校においても、この「勉強以外の指導」への力の入れ方について注目しておくことをお勧めします。
 次に、こうした問題が生じる原因について考えます。一般論を基に論を進めますが、こうした背景を前提に考えると、「(受け持ちの生徒の)試験合格率が教員の評価に直結している可能性が高い」ことが要因だろうと容易に推測されます。
 近年特に、少子化の影響が私立中学・高校の経営にダメージを与えており、各学校は生き残りを賭けて新たな戦略を打ち出しています。その多くが「(共学化などの)リニューアル」か「進学校化」に大別できるのです。そのため、あらゆる場面で現場は「イメージアップへの努力」を要求されています。その最たるものが、我々が学生の頃には想像もできなかった「先生への通信簿(アンケート)」実施でしょう。これは加速度的に実施校が増えていて、高評価を得るポイントが「成績をしっかり上げることができるか、大学にきちんと合格させることができるか」という点にあるようです。こうして教員の指導力を「見える化」することによって、「当校の教員にハズレはいません」というアピールをすることまでもが、経営戦略上不可欠な時代となっているのです。


「合格率」を競う影に不正あり

 いわゆる有名校でない学校の場合、進学校へのシフトを高らかに掲げたとしても、いきなり世間や受験生(保護者)の信頼を得ることはできません。たとえ説明会でのプレゼンが素晴らしかったとしても、「実際にこれだけ成績を伸ばしています」という客観的資料の提示がなければ信頼を得ることはできないからです。そのため多くの学校では「大学合格実績の着実な向上」と「英検・漢検の合格率」という二つの指標を意識しているようです。この意識が過剰になればなるほど、現場の教員は追い詰められます。今回の成績改ざん騒ぎ以外にも、この連載で紹介しただけでも「(都内私立中の)英検不正受験」「東京足立区の公立小における学力テスト不正受験」などがおこっています。前者は教員が事前に問題を見て対策講座を行っていたもの、後者は試験中に教員が児童の誤答に合図を送っていたものです。「これが生徒のためになるだろうか」と教員が自問自答する余裕もないほど追い詰められているとしたら、その教員に習う生徒たちがノビノビと勉強できるはずは……ありませんね。
 また、2007年には一部高校による「1人で73学部・学科に合格させるなどの大学合格実績水増し」騒ぎもおこりました。ご記憶の方も多いと思いますが、これは厳密に言うと不正ではありません。しかしながら、大学合格実績を学校選びのポイントにしている保護者を欺く行為に等しい、受験制度の悪用でした。
 こうした「自分の学校(生徒)をよく見せるための不正(ごまかし)」を、一保護者が見抜くことは非常に困難です。初めから疑ってかかる必要はありませんが、学校説明会などであまりにも耳触りのよい文言や数値が続くようなときは、少しだけ気にしてみるとよいかもしれません。


学校のドコに注目すればよいか

 「教育現場と成果主義」については、ある部分では成功している反面、問題点も多く浮き彫りにされています。私個人の見解は省略しますが、成果を求められる教員が、試験合格率などのノルマのレベルと生徒の現状を天秤にかけて危機感を持てば、中には不正行為にはしる者が現れたとしても不思議ではありません。これは教員自身が感じるプレッシャーによるものだと予想できますから、彼らの自己研鑽の度合いに関係なく一定の割合で行われるのではないでしょうか。
 そんな中、お子さまが通う学校選びを行う際には、今後は入学案内に書かれていないこと、入学説明会で話してもらえないことにも気を配る必要がありそうです。合格実績や施設をチェックすることも重要ですが、最も大切なことは、皆さまのお子さまに「これから出会う色々な試練や困難に、正々堂々と立ち向かうこと」を教えてくれる気構えを持っているかどうかのチェックだと思います。
 これは教員の表情でわかります。「成績もノルマ、生徒募集もノルマ」と、常にノルマに追われている学校の教員は、表情からして明らかに疲れています。逆に、教員が自分の仕事にプライドや自信を持っている場合には、質問への受け答え一つをとってもはつらつとしているものです。我が家でも、子どもと一緒に説明会へ向かう妻に対して、事前に同様のチェックポイントを指示しておいたところ、「学校によってまったく違っていた」との返事が戻ってきました。
 皆さまもぜひ試してみてください。

vol.46 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2012年 1月号掲載

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