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Vol.68 センター試験をなぜ見直すのか、何が変わるのか

 

 「大学入試センター試験廃止へ!」という新聞の見出しを目にした方も多いと思います。前身の共通一次試験も含めると、30年以上も日本の大学入試制度の土台の役割を果たしてきたこのシステムを、どうしてここで見直す必要に迫られているのでしょうか。

大学入試は何が変わるの?

 センター試験の見直しについては、早ければ5年後にも実施と言われています。東京オリンピックが行われる頃、つまり皆さんのお子さまがちょうど大学入試を迎える前後から新システムが稼働する可能性が高いようです。その中心は「国公立大学の入試制度改革」で、ポイントが2つあります。1つ目は1次試験としてセンター試験に変わる新テストを創設することです。従来のシステムを衣替えして「複数回受験可・高校在学中から受験する到達度試験」にしたいようです。そして2つ目は、国公立大入試の2次試験から「1点刻みで採点する教科型ペーパー試験」を原則廃止し、面接などの人物評価を重視するしくみを作るというのです。私立大学については、新テストを活用する際には同様の方針が求められることになりそうです。

 

教育現場は問題を抱えていた

 大学入試センター試験がもたらした弊害は「高校教育の質を落とした」ことかもしれません。国公立大学受験生の多い学校の中には、高校のカリキュラムを早めに終わらせて作った時間で「センター試験対策」を授業中に実施するところも少なくありません。センター試験は全国で50万人もの受験者を集め、難関国立大学から地方の私立大学まで合否判定に使うものですから、年度によって難易度やシステムを変えていたら利用する大学側に混乱をきたす可能性があります。よって、受験生にとっては「準備・対策がしやすいテスト」といえるのです。予備校はもちろん、学校においても「センター試験のクセ」を逆手にとった解法テクニックや出題傾向の分析を進めていますから、高校での勉強の本質を見誤る生徒が出てくることも不思議ではありません。
 東京大学が数学で「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」という問題を出して話題になったことがありましたが、これは「高校生の勉強の仕方」に対する強烈なメッセージに他なりません。センター試験対策によって、知識量や受験テクニックといった「技」にたけた生徒は増えていますが、その一方で物事の本質をきちんと理解したり、課題を解決したりする際に必要な思考力や判断力、表現力が年々低下しているという指摘は、私が見る限り的確だと思います。
 これに加えて、大学進学率の高まりを無視することはできません。2008年以降18歳人口はおおむね120万人前後で推移しています。大学入試制度導入以後、最も多かった1992年度の205万人に比べると4割もの減少となっていますが、入学者数は現在のほうが(およそ60万人前後)1992年(54万人)よりも多くなっているのです。大学数は2013年度で740校あまり(国公立と私立を合わせて)ですが、私立大学の4割が定員割れとも言われています。
 学生確保のために多くの大学があの手この手を尽くしていますが、最も多いのが「一般入試(ペーパーテスト)を経ずに合格を得られる」推薦・AO入試の比率を高めることであり、その結果高校生たちが「内申のための勉強」に終始していれば合格できるという、本質を見失った勉強に慣れきってしまう悪循環に陥っているのです。
 すでに私立大学に入学した高校生の半数以上は推薦・AO入試で入学しており、教育現場の最前線の意見は「センター試験の功罪を語るよりも、高校生が日常きちんと勉強するしくみを作ることが先」なのかもしれません。

本当は「選抜方法」より先に考えることがある

 現在の入試システムは、ほとんどが70年代80年代の「18歳人口が多かった時代」の選抜方法がそのまま使われています。新しく取り入れた推薦・AO入試は、まだまだ本来の意図に沿って運用されているとは言えません。
 2012年の出生数は103万人と言われていますから、あと20年もすれば18歳人口はピーク時の半分になってしまうにもかかわらず、旧態依然の「優秀な者だけを選別する」システムにメスを入れないままでいると国力は維持できないでしょう。人口が半分になっても勢いを維持しておくためには、一人ひとりが従来の2倍のエネルギーを持つことが不可欠です。資源を持たない我が国にとっては、人材や知的財産こそが将来を生き抜くためにも重要な「唯一の資源」とされていると言っても大げさではありません。
 だからこそ、1日も早く子どもたちに「正しい勉強の意味」を教えてあげてください。英語や理科、算数・数学を勉強する意味が「テストでよい点をとってよい大学に入るため」のままでは、科学技術の分野を中心にインドや中国の優秀な若者たちに取って代わられることでしょう。これはすなわち日本の大ピンチを意味します。
 今回の入試改革の報道は「選抜方法」が中心になっていますが、もっと本質的な「日本の危機」に対する方向性を強く示した上で最適な入試システムを考えておかないと、どんな改革をしてもその効果には疑問符がつきます。そして、試行錯誤で動き始める新システムに最初に乗せられるのが、もしかすると皆さんのお子さまかもしれないのです。


親の仕事は「時代の変化」を読み取ること

 この先何年か、入試を巡る環境がゴタゴタすることが予測されます。我々保護者にとって必要なことは入試システムの変化に右往左往せず「どんなシステムになろうとも、本当に大切なことは他人任せにせず、きちんと子どもに伝える」という覚悟です。子どもが勉強しなければならない理由、それは「彼ら自身が自分の未来を生き抜くための羅針盤を手にするため」です。従来であればこの羅針盤は大学名のことを指しましたが、急激なグローバル化によってそれは「学校名から(自身の)実力」に変わりつつあります。皆さんのお子さまが大学を卒業する頃には「とりあえず△△大学を出ました」といった肩書にどれほどの価値を見出せるのでしょうか。それは誰にもわかりません。
 だからこそお子さまに持たせる実力は、学校や塾に任せっきりにせず、目先の点数に一喜一憂せず、楽しみながら長い目で育ててあげてください。
 作文を通して自分の考えを整理し表現する習慣を身につけることは、新しい大学入試システムで受験する際の大きなプラスとなるはずですが、そこで止まってしまってはもったいない話です。いま保護者に求められるのは「大学入試のその先」を見据えることではないでしょうか。

vol.68 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2013年 12月号掲載

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