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Vol.51 小学校は「脱ゆとり」に対応できているのか
小学校では昨年から新学習指導要領の実施が始まりました。いわゆる「脱ゆとりカリキュラム」の中で、小学校の取り組みや先生方の学習指導はどのように変わり、保護者はどのように受け止めているのでしょうか。昨年実施された最新調査結果をもとに、皆さまのお子さまが通われる小学校の様子と比べてみてください。
授業時間数は確実に増えている
どの学年においても約半数の学校が、決められている標準授業時数よりもさらに多い時間数を設定しています。特に4年生以上の学年においては20%以上の学校が、定められている時数よりも「週2時間以上多い」時間割を組んでいることが注目されます。また、時間割設定の工夫として「学校行事の精選」「始業式などの学校行事のある日にも授業実施」「学期始め・学期末の短縮授業日の減少」を挙げている学校が多く、学校生活がかなり「勉強中心」に変化していることは間違いないようです。
年間総授業時数
標準未満 | 標準通り | 標準より 1~35時間 多い |
標準より 36~70 時間多い |
標準より 71時間 以上多い |
年間平均 授業時数 |
学習指導 要領授業時数 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
1年生 | 0.8 | 46.9 | 13.5 | 14.7 | 18.8 | 881.9 | 850 |
2年生 | 0.2 | 49.0 | 13.5 | 15.9 | 16.3 | 938.2 | 910 (週26時間) |
3年生 | 0.0 | 48.2 | 14.7 | 15.1 | 18.0 | 976.7 | 945 (週27時間) |
4年生 | 0.4 | 49.0 | 14.3 | 11.8 | 20.4 | 1012.9 | 980 (週28時間) |
5年生 | 0.0 | 49.4 | 14.3 | 11.8 | 21.2 | 1015.1 | 980 (週28時間) |
6年生 | 0.0 | 49.8 | 16.3 | 10.6 | 20.4 | 1013.1 | 980 (週28時間) |
無回答・不明の数値は省略(%)
保護者はおおむね満足している
授業時間数や学習内容の増加については9割弱の保護者が認知しているものの、学習内容の質的変化(思考力・判断力・表現力等の育成を重視)に関しての認知は6割弱と低くなっています。1学期の授業内容では、「学習内容が多い」という感想が国語と算数でそれぞれ2割弱見られ、特に算数では「学習内容が難しい」「授業のスピードが速い」という意見もそれぞれ2割前後見られます。
しかしながら、子どもの1学期の授業理解度については、「理解していた(とても+まあ)」と回答した保護者が教科・学年を問わず8~9割に達しており、学校への総合的な満足度も75%を超える保護者が「満足している(とても+まあ)」と答えています。
実態はそれほど甘くない
保護者がおおむね満足していた一方で、現場では早い段階から混乱が生じていたようです。実は「脱ゆとりカリキュラム」では、授業時間の増加に比べて学習内容の増加の度合いが大きいため、早い段階から「授業進度が追いつかないのでは」と危惧する声が挙がっていました。ここでご紹介する調査結果はそれを裏付けるものとなっており、(調査が行われた)1学期の段階でありながら「授業が計画より遅れている」と回答した教員が多くなっています。
年間指導計画からの遅れ(1学期調査)
(「計画より遅れている」と回答した割合 %)
1年生 | 2年生 | 3年生 | 4年生 | 5年生 | 6年生 | |
---|---|---|---|---|---|---|
国語 | 27.9 | 38.0 | 52.3 | 49.2 | 51.9 | 33.6 |
算数 | 19.5 | 44.1 | 23.6 | 33.6 | 26.5 | 16.5 |
理科 | - | - | 7.5 | 19.8 | 21.3 | 20.0 |
社会 | - | - | 14.6 | 10.9 | 36.7 | 26.4 |
授業進度が遅れる理由として、特に遅れの目立つ国語では「学習内容や教科書の分量の多さ」の割合が6割を超え、「児童間の学力差」に1割ほどの差をつけています。算数では逆に「学力差」を挙げる教員が7割を超えて「内容や教科書」を大きく上回っており、保護者が見る子どもの授業理解度とは大きく違っていることが注目されます。
「遅れへの対応」でわかる教員の力量
こうした授業進度の遅れへの対応として、「授業進度を速める」と回答した割合が約6割~7割(教科によって差がある)と最も多く、ついで「重点を置く単元を設ける」でした。教科ごとに見ると、国語では「重点を置く」が6割に達する一方で他教科では3割に満たず、算数では「宿題を増やす」「放課後などの補習実施」「家庭学習(宿題除く)指導強化」の割合が他教科に比べて突出していることを覚えておいてください。
ここでは、「教職経験年数別」で授業進度の遅れへの対応を比べてみます。次の表をご覧ください。
年間指導計画の遅れへの対応(複数回答)(%)
5年目以下 | 6~10年目 | 11~20年目 | 21~30年目 | 31年以上 | |
---|---|---|---|---|---|
国語 | 76.5 | 73.1 | 75.0 | 61.0 | 66.1 |
47.1 | 50.0 | 55.9 | 67.5 | 71.4 | |
算数 | 75.0 | 60.0 | 71.1 | 53.8 | 55.8 |
18.0 | 13.3 | 20.0 | 35.9 | 48.8 |
上段:「全体的に授業の速度を速める」
下段:「重点を置く単元を設ける」
若手教員とベテラン教員では、指導ポイントが違っていることがおわかりいただけると思います。首都圏をはじめとする都市圏では団塊世代の教員の大量退職に伴い、ここ数年若手教員が続々とデビューしていますから、おそらく「授業速度を速める≒間に合わせる」だけで精いっぱいとなっているクラスもたくさんあることでしょう。これだと「学習単元を終了させた」という既成事実は残ったとしても、特に子どもたちの学力差を進度遅れの理由に挙げる教員が多かった算数においては、「内容をしっかり理解できていない子」が続出している可能性を含みます。特に4年、5年における学習内容をあいまいにして放置しておくことは、6年生はもちろんのこと中学に進学した後にも大きな影響があるので注意が必要です。
もしもお子さまのクラスがこうした事例に該当していたとしたら、特に算数については「家庭学習」で定期的に学力をチェックしておくことをお勧めします。学校の宿題以外に演習用教材を用意して継続的に演習するだけでも効果は違ってくるものです。若手・ベテランにかかわらず、子どもの実情をキチンと把握した先生はもちろん「家庭学習」に関する指示が具体的ですから、教材などについて一度質問してみることをお勧めします。
データ:ベネッセ教育研究開発センター 小学校 新教育課程に関する調査 2011年
vol.51 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2012年 6月号掲載