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Vol.47 来年度からは中学校の学習指導要領も変わります
小学校から一足遅れて、来年度から中学校でも教育課程が一新されます。学習内容の増加や復活、教科書のページ増など「脱ゆとり」を色濃く反映した今回の改訂に対して、現場の先生方はどのような不安を感じ、準備を進めているのでしょうか。今回は、2011年6月に実施された最新の調査結果をもとに、「中学校の受け入れ体制」がどこまで整備されているかを紹介していきます。
力を入れている学校の取り組み
「家庭学習の指導」「生活習慣の指導」といったある意味当たり前の項目を除くと、増加傾向にある中学校の取り組みには「夏休み中の授業や補習」「放課後の補習授業」「長期休業期間の短縮」「土曜日の授業や補習」といった、指導時間の確保に関する項目が並びます。特に「土曜日の授業や補習」については、国立の実施率が0.0%、公立が9.0%であるのに対して私立では87.3%に達しており、その差が明確になっています。
それを裏付ける資料として、年間授業時数の違いがあります。今年度までの標準授業時数(1年間)は980時間、来年度以降の標準授業時数は1015時間となっていますが、すでに来年以降を見越して1015時間の授業を行っている学校は平均では24%程度あります。特に私立に限ると、現在1121時間以上を確保しているところが半数を超えています。
今までの教育課程に従って授業を受けていた場合、公立と私立では最大で年間200時間程度の差がついていたことがおわかりいただけると思います。来年度以降の授業時間増によって、この差は縮小されるように見えますが、公立中の現場での準備はまだ充分とはいえないため、移行後数年の間は、先生・生徒がどちらもとまどう場面が予想されます。
年間授業時間数
全 体 | 国 立 | 公 立 | 私 立 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
980時間 以下 |
1年 | 56.1% | 1年 | 21.7% | 1年 | 63.4% | 1年 | 4.2% |
2年 | 56.3% | 2年 | 21.7% | 2年 | 63.5% | 2年 | 4.2% | |
3年 | 57.4% | 3年 | 26.1% | 3年 | 64.8% | 3年 | 4.2% | |
981~ 1015時間 |
1年 | 26.0% | 1年 | 60.9% | 1年 | 26.0% | 1年 | 23.2% |
2年 | 25.9% | 2年 | 65.2% | 2年 | 25.8% | 2年 | 23.2% | |
3年 | 27.4% | 3年 | 69.6% | 3年 | 27.6% | 3年 | 22.9% | |
1015時間 以上 |
1年 | 14.7% | 1年 | 17.4% | 1年 | 8.5% | 1年 | 61.1% |
2年 | 14.6% | 2年 | 13.0% | 2年 | 8.5% | 2年 | 60.8% | |
3年 | 11.6% | 3年 | 4.3% | 3年 | 5.3% | 3年 | 59.9% |
無答・不明は除く
先生が感じる不安
では、実際に先生方が現在不安に感じている内容について見ていきます。最も多かったのは「教員の多忙化の加速」で87.4%、次に「担当教科による教員の負担のアンバランス」、「人員の不足」と続きます。
新学習指導要領の全面実施で不安に感じること
「とても不安」+「やや不安」と答えた割合を合計
教員の多忙化の加速 | 87.4% |
担当教科による教員の 負担のアンバランス |
83.5% |
人員の不足 | 78.6% |
授業時間の確保 | 67.6% |
生徒間の学力格差の拡大 | 63.1% |
生徒の疲れの増加 | 59.5% |
教員の指導力の不足 | 36.9% |
これを見ると、先生方は「自分たちのことで手一杯」の状況がうかがえるため、保護者の方が感じておられる不安とは順位が異なるであろうことが想像できます。これを学校の種別で見た場合、多忙化の加速について「とても不安」と答えた比率は、公立51.5%に対して私立は13.3%であり、負担のアンバランスについては公立40.9%に対して私立は7.5%、人員不足については公立35.5%に対して私立7.2%と大きく差がついており、特に公立中においてはかなりの不安を感じながら新年度を迎える先生が多いことが把握できるのです。入学したての新中1生を想像すると、最も頼りになるはずの先生が「生徒にかまっている暇がない」ため、様々な疑問や不安がなかなか解消できない可能性があります。少なくとも勉強面については、入学後に困ることのないようできる限りの準備(小学生内容の復習)をしておくに越したことはありません。
学習内容の増加への対応
新しい指導要領において最も負担増となるのが理科です。今回の調査結果には理科教員に対するアンケートもありますので、できる限り紹介していきます。皆さまに知っておいていただきたいことは、理科の年間標準授業時間数が移行前の290時間から385時間と33%増加し、来年度から使用される新しい教科書の平均ページ数は現行のもの(2004年検定時)に比べて45%程度増加する見込みであることです。この状況に対して、理科教員の先生方はどのように考えているのでしょうか。
学習内容の増加への対応予定
(複数回答)
今のままで対応できる | 51.5% |
全体的に授業の速度を速める | 34.5% |
教科書の内容のうち、 ポイントを絞って教える |
27.5% |
宿題などを増やす | 11.4% |
家庭学習(宿題を除く) 指導を強化する |
11.0% |
私の感覚だと「現場で大混乱がおこる」ですが、先生方は冷静にお考えのようです。今回増加する学習内容は、かつての学習指導要領では取り扱われていたものが復活するものが多いため、ベテランの先生と若手の間でも不安の度合いが異なるのかもしれません。現実には授業時間の増加に対して教科書のページ増の割合のほうが高いため、「授業が速くなり、ポイントだけを説明される」ケースや「演習は家庭学習で」と方向性を示す先生が多くなることでしょう。この傾向は理科に限ったことではなく、数学や英語においても同じですから、「生徒に課せられる一日あたりの学習量」はこれまでとは比較にならないほど多くなることが予想されます。
中学受験をお考えの方も公立中進学をお考えの方も、お子さまが通うであろう中学が「勉強させます」というスタンスになるであろうことはおわかりいただけたと思います。「中学生になると忙しくなる」からこそ小学生の間に優先して身につけさせること、それは「学習習慣の確立」です。作文でも計算でも漢字でも、毎日決まった量(時間ではない)だけはやり続けることが大切だと、今の中高生を見ていて私は強く思います。
本文中のデータは、「中学校の学習指導に関する実態調査報告書」(2011年 ベネッセ教育研究開発センター)より出典
vol.47 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2012年 2月号掲載