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Vol.84 お子さまの「中1ギャップ」に備える

 

 皆さんは「中1ギャップ」という言葉をご存知でしょうか。「中1ギャップ、親の66%が初耳」というコピーを最近目にされた方もいらっしゃるかもしれません。今回は、様々な原因が考えられる中1ギャップの要因のうち、学習面(とくに数学)に絞って、その原因と対策を考えていきます。

「中1ギャップ」って何だろう?

 「中1ギャップ」とは、小6まで問題なく小学校に通っていた生徒が、中学入学をきっかけに何らかの不適応を起こして不登校になってしまうことなどを指します。
 中学校の先生が小学校に出向いて子どもたちに授業をしたり、小中の先生方が定期的に話し合う場を設けたり、といった「小中接続」の連携を強めることでその解消を目指す自治体も増えてきたものの、多くの街では、子どもたちが小学校時代に抱えていた「学習面や生活面の課題」が積み残しや先送りとなってしまった場合に、中学校の先生方がそれらの状況を十分に把握できず、これらの課題を「強制リセットで再スタート」としてしまうようです。
 よって、これまでは小学校の先生方の努力で何とか消化できていた問題点もふくめて、中学入学をきっかけに顕在化してしまうことがあります。これを「中1ギャップ」と呼ぶのです。
 次に紹介する調査結果では、子どもたちが中学入学の前後に抱える最も大きな不安が「学習面」であることがわかっています。ここで我々大人が注意しておきたいのは、学習面に限って「子どもたちが感じる不安は再燃する(入学9か月後の数値が上昇している)」ことなのです。

中学入学前後の不安の有無(平成22年度)

  全体 学習 友達関係 生活
入学前 78.4% 66.7% 48.8% 40.1%
入学3か月後 59.3% 49.7% 17.6% 24.2%
入学9か月後 64.7% 57.9% 15.1% 25.6%

(不安が「たくさんある」「少しある」と答えた割合)
「平成22年度 中学校第1学年の生徒の適応状況調査(東京都)」より

 入学3か月後の学習状況についてもう少し詳しく紹介すると、
 ・入学前に「不安あり」と答えた生徒の62.7%が、継続して不安を感じている
 ・入学前に「不安なし」と答えた生徒の24.0%(およそ4分の1)が、新たに不安を感じている
という実態があるのです。
 入学前に感じていた不安が解消していく過程で初めて「中学校は楽しい」と感じられるはずですが、我々保護者が真っ先に心配する「子どもの友達関係や新生活」に比べて、明らかに学習面では「楽しい」と感じることができていない生徒が多くなっていることがおわかりいただけると思います。
 「中1ギャップ」という言葉だけ聞くと、「小6と中1の間に高い壁があって、その壁が原因で子どもたちが不適応を起こしてしまう」というイメージを持ちますが、学習面においては「問題が表面化するのは中学校入学後だったとしても、その要因は小学校段階の学習履歴からつながっている」という実態があることを、この機会に知っておいてください。

中1生の敵、それは数学?

 それでは、学習面に絞ってもう少し詳しく見ていきます。子どもたちが感じる「教科ごとの好き嫌い」に関する調査結果をご覧ください。

教科の好き嫌い(単位:%)

  小4 小5 小6 中1 中2 中3
算数・数学 69.0 50.6 55.0 28.5 36.7 36.7
国語 54.0 48.0 46.0 39.9 40.6 43.2
英語 40.9 40.3 29.9
理科 75.1 60.2 52.9 54.5 52.1 52.0
社会 46.0 43.5 51.8 53.2 46.5 37.9

(「とても好き」「まあ好き」と答えた割合)
「平成16・17年度文部科学省委嘱調査「義務教育に関する意識調査」報告書より

 小6と中1の数値に注目すると、算数・数学の下がり方( 55.0%→ 28.5%)が際立っていることがわかります。小6の段階では半数以上の子どもが算数に対して好感を持っていたにもかかわらず、わずか1年でこれほど数値が減少してしまうということは、「この間に何か問題点がある!」と考えるのが自然でしょう。この問題点を正しく把握し、適切な時期に適切な点検を施すことが「算数・数学における中1ギャップ」を乗り越えるポイントとなります。では、何を・どのように点検すればよいのでしょうか。
 ここで、皆さんが中学1年だった頃を思い出してください。新中1生が最も苦しむのが「文字と式」という単元です。小学生時代にも□や○を使った式が登場していますから、処理方法だけを考えるのであれば、その先の単元である「方程式」まで含めても、小学校時代にその土台は学習済みといえます。しかしながら、子どもたちがつまずくのは「計算」ではなく「小学校では学ばない決定的な違い」なのです。
 それは「文字を使って抽象的に考える」ことです。算数では「リンゴが5個」「100円の3割」のように、できる限り具体的に数値で考えますが、数学になると「リンゴがx個」「100円のa割」となることを思い浮かべてください。難しい言い方をすれば「一般化」といいますが、これを理解するのに時間がかかる子どもは大人の想像以上にたくさんいるものです。しかも、小学校時代に学習した「割合」「比」の操作を多用しますから、これらを自在に扱えない場合には二重の苦しみとなってしまいます。「文字と式」は単なる計算問題として難しさを感じるのではなく、その表現の仕方や考え方を小学校時代とは切り替えなければならないところが難しいのです。
 よって、「算数・数学における中1ギャップ」を防ぐためには、小学校時代の学習習慣がポイントになります。やってはいけないことはたった一つ。「安易に公式を暗記して、それにあてはめて答えを求める」ことです。割合、濃度、速さといった単元では、答えを導くために「この公式にあてはめて解きなさい」という指導が行われていることも少なくありません。
 大切なことは、これらの公式の「成り立ち」をしっかり理解することです。「100円の3割は? 5割は? 7割は?」と問われた時に、ただ答えを出すだけでなく、自分なりに考える習慣をつけておくことこそが「じゃあ、100円のa割は?」と聞かれたときに役立つのです。前述の「一般化」とは簡単にいえば「自分でルールを見つけて公式化する」ことです。
 テストで丸をもらうことも大切ですが、解き方だけを暗記して得た正解と、自分の経験から見つけた法則にしたがって得た正解では、少しずつではありますが差がついていくのです。

vol.84 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2015年 4月号掲載

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