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Vol.7 算数・数学に必要な国語力とは何か
本誌9月号で教育講演会の様子が紹介されていましたね。その中で私が注目したのは、大阪成蹊短期大学教授・小西豊文先生の「算数でも国語力が必要になっている」という部分でした。私もこの連載の4月号において同様の内容を紹介していましたので、興味深く読ませていただきました。
そこで今回は、私見ではありますが、より具体的に「算数・数学に必要な国語力」を考えてみたいと思います。
文章題の正答率が低い理由
「『計算の力』の習得に関する調査(平成18年)」結果によると、計算問題については、「0.3÷0.4」という小数同士のわり算の正答率が、小学5年生で82.5%に達するなど好結果が出ている一方、文章題から計算式を導き出す問題では正答率が低く、「0.6メートルの青いテープと、1.5メートルの赤いテープがあります。青いテープの長さは、赤いテープの長さの何倍でしょう」という問題の正答率は、47.1%に留まり、計算式を作ることができたのも51.2%にすぎなかったそうです。
<計算問題>
0.3÷0.4=0.75 … 正答率(小5)82.5%
<文章題>
0.6メートルの青いテープと、1.5メートルの赤いテープがあります。青いテープの長さは、赤いテープの長さの何倍でしょう? … 正答率 47.1%
0.6÷1.5=0.4 … 正答率(式まで)51.2%
単純な「0.3÷0.4」といった計算問題はできるのに、テープの問題になると正答率が落ち込む理由は、決して問題の意味がわからないとか計算ができないということではありません。子どものおよそ半数が「1.5÷0.6」なのか「0.6÷1.5」なのかで悩んでいるということを意味しているのです。この「計算ができないのではなく式が作れない」原因は、文章読解力の欠如ではありません。わかりやすく言えば、
「青いテープの長さは、赤いテープの長さの何倍ですか?」
↓
青=赤×○倍
と、和文英訳と同様に「文章を式に『翻訳』するイメージ」が取れていないことにあります。実はこれこそが「算数に必要な国語力」の正体であり、この「翻訳」する練習をおろそかにして「えっと、この場合は割り算だったなぁ」と先に解き方を探す子どもたちは、問題をどれだけ解いても状況が好転することはありません。その理由として、5年生の小数同士のかけ算「0.7×0.4」の正答率が56%と低く、平成10年より21ポイント低下し、「2.8」という誤答が最も多く、37%あった。という調査結果を挙げることができます。「0.3÷0.4」の正答率と、どうして違いがあるのでしょうか?
0.7×0.4=0.28 正答率 56%
0.7×0.4=2.8 誤答率 37%
算数に大切な翻訳力
私はこの原因として、「0.7×0.4」を「0.7の0.4倍」と読めているか、そして「0.4倍ということは元の数字より小さくなる」ということが意識できているか、この2点が怪しいからだと考えています。
まず「0.7の0.4倍」と読めない場合、これは「九九」の段階から「暗記に走った」ことが推測されます。実は「九九」を覚える段階でも「翻訳」する習慣が必要なのです。「2×3」を「2が3個」とイメージする練習ができていなければ、5年生で学ぶ割合の問題についていけなくなります。
次に「0.4倍ということは元の数字より小さくなる」を意識できているかどうか、これは「翻訳」する習慣の有無によって定着度が大きく異なってきます。言われてみれば誰でも「当たり前だ」と考えることなのですが、テープの問題を例に挙げれば「これは割り算だ」と考える前に、「0.6=1.5×○倍」という「翻訳」ができない人には、「○が1より大きいのか小さいのか」をイメージできません。逆に「翻訳」しておいてから割り算で処理をすれば、「1.5÷0.6」なのか「0.6÷1.5」で迷うということはあり得ないことなのです。
ですから、「0.3÷0.4」はできるのに「0.7×0.4」ができない子どもたちは、学校であれ塾であれ家庭であれ、この「翻訳」する習慣を定着させずに、こうしたイメージ力を必要とする途中経過を省略して「この場合は割り算で解けばいいんだよ」といった指導を受けている可能性が非常に高いわけです。だからこそ「0.7×0.4=2.8」としてしまう子どもが続出するのです。これは単なる「計算ミス」でもなく「計算練習不足」でもなく、もっともっと深い問題が根底にあることを、是非皆さんには知っておいていただきたいと思います。
翻訳力で誤答はなくせる
小学生でも中学生でも、算数や数学では「ありえない誤答」というものがあります。
速さの文章題で「マラソン大会」と書いてあるのにA君の速さを「分速40m」と書く女子。おかしいと思いませんか。これだと1500m走に30分以上かかることになります。ところが「翻訳」というクッションをおかずに、「文章を読む→式→答え」という習慣が、身についてしまっている子どもにはおかしいとイメージできないのです。同じように電車の速さを「時速900km」と書く子もいれば、車の速さを「時速7km」と書いてみたり(これでは自転車のほうが速い)。このように、算数・数学に必要な国語力、つまり「翻訳してから解く」習慣がないと、「明らかにおかしいことに(自分だけ)気づかない」という恐ろしい事態を招くのです。
たかが計算問題、されど計算問題。お子さんに計算練習をさせるときには、答えの正誤以外に「翻訳力」のチェックをしてあげてくださいね。
※参考資料「『計算の力』の習得に関する調査」総合初等教育研究所(平成18年9月)
vol.7 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2008年 10月号掲載