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Vol.5 通知表の評定に潜む学校間格差(下)

 

 先月は東京都教育委員会が発表したデータを紹介し、通知表の評定に何が起こっているのかについて取り上げました。今月はそうした現状を踏まえたうえで、「子どもの学力をどう判断すればよいか」を考えていきたいと思います。

評定の実態

 今一度、絶対評価を行っている評定の実例を紹介します。よく調べてみると上には上があるものです。
 千葉県浦安市のある公立中学では、平成18年度の中学3年生180人に対して、
国語「5」…76人(42.2%) 「4」…67人(37.2%)
数学「5」…54人(30.0%) 「4」…81人(45.0%)
社会「5」…125人(69.4%)「4」…39人(21.7%)
理科「5」…107人(59.4%)「4」…57人(31.7%)
外国語「5」…66人(36.7%)「4」…72人(40.0%)

という評定がついていることがわかりました。「2」の生徒は各教科5人以下で「1」は0人。保健体育にいたっては160人(88.9%)に「5」がつくサービスぶりです。
 千葉県全体では、評定「5」をつけた生徒の割合が50%を超える教科がある中学校は23校あり、評定「5」と「4」をつけた生徒の合計の割合が80%を超える教科がある中学校は52校あったと公表されています(調査対象は381校)。資料によれば、この千葉県では相対評価の時代では理論上「3」であった評定の平均値が、平成18年度には全体では3.59に、最も甘い中学では4.11にまで上昇しているのです。
 そのため千葉県は今春(平成20年度)の入試から、公立高校の入試判定には独自の補正計算式を用いて評定格差を是正する処理を行うことになりました。


成績評価の見直し

 同じような問題は日本全国で生じていて、すでに成績評価の見直しが始まっている地域もあります。熊本県では、平成18年度から一般入試(後期選抜)において、調査書の評定を学力試験の得点に基づいて補正する方式を導入しました。大阪府では高校入試に使う調査書で相対評価を続けています。また、大学進学実績を前面に打ち出して宣伝する私立高校の中には、推薦入試そのものを廃止する学校も出てきました。一般入試を経て入学した生徒との学力差が大きくなりすぎたからです。
 このように通知表の評定が参考にならないという現実は、保護者にとって「学力を判断する最もわかりやすい材料」を失うことにつながります。実はここ数年、「中3の夏まで懸命に部活を続けてきて、塾に行かず自分で勉強も頑張り、通知表は『3』に『4』がチラホラの生徒」が最もこの影響を受け、受験で涙するケースが多いようなのです。
 では、「自分の子どもの学力をどう判断すればよいのか」ということについて、この理由とともに考えていきたいと思います。


評定「5」&「4」=偏差値50前後!?

 「通知表は『3』に『4』がチラホラ」という成績であれば、お子さんの成績を「真ん中より少し上くらい」「子どもはできるほうだ」と想像することは自然なことです。私自身、教育関係の仕事をしていなければ、当然このように考えると思います。
 ところがこうした成績の子どもが、中3の秋になって受験対策用の実力テストや模擬テストを受けるようになると、想像していた以上の悪い成績に出会うようになります。通知表の評定にインフレが起こっている現在、学校の評定は「5」と「4」ばかりであっても一般的な模擬テストでは偏差値50前後(受験生全体の平均)になってしまうことは全く珍しいことではありません。しかしながらこうした背景を知らない場合「通知表の成績は悪くないのに、どうして模擬テストになると成績が悪くなるのかしら」と、中3の秋になって親子して首をかしげることになるのです。
 ここで大切なことは、初めて突きつけられた客観的な指標を冷静に受け止め、次へのステップとして前向きにとらえることです。しかし、「子どもの成績は悪くないはず」という前提で考えているために「たまたま今回は悪かった」とか「この子は本番に弱いのかしら」と、親にとって都合の良い判断をしてしまいがちなのです。
 このような都合の良い判断をしてしまうと、親も子どもも通知表の評定を基にして「やればできるはず」と、本当の実力より上位の高校を選んでしまう場合も少なくないようです。受験校選びは自己責任ですから、中学校の先生が「受験を止める」ことはしません。そして、誰も間違いに気づかないまま「じゃあ頑張ってね」と、昔よりもあっさりと受験校が決定してしまうのです。逆に、テストの結果を受けて必要以上に弱気になり「本番に弱い→では競争率の低い推薦入試で」と考える人も少なくないのですが、「推薦入試の競争率の方が一般入試より高い」高校の方が多い時代です。競争率5倍以上も当たり前、人気のある高校になればなるほど、たとえ評定値が出願資格に達していても推薦入試で合格するのは容易ではないのです……。


客観的な学力の指標を持つ

 このような話は当然ですがなかなか表には出てきません。保護者の役割として「都合の良い判断をしないこと」が最も重要であることはおわかりいただけたと思います。では、そのために何をすればよいのか。
 私が言えることは「定期的に、通知表以外の客観的な学力を測る習慣をつけてください」ということです。多くの地域では、定期的に「業者テスト」と呼ばれる民間主催のテストが、行われています。塾に通っていなくても、テストは受けられますので、通知表の評定のみで学力を判断せず、定期的に客観的な学力を、厳しい言い方ですが自己責任でチェックしておいてほしいと思います。


vol.5 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2008年 8月号掲載

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