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Vol.48 大学が秋入学を検討する背景とは

 

 新年早々、「東大、秋入学に全面移行」という見出しが各新聞に飛び交いました。かねてより入学時期の見直しを検討していた東京大学の懇談会が、学部の入学時期を国際基準である秋への全面移行を求める中間報告にまとめたのです。学長は「5年後くらいに実現できればよい」と語っており、他の大学にも足並みを揃える動きが広がっていることから、皆さまのお子さまが18歳になる頃に実施されている可能性は決して低くありません。

日本の大学が抱いている危機感とは

 この10年で、日本企業の多くが「急激なグローバル化」に巻き込まれました。この傾向は今後強くなることはあっても弱まることはなく、大学には「国際的で高い解決能力を備えた人材」を育成して社会に供給することが、緊急課題として求められています。しかしながら、現状はこの課題をすぐに解決できるシステムになっていないというのです。
 その最たるものが「入学時期」です。文部科学省によると、世界215カ国のうち4月入学は7カ国しかないそうです(世界の大学の7割が秋入学)。この時期のずれは「学生や教員の国際交流を制約する」ことになります。つまり「世界レベルの優秀な学生(留学生)や教員を日本に呼ぶことができない」ということです。日本にとって入学時期である4月は、世界中の大半の国にとっては年度途中であるため、このタイミングで学生や教員に動いてもらうには日本の大学によほどの魅力がなければ難しいわけです。
 東京大学を例にとると、学部段階での留学生は全学部生のわずか1.9%(276人)に過ぎず、逆に留学している日本人学生は同0.4%(58人)しかいない状態なのです。これでは日本の大学生を取り巻く環境が「国際化時代に対応できている」とは言えるはずもありません。
 東京大学は、日本国内での評価はもちろんトップだとしても、世界の大学ランキングでは30位(アジアでは首位)です。今後「国際性」が重視され、留学生比率などの項目を重く見る傾向が強まれば、世界的な評価がガタ落ちする可能性を否定できません。「東京大学」を「日本の将来の姿・国力」に置き換えることができるからこそ、待ったなしの改革を急ぐ必要があるというのです。

 

学生の目線で「問題点」を探る

 皆さまのお子さまが大学生になる頃には、このシステムが稼動しているかもしれません。これまでの日本の習慣を変えるほどの大改革ですから混乱は必至です。ここでは「予想される混乱」について、学生の目線で「彼らが困るであること」を紹介していきます。
①高校を卒業してから何をすればいい?
 大学の入学時期を移行できたとしても、この短期間で小中高の入学・卒業時期まで一気に変えることは不可能でしょう。そのため「高校を卒業してから大学に入学するまでに時間が空く」事態が生じます。これを一般に「ギャップターム」と呼びます。東大の中間報告では、この期間を「多様な社会体験を積む時期」として、ボランティア活動や企業インターン、海外留学などにあて、受験勉強で身についてしまった「受験のための受身な勉強習慣」をリセットし、大学で求められる「自ら課題を発見する学び方」に転換させる時期にあてることを掲げています。英国では慣習として定着しているそうですが、日本では国際教養大学(秋田市)など一部の大学が導入していますが普及はしておらず、社会全体への認知度を上げる努力が不可欠です。
②就職で不利になるのでは?
 企業への就職、公務員試験のタイミングなど、現状の「春季一括採用システム」を日本の社会がとり続ける限り、秋入学の学生にとっては「入学前に半年、入学後(卒業後)に半年」のギャップタームが不利になるケースも予想されます。それを払拭するには、企業側が「学生の多様な経験を採用時に積極的に評価する姿勢を示すこと」はもちろん、社会全体が「今まで疑問に思ったことすらなかった慣習(教育・雇用環境)」を見直すなどの議論や支援が必要で、5年後にどこまで条件が整備されているかについては疑問です。
③本当に国際人になれるのか?
 「留学生との交流を通してグローバルな視点を養う機会」を増やすことを多くの大学が不可欠と考えているのは事実で、特に国際関係の学部ではさまざまなサポートシステムを用意しています。
 しかしながら、「教員の国際化」が遅れているという指摘もあります。大阪大学が2006年にまとめた「大学国際化の評価指標策定に関する実証的研究」最終報告レポートによると、2005年11月現在の経済学部・学科における教員の海外博士号取得割合は、東京大学と一橋大学ではほぼ5割を占めるが、北海道大学で約2割、東北・名古屋・大阪・京都大学ではそれぞれ約1割、九州大学は5%にも満たないそうです。明確に海外在住経験のある教員の割合も、一橋大学では約9割、東京大学で約6割と半数を超えるものの、大阪・京都大学では約4割、東北大学約2割、九州大学は1割程度とあり、留学生を招いたとしても彼らのレベルに合わせた講義を「英語で」行える教員の確保について不安視する声も挙がっています。このため「そもそも、普段の授業が国際レベルになっていないので、まず改革するのはこちらからだ」といった指摘をする専門家も数多くいます。


この改革は日本の未来を暗示している

 今回の発表で東京大学の学長は「東大単独で秋入学は実施しない。他大学と足並みを揃えることが大事だ」と語り、京都大や早稲田大など国内11大学とともに協議会を設置する構想を明らかにしています。受験競争の頂点に立つ東京大学でさえ単独実施は難しいと考える案件ですから、今回の発表までに他大学・産業界への根回しは済んでいると考えるのが自然でしょう。その上で、東大が率先して改革案を提示することで世論喚起の役割を果たしているのではないでしょうか。
 ある新聞のアンケート結果によると、東京大学が呼びかけた協議会に参加する大学はすべて秋入学を検討すると回答していますが、実はすでに留学生や帰国生向けの秋入学制度を導入しているところも多く、急激なグローバル化への意識はすでにできあがっていると思われます。その一方、秋入学に慎重な姿勢を示す大学は、「日本の仕組み・ニーズに合わせて人材を育成してきた」地方の大学や教育大、医科大学が多かったそうです。
 これは日本の産業界とまったく同じ構図であり、日本の将来の姿をどのように想像しているかによって、個々に意見が分かれて当たり前の問題だと思います。

 「正解のない時代を生きる」って、本当に難しいことですね。「偏差値にあった大学を受ければいいわ」という近視眼的な考えではなく、「子どもの将来を想像し、方向性を見究めて必要な準備を今から考える」ことが、今すでに求められています。まず変わらなければならないのは、我々保護者世代なのかもしれません。

vol.48 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2012年 3月号掲載

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