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Vol.49 数学・物理が得意だと将来「高所得」になる!?
「算数(数学)を勉強したところで、特に役に立つわけではない」とは、勉強したくない子どもが真っ先に発する言い訳ですが、近年では大人も平然と口にする傾向があります。「二次方程式の解の公式」が中学生の教科書から消えた際には、ある作家の「役に立たない」発言がクローズアップされたものです。そんな中、「文・理系を問わず、数学の学習は将来の所得上昇に寄与する」という調査結果が発表されたのです。
調査の概要とメッセージ
この調査は、京都大学経済研究所の特任教授が中心となり、大卒就業者の所得を「高校時代の学習、特に理科学習」とリンクさせて調査することで、その関連性を明らかにしました。
結果を噛み砕いて述べると、『理系的思考能力を持っている人だけが対応可能になる仕事が存在していて、労働市場ではこのような能力を持っている人が優遇される』ということだそうです。では、具体的な中身を見ていきましょう。
得意科目別平均所得
この調査は、勤続年数によって所得額に差が出ることを考慮し、学習指導要領の変遷にあわせて調査対象を3世代に分類しています。その分類は、
世代A(ゆとり以前)現46歳以上
世代B(ゆとりと充実世代) 45歳~33歳(昭和41年4月~ 53年3月生まれ)
世代C(新学力観世代) 32歳以下
となっています。まず、調査対象者が「高校時代に得意だった科目」と平均所得との相関は表1の通りです。
表1
得意科目別平均所得(万円)
世代A | 世代B | 世代C | |
---|---|---|---|
英 語 | 652 | 477 | 341 |
国 語 | 519 | 410 | 313 |
数 学 | 724 | 561 | 414 |
理 科 | 708 | 545 | 398 |
社 会 | 690 | 540 | 372 |
特になし | 549 | 426 | 356 |
平 均 | 661 | 505 | 365 |
これを見ると、3世代ともに「数学が得意だった人」が最も高所得であり、以下理科、社会、英語、国語の順が同一であることがわかります。数学と国語の所得差は、世代Aにおいて200万円を超えており、世代Bにおいても150万円に達しています。
また表2では、理系学部出身者のみを抽出した上で「理科の得意科目別」平均所得について調べたデータを紹介しています。
表2
理系学部出身者 理科の得意科目別平均所得 (万円)
世代A | 世代B | 世代C | |
---|---|---|---|
物 理 | 762 | 646 | 422 |
化 学 | 728 | 592 | 408 |
生 物 | 660 | 525 | 358 |
地 学 | 708 | 583 | 393 |
平 均 | 734 | 603 | 401 |
これによると、所得の高い方から物理、化学、地学、生物の順で、世代による違いがあまり見られないことがわかります。特に物理・化学の平均所得は、どの世代においても数学と同等あるいはそれ以上となっており、理数系科目を敬遠せずに熱心に学習した結果身につけたもの(理系的・論理的思考能力)の価値は、社会に出た後にも評価されていることが読み取れます。
ちなみに、出身学部別の平均所得(世代の枠なし)では、理系出身就業者の636・8万円に対して文系出身者は510・3万円となっています。ただし、文系出身においても「物理が得意」と答えた人(男性)の平均所得は
713・2万円、「化学が得意」と答えた人(男性)は672・0万円となっており、理系出身就業者の平均と比べても対等以上の金額になっていることもお伝えしなければなりません。
得意・不得意科目の傾向について
次に、「高校時代の得意科目」の割合について、世代別に比較してみます。
表3
就業者の得意科目 (%)
世代A | 世代B | 世代C | |
---|---|---|---|
英 語 | 16.7 | 19.2 | 22.9 |
国 語 | 16.4 | 18.4 | 19.4 |
数 学 | 28.8 | 25.5 | 22.6 |
理 科 | 13.8 | 11.0 | 10.3 |
社 会 | 19.2 | 21.9 | 20.1 |
注目すべき点は、世代A・世代Bにおいては、実は「数学が得意」と答えた人が最も多かったことでしょう。世代を経るごとに「英国の増加・数理の減少」が進み、世代Cにおいては理科を除く3教科が拮抗していることがわかります。誌面の都合で表を省略しますが、理系学部出身者の「理科の得意科目」の変遷においては、若年世代になるほど「生物の増加・物理地学の減少」がはっきりと見て取れるのです。
この世代別比較は「教科学習の軽減化の歴史」でもありますから、この結果から『学習の軽減化のしわ寄せが理数系科目に現れた→だから数学・物理を得意とする人が減少している』と読み取るならば、平均所得との相関において、これからの日本を背負って立つ世代Cの皆さんの前途に暗い影を落とすことになります。しかしながらこれからの日本は、当然ながら世代Aの皆さんが頑張ってこられた時代とは全く異なります。20年後、30年後に「このデータはあてにならなかったね」と笑いとばしてもらえるように、世代Cの皆さん、そして皆さまのお子さま方には頑張ってもらいたいと心から願います。
最後に、おそらく20年後には、従来の「文系か理系か」という選択ではなく「文系も理系も」という人材が優遇されるのではないかと個人的には思います。急激なグローバル化の中、「日本と世界」を複眼的に見ることが要求される時代に、いつまでも「文系と理系ではどっちが得か」なんて話題でもないでしょうから。皆さまのお子さまには、作文も計算も実験観察も、幅広く経験させてあげてほしいと思います。
データ:「高等学校における理科学習が就業に及ぼす影響 ―大卒就業者の所得データが示す証左―」(独立行政法人 経済産業研究所)より
vol.49 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2012年 4月号掲載