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Vol.94 中学入試で増える「英語入試」のいま

 

 いよいよ2016年度の中学入試が始まります。ある調査によると、今年中学入試において「英語」で受験できる私立中学は、首都圏では前年に比べてほぼ倍増というから驚きです。今回は、今後ますます増えることが予想される「英語入試」について紹介していきます。

増え続ける「英語入試」の目的は?

 2016年度の中学入試において、帰国生ではない受験生になんらかの形で「英語」での受験を認める私立中学は、2015年度の33校から64校(男子校4、女子校23、共学37)に増えています。国語・算数を必須として、英語・社会・理科から1教科選択の計3教科入試とする学校や、これまで通りの4教科入試に加えて国算英の3教科でも受験できる入試形態を増やした学校など、使い道は様々です。
 では、どうしてここにきて「英語」を入試に取り入れる学校が増えてきたのでしょうか。まず考えられるのが「大学入試改革」です。現中1が大学受験をするときから始まるといわれている、現在の大学入試センター試験に代わる新テストでは、英語においてはライティングやスピーキングが重視されることが予想されるため、新しく求められる資質を持った生徒を入学させることで他の生徒への模範・刺激の役割を期待するのです。現小5・6年生は、学校の授業において「外国語活動」は必修で、英語を学習していますが、指導者のスキルや経験の問題もあって、その到達度は学校・クラスによって大きく違っていることが予想されます。私立中学に入学してくる生徒たちの英語レベルも千差万別ですが、クラスを引っ張るほどの実力を持った生徒の存在を基準とすれば、「○○さんを目標にして頑張りなさい」とする目標設定も可能ですから、中1のスタートから英語の授業レベルを高くすることができるのです。
 次に考えられるのはさらなる変化への準備です。今後の英語教育は「グローバル化に対応した英語教育」の方針のもと、さらなる改革が行われる見込みです。2020年を目途として、小3・4年生では英語を週に1 ~ 2時間、5・6年生では週3時間程度に増やす方針がありますから、今から「英語入試」を始めて試行錯誤しておくことで、2020年前後におこる大改革の時に万全を期せるようにプロジェクトを動かしているケースも多いことでしょう。
 事実、2016年度の「英語入試」においては、英語の実力をペーパーテストで測るだけではなく、面接やグループワークで「英会話」を課して、受験生のリスニングやスピーキングの能力を測ろうとする動きも見られます。大改革の際には中学英語の授業は英語オンリーとなることが予想され、高校の授業では英語オンリーはもちろんのこと、英語によるスピーチや議論も導入されるかもしれません。学校側はここまで見越した上で、中学に入学してくる生徒たちに「どこまでの英語力を課すべきなのか」を今後数年間で見極めようとしているのです。 こうした「英語大改革」の動きはすでに大学では始まっていて、英語のみで講義を行う授業が少しずつ増加しているといいます。大学生に求められる英語のスキルが確定すれば、そこから逆算して高校・中学・小学の英語授業の質を決めることができますが、私立中学の多くはそれを待たず、先手を打って「英語力強化」を最優先課題として取り組んでいるのでしょう。おそらく重要視される「英語を使ってのコミュニケーション」への対応にどれだけの労力と時間を割くことができるのか、もしかするとこれが5年後の生徒募集に直結するかもしれないという危機感が、ここにきての「英語入試」につながっているのです。

「英語入試」の気になる中身は?

 「英語入試」には2つの大きな特徴があります。1つ目は受験生確保のための「優遇制度」としての利用です。例えば「英検4級以上」などの規定を設けて、それをクリアしている生徒に対しては減免制度を適用したり、あるいは当日の試験で得点を加算したりするケースも見受けられます。出題レベルの目安(例:英検3級程度)を提示する学校も同様の傾向があり、共通しているのは、こうした制度によって「これまでであれば中学受験をしていなかった層」の取り込みを狙っていることです。中学受験塾ではなくて英会話スクールに通い続けていた生徒、英検などの検定に合格はしているものの本格的な受験勉強はしてこなかった生徒であっても、英語で受験できるとなれば私立中学を進学先の選択肢に加えられるようになります。「算数は嫌いだけど、英語は好きだからもっと力をつけたい」と考える小学生や保護者にとってもメリットは大きく、入学者減少に悩む学校を中心に今後こうした制度が注目されるでしょう。
 2つ目は、ますます加速する「グローバル化」に適応できる人材育成を目指して、最初から「高いハードル」を課すケースです。
 広尾学園中学の「AG入試」では、出願資格に「英検2級以上、または同等以上の英語力を有する」とあります。もちろん帰国生も国内の小学生も同条件で試験が行われます。英語の出題には、長文やポエム、エッセイが登場し、すべて記述式とのことですから、おそらく公立高校の英語より難しいでしょう。このコースでは 「社会の一部と国語は日本語で行い、そのほかの教科は基本的に英語で授業を行う。優秀な専任の外国人教員をそろえ、各教科の専門教育を行っていく」 とのことで、受験者は毎年倍増しているそうです。また、将来の進路についても「SAT(=アメリカの大学に出願する高校生のための学力テスト)で高得点を取ることができるレベルなので、進路は国内・海外大学どちらも可能。海外大進学もしっかりとサポートする」 と、我々の時代との違いに驚かされます。
 東京都市大学付属中学が2015年度入試より導入した「グローバル入試」では、英検3級・準2級レベルを中心とした難易度の高い英語に(長文読解もあり)、算数は一般入試と共通で、作文では日本語の長文読解と400字の文章を書くことを求められます。この学校では英語の授業時数が週7時間もあり(公立中学は週4時間)、放課後も英検対策講座などが用意されていて、中高6年間で高いレベルの英語力を身につけるシステムが人気を集めています。

 小学校の授業に英語が導入されたことがきっかけとなって、我々の時代とは比べものにならないほど幼児~小学生のお子さまを持つ家庭で英語教育への意識が高まっていると、あちこちで耳にします。それに伴い、今後ますます「高い英語力を持つ小学生」は増え、その子どもたちを公立・私立を問わず各中学が取り合う構図が近い将来表面化することでしょう。有名私立中学が導入すればその勢いは一気に加速するはずです。「英語入試」の実態は学校によってバラバラですが、あと5年もすれば「グローバル教育」を視野に入れた高いレベルの「英語入試」が各地で展開され始めると思われます。個人的には「作文も英語も、そして算数もどれも優劣をつけることのできない重要な課題です」と主張したいのですが、私の妻には「そりゃ英語でしょ」と一蹴されてしまいました。「英語入試」の未来は、むしろ小学生のお子さまを持つお母さま方の志向で決まるのかもしれません。

vol.94 ブンブンどりむ 保護者向け情報誌「ぱぁとなぁ」2016年2月号掲載

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